一般に、国家の権限は制限されず、様々なことをなしうる(参照)。これに対し、EU(EC)はありとあらゆる権限を有するわけではなく、加盟国より与えられた権限のみを行使しうるにすぎない(個別的授権の原則)。
ECに与えられた政策権限は こちら
加盟国からECへの権限委譲の態様は、以下のように分類しうる。
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ECに権限が完全に委譲されており、加盟国はもはや権限を有さない場合(つまり、ECが排他的権限を有する場合)
この場合には、加盟国はもはや独自の措置を講じることはできないが、EC条約や第2次法により例外が認められることがある(参照)。
ECに排他的権限が与えらているかどうか、EC条約は明瞭に定めていないため、解釈で補う必要があるが、従来、EC裁判所は、関税・通商政策 の分野でのみ、これを肯定している(Opinion 1/75 Locale Kosten [1975] ECR 1355)。
A
ECに権限が委譲されているが、それが行使されるまでは、加盟国が独自の措置を講じうる場合 例えば、環境政策、社会政策、また、租税政策(間接税)の分野において、ECには、国内法を調整する権限(統一ではない)が与えらているが、ECがこの権限を行使するまで加盟国は独自の措置を講じることができる。また、ECが特定の措置を講じていない限りは、加盟国は第3国と条約を締結することができる(参照)。もっとも、加盟国は、将来、制定されるEC法の実効性を阻害するような行為を慎まなければならない(参照)。
B
ECに権限が完全に委譲されているわけではなく、基本的な権限は加盟国の下に残っている場合 例えば、教育・文化政策、経済政策、また、発展援助政策の分野において、ECは国内政策を調整または支援しうるに過ぎない。そのため、ECが具体的な措置を講じているか否かにかかわらず、加盟国は独自の政策を策定・実施することができる。なお、ECの措置と国内措置が矛盾するときは、前者が優先的に適用される。同様のことは、競争法の分野においても該当する(EC条約第83条参照)。
前掲のAとBのケースにおいては(つまり、ECに排他的権限が与えられていない場合)、補完性の原則 が適用される。 欧州憲法条約 や リスボン条約 は、EUの権限について明瞭に定め、加盟国との権限配分を明確にしている。