欧 州 議 会 の 議 席



1. 議席配分の不均衡

 従来より、欧州議会の議席は、各国の人口を参考にして、加盟国ごとに振り分けられているが(EC条約第190条第2項)、その配分は加盟国の人口に適切に比例していないとして批判されてきた。例えば、ルクセンブルクとドイツには、それぞれ6および99議席割り当てられているが、これを人口比で見ると、ルクセンブルクでは、67万人の市民の中から議員が1人選出されるのに対し、ドイツの場合は83.2万人に1人の割合であり、両者間には実に12.4倍の格差が存在する(参照)。


ポイント

 EEC設立当初の議席配分は、欧州評議会の集会の議席数を基に定められた。また、最も人口の少ないルクセンブルクの3大政党がそれぞれ少なくとも1議席獲得しうるようにするため、同国の議席は6と定められたが、これは現在まで変更されていない。


 このように従来の議席配分では、高人口国が不利に扱われていたため、定数是正問題は、大国、とりわけ、ドイツにおいて活発に議論されてきたが、そこでの主たる争点は、欧州議会の議席配分はドイツ基本法(憲法)上の選挙権の平等(Wahlrechtsgleichheit)に反しないかどうかであった。なお、EC法上の問題を国内憲法上の原則に照らして検討することに問題があることは言うまでもない。なぜなら、これを認めると、EC法は各国で異なって解釈・適用され、適用の統一性や実効性を欠くことになるためである。もっとも、国内法の観点からすれば、国内憲法(特に不可侵と定められた規定)の遵守が要請されるが、欧州統合過程において、国内憲法上の原則は、多かれ少なかれ修正されなければならない。EU加盟ないしEUへの主権の委譲も国内憲法上、認められているため(ドイツ基本法第23条、またEU条約第52条第1項参照)、EUEC法に合わせた憲法解釈は、国内憲法の要請するところでもある。従来、ドイツ連邦憲法裁(BVerfGは、国内憲法上の規定(基本権に関する規定)がEC法によって侵害されることがあってはならないと判断しているが、もっとも侵害されてならないのは、規定(基本権に関する条文)の本質的要素のみである。従って、憲法規定のある程度の調整は容認されている

選挙 ところで、オーストリア、スウェーデン、フィンランドおよびノルウェーのEU加盟について定めた協定(加盟協定)では、これらの国の議席数も確定されているが、ドイツに著しく不利に定められた議席配分は、ドイツ基本法第3条第1項の一般平等原則に反するとして、ドイツ連邦憲法裁判所に訴えが提起された。この抽象的憲法訴訟において、連邦憲法裁第2法廷の第3部(Kammer)は、原告の訴えには憲法違反の事実が示されていないとして訴えを却下しているが、欧州議会の議席配分は、一般平等原則や選挙権の平等(基本法第28条第2項および第38条第1項)に反しないとも判断している。その主たる理由は、@EUは主権国家の結合体であるため、国内選挙に関する原則は適用されないことにあるが、その他、A基本法上の選挙権の平等は、一国民の間に差別を設けないことを保障するものであり、EUは統一された国民(単一の国民)を持たないこと(そのため、選挙権の平等は保障されない)、B現段階において欧州議会は補助的な民主的統制機関にすぎず、EUの民主的コントロールは、主として、加盟国の議会を通じてなされる(そのため、選挙権の平等は、国内選挙の際に保障されておればよい)、また、C欧州議会の議席配分は、国際機構における各加盟国の形式的な平等や、各国の人口のばらつきを考慮して定められていることを指摘している。

 上掲の判断が下される以前にも、ドイツ連邦憲法裁判所は、欧州議会選挙における5%条項の合憲性について判断したことがある。上掲の@の判旨はこれに合致しないようにも解されるが、5%条項について定めているのは、ドイツの欧州議会選挙法(すなわち、国内法)であり、国内法が審査の対象になっているのに対し、本件では、EU加盟協定(すなわち、EU法)で確定された欧州議会の議席配分が審査の対象になっている。従って、両者は異なる問題である。国内法の憲法審査が許容されるのとは異なり、EC法上の問題を国内憲法の観点から判断してはならないという点において、上掲の判旨は妥当である。本件決定とは異なり、かねてから連邦憲法裁は、EUEC法に関する自らの審査権を留保しているが、これは明らかにEUEC法に違反し、問題である。なお、欧州議会の議席配分の不均衡は明らかであるため、本件でドイツ連邦憲法裁判所が違憲判決を下していたとしたら、EU全域に大きな衝撃を与えたことであろう。

