欧州議会の立法権限が制限されているのは、加盟国がECの政策決定を牛耳ろうとしているためである。つまり、加盟国政府の代表で構成されるEU理事会(EC条約第203条第1項)に政策決定・立法権限を与え、加盟国がこれを統制できるようにしている。加盟国の重大な利益に関わる案件については、理事会は全会一致でしか決議をとることができない(つまり、すべての加盟国は採択を阻止することができる)。
他方、欧州議会の議員は、EU市民によって直接選出され、加盟国(またEU市民)の見解に拘束されない。そのため、理事会から議会に立法権限が委譲されれば、加盟国の見解に反する政策が決定されかねない。また、そもそも、EU理事会で認められている全会一致制度は、大勢の議員で構成される議会にはなじまないため、各国は自国の重要な利益に反する議案の採択を阻止しえなくなる。それゆえ、主たる立法機関がEU理事会であることは支持しえよう。なお、欧州議会の立法権限が強化されるにつれ、補完性原則の重要性も指摘されるようになっている。
欧州石炭・鉄鋼共同体条約は、欧州議会に統制権限を与え(第20条)、欧州原子力共同体条約は、さらに、諮問権限を認めているが(第107条)、EC条約第189条は、特に触れていない。これは、議会の権限が次第に強化されていることを反映している。
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