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自 由 貿 易 協 定 の 直 接 的 効 力
  



 リストマーク EC裁判所判決 
       Case 104/81, HZA Mainz v Kupferberg [1982] ECR 3641


1. 事案の概要

 事件当時のドイツ法によれば、通常のブランデーに比べ、デザートワインの税率は軽減されていた。Kupferberg (クッパーベルク)社が当時、まだEUに加盟していなかったポルトガルからドイツにポートワインを輸入したところ、製品は、デザートワインとしてみなされず、高率の税金が課されることになった。Kupferberg は、この措置は輸入品を差別的に扱うものとして国内裁判所に提訴したが、根拠規定として、EC条約第31条および第90条、また、E(E)Cとポルトガル間で締結されていた自由貿易協定(OJ 1972 L 301, p. 165) 第21条を指摘した。同第21条によれば、同一および類似商品の直接的または間接的差別は禁止される。

 受訴裁判所は、自由貿易協定第21条と、EC条約第31条および第90条の内容は実質的に同じであり、個人は前者を直接、援用して提訴しうると判断した。また、輸入されたポートワインは、ブランデーではなく、デザートワインとして捉えるべきであり、後者として課税すべきと判断した。

 この第1審判決を不服として、ドイツの関税当局が控訴したところ、控訴審は手続を中止し、同協定の効力(直接的効力等)に関する先行判断をEC裁判所に求めた。



2. 判決

(1) 自由貿易協定の直接的効力

 E(E)Cとポルトガル間で締結されていた自由貿易協定は、その直接的効力について定めていないため、EC裁判所が判断しうることになるが、協定の法的性質や体系を考慮すると、個人は協定内の規定を援用し、裁判所に訴えを提起しうるものと解される(paras. 17-22)。

 なお、EC裁判所は、ポルトガルの裁判所が直接的効力を否認するにしても、そのことより直ちに、条約義務の履行に関し、相互性が保たれなくなるわけではないと判断している(para. 18)。



リストマーク 条約義務の履行と相互性の原則

 国内法とは異なり、国際法は実効的な執行制度を持たない。そのため、相手国が条約義務を適切に履行する場合に限り、自らもこれを行うとする相互性は、条約の履行を確保する上で、重要な役割を果たす。

 Kupferberg 事件で問題になった自由貿易協定も相互性の原則に立脚していると解されるが、EC裁判所は、ECでは直接的効力が認められ、他方、ポルトガルではこれが否認されることになったとしても、それゆえに、相互性が保たれなくなるわけではないと判示している。例えば、仮に、相手国では直接的効力が否認されようとも、その他の方法によって条約の履行が確保されるのであれば、ECのみが履行するといった一方的な状況は生じないことになる。

 なお、相互性の原則は、条約義務の履行に関し適用され、直接的効力の有無(つまり、ポルトガルでも付与されるから、ECでも付与される)に関して適用されるものではない。




 また、確かに、同協定は例外規定を置いているが、その適用条件は厳格であることを指摘している(para. 21)。

 次に、EC裁判所は、第21条の履行が無条件で、かつ十分に明確に定められているかどうかについて検討し、これを肯定している。

   参照 直接的効力の要件


 以上の点を踏まえ、EC裁判所は、第21条の直接的効力を肯定している。



(2) 自由貿易協定第21条とE(E)C条約第95条第1項の内容

 次に、EC裁判所は、自由貿易協定第21条が定める差別禁止は、E(E)C条約第95条第1項と同様に解釈すべきかどうかについて検討し、これを否定している。なぜなら、確かに、両規定は、文言的に異ならないが、自由貿易協定とEC条約は目的を異にするためである。


(3)ドイツの租税措置の適法性

 ドイツ国内にはポートワインに相当するワインは存在しないため、輸入製品を不当に差別するものとは解されない(つまり、差別の対象が存在しない)。関税当局がポルトガル産のポートワインに高い税率を適用したとしても、それによって、自由貿易協定の目的に反するものではないため、国内措置は協定に違反するとは解されない。



       
参照 参照  WTO諸協定の効力