 次に、欧州議会選挙には「単一の国民」ではなく、複数の国民が参加するため、ドイツ基本法の平等原則は適用されないという判断(前掲の判旨のA)は短絡的であることを指摘しなければならない。これによるならば、ドイツ国内で、外国人も投票しうる選挙が実施される場合、そこでは選挙権の平等は保障されなくてもよいことになる。なお、EUには「単一の国民」は存在しなくとも、「統一された選挙民」(ein Wahlvolk〔単数形)は存在している、すなわち、欧州議員は加盟国の国民の代表ではなく、「統一された選挙民」(EU市民)の代表であるとして、前掲判旨を批判する見解もある。しかし、それゆえに、ドイツ基本法(憲法)に照らし、欧州議会の議席配分不均衡について判断してもよいことにはならない。また、ドイツ連邦憲法裁判所はEUEC法の適法性について判断しえない(上述参照)。 

 ところで、本決定は、議席配分の不均衡は国内法(ドイツ基本法)に反しないことを確認したまでにすぎず、EUECレベルでこれをどう判断すべきかどうかは別問題である。EUレベルでも、従来の議席配分は、第1次法上の「選挙権の平等性」や民主主義原則に反すると考えられてきたが、多数説は、選挙権の平等に反する状態も、欧州議会の権限が極めて限定されていることに鑑み、現時点では正当化される、または、ECは規模の著しく異なる多数の国々で構成されていることに鑑み、常に正当化されると捉えている。後者の見解は特に説得力があるが、さらに国際機構における全加盟国の平等の原則や、少数派保護の要請などを考慮すると、従来の議席配分もあながち不当であるとは言えない。

 

 ニース条約 に基づき、議席配分は修正され、大国に不利な票数配分は幾分、是正されているが、議員定数の不均衡は今後も存続する。従来は、欧州議会の権限が限定されていることに鑑み、1票の重みの格差を特に問題視しない学説もあったが(前述参照)、アムステルダム条約に基づき、同議会の権限がさらに強化されたことを考慮すると、修正されるべきであろう。もっとも、その際には、小国の利益を適切に保護し、かつ総議席数の上限にも留意しなければならないため、議席の配分は困難である。なお、将来、議席配分を変更する場合には、加盟国の国民が適切に代表されるようにしなければならないという規定が新たにEC条約第190条第2項に挿入された。この規定に関しては、以下の点を指摘すべきであろう。第1に、適切な代表という要件の内容は定かではないが、各国間の規模の相違を考慮すると、国民数は基準になりえないであろう。第2に、この規定より、欧州議員は、「EU市民の代表」ではなく、「加盟国の国民の代表」であるとも読み取れるが、加盟国の国民数を重視することは、欧州議会選挙には、他の加盟国の国民も参加しうるという現行制度(EC条約第19条参照)の趣旨に合致していない。

 

2. 定数の上限

 アムステルダム条約(199710月制定)は、欧州議会の定数を700に限定していたが、ニース条約(200012月制定)はこれを732に修正している(EC条約第189条第2項)。定数が700を上回るとすれば、議会の円滑な運営に支障をきたすとされ、欧州議会自身も上限の設定を望んでいたが、従来の議席配分を概観すると、EU拡大が実現した場合、700議席に抑えることが容易でないことは明らかであった。12ヶ国の新規加盟を想定していたものの、732議席 に止めることができたのは、従来の加盟国(最も人口の多いドイツと、最も人口のス少ないルクセンブルクを除く)が自らの議席の削減に同意したためである。もっとも、2007年元旦より議席数は785に引き上げられた(現行制度)。再び削減されるのは、次期選挙後(2009年6月後)のことであるが、定数は732より4増え、736 となる。

 なお、欧州憲法条約は、2009年以降の定数を750に限定している。また、各国には少なくとも6議席、また、多くても96議席割り当てられるとする。各国の議席数は確定されていないが、これは、欧州議会の提案と承認を得て、欧州理事会が決定すると定める(I-20条第2)。

 ・ リスボン条約による改正については こちら


リストマーク  現在の議席配分

 15ヶ国体制時の機構制度については こちら

 25ヶ国体制時の機構制度については こちら

 27ヶ国体制(ニース条約制定時)の機構制度については こちら

 27ヶ国体制(ニース条約、2009年以降)の機構制度については こちら

 欧州憲法条約による改正については こちら

 リスボン条約による改正については こちら



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