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 欧 州 議 会 の 性 格



議会 EC条約第189条は、欧州議会はEC加盟諸国の国民(諸国民)の代表で構成されると定める。従って、EC条約上、欧州議会は、欧州市民の代表機関としてではなく、加盟国の国民の代表機関として捉えるべきである。このことは、第190条第2項からも裏付けられる。確かに、1993年11月発効のマーストリヒト条約に基づき、他の加盟国に居住する者(EU市民)は、その国で実施される欧州議会選挙に投票し、また、立候補することが可能になった(EC条約第19条〔参照〕)。そのため、加盟国の国民の代表機関としてではなく、EU市民の代表機関としての欧州議会の性格が強まっているが、もっとも、上述したEU市民の選挙権は、EU市民権の創設という目的の他に、居住地の違いに基づき、自国民が差別されないようにするという趣旨で設けられている。すなわち、この制度は、例えば、ドイツ国民であれば、国内に住んでいようと、フランスに住んでいようと、欧州議会選挙において選挙権を行使しうるようにすることを(も)目的としている。従って、このような側面を強調するならば、この制度は、他の加盟国の国民にも選挙権を与え(欧州議会選挙をEU市民の選挙と位置づけ)るというよりも、他国に滞在する自国民にも選挙権を保障することに意義がある。なお、自国以外で投票または立候補する者が増えれば、その国で選出された議員は、その国の国民の代表ではなく、EU市民の代表と捉えることも可能である。これもまた、EU市民の選挙権創設の目的の一つにあたるが、このような理想に現実は追いついてない。

 従来、欧州議会選挙は各加盟国ごとに、それぞれの国内法に基づき実施されているため(参照)、純粋な国内選挙と欧州議会選挙との区別は有権者にとってさほど重要でないとも言える。他方、立候補する側にとっても、欧州議会選挙独自の選挙テーマを見出すことは困難であろう(2004年の選挙について)。このような観点から、欧州議会を「EC」の民主的統制機関として捉えることが適切かどうか疑問が生じる。

 このような問題の他に、欧州議会を「議会」として捉えうるかという問題もある。これは、主として、欧州議会の立法権限が弱いことから生じる問題であるが、特に、1987年発効の 欧州単一議定書 以降、同議会の権限は次第に強化されている。現行EC条約は、共同決定手続の適用範囲を拡大し、欧州議会の立法権限をより広い範囲で認めているが、国内議会に比べると、欧州議会の権限は依然として弱い。また、従来通り、法案の作成権は原則的に委員会にのみ与えられており、欧州議会は委員会に法案の提出を請求しうるにすぎない(EC条約第192条第2項)。議会のこの要求に委員会は拘束されないが、委員会の不作為に違法性があると解されるときは、欧州議会はEC裁判所に提訴しうる(第232条)。




リストマーク 欧州人権条約の枠内における議論 リストマーク


 欧州議会を「立法機関」として捉えることが適切かどうかは、例えば、欧州人権委員会(European Commission of Human Rights)によって検討されてきた。そのきっかけとなったのは、欧州人権条約の第1議定書第3条は「立法機関」(“legislature”)の選挙に際し、自由・秘密選挙の実施を締約国に義務づけているが、欧州議会は同規定における「立法機関」に該当し、自由・秘密選挙が実施されなければならないかどうかを争う訴えが提起されたことである。1970年代、欧州人権委員会は、欧州議会を「立法機関」として捉えておらず、この判断は、1987年6月に 欧州単一議定書 が発効し、協力手続 が導入された後も変更されなかった。この見解が修正されたのは、1993年11月に マーストリヒト条約 が発効し、共同決定手続や欧州委員会の不信任決議権が導入された後のことである(Matthews v. UK事件)。なお、欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)も、この事件において、確かに欧州議会の権限は限定されているが、ECにおいては最も民主的要素の強い機関(民主的統制機関)であり、第1議定書第3条の意味における「議会」とみることができると判断した。もっとも、欧州人権委員会および同裁判所は、締約国の国民の選挙権を保障し、民主主義原則の適用を徹底させるために、欧州議会を「立法機関」(あくまでも前掲議定書第3条の意味における「立法機関」)と捉えているのであり、国内議会に匹敵する真の立法機関とみなしているわけではない点に注意を要する。なお、両機関の判断によるならば、欧州議会は「立法機関」というよりも、むしろ「民主的統制機関」(EUの政策を民主的にコントロールする機関)として捉えるべきであろう。




 欧州議会の立法権限が制限されているのは、加盟国がECの政策決定を牛耳ろうとしているためである。つまり、加盟国政府の代表で構成されるEU理事会EC条約第203条第1に政策決定・立法権限を与え、加盟国がこれを統制できるようにしている。加盟国の重大な利益に関わる案件については、理事会は全会一致でしか決議をとることができない(つまり、すべての加盟国は採択を阻止することができる)。

 他方、欧州議会の議員は、EU市民によって直接選出され、加盟国(またEU市民)の見解に拘束されない。そのため、理事会から議会に立法権限が委譲されれば、加盟国の見解に反する政策が決定されかねない。また、そもそも、EU理事会で認められている全会一致制度は、大勢の議員で構成される議会にはなじまないため、各国は自国の重要な利益に反する議案の採択を阻止しえなくなる。それゆえ、主たる立法機関がEU理事会であることは支持しえよう。なお、欧州議会の立法権限が強化されるにつれ、補完性原則の重要性も指摘されるようになっている。

 欧州石炭・鉄鋼共同体条約は、欧州議会に統制権限を与え(第20条)、欧州原子力共同体条約は、さらに、諮問権限を認めているが(第107条)、EC条約第189条は、特に触れていない。これは、議会の権限が次第に強化されていることを反映している。



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