EC裁判所によるEC法の発展 

   1. はじめに

 

 EC裁判所は、EC法を解釈し、また、その適法性について判断する役割を負っている(EC条約第220条参照)。その判例を通し、EC法の適用上の問題は除去され、法秩序が維持されているが、その他に、@EC法と加盟国法の関係について、また、AEC法と国際条約の関係について、EC裁判所は重要な判断を下している。以下では、@の点について説明する。

 

  2. EC法の効力

 加盟国(ないし加盟国法)から見た場合、EC法は国際法にあたる。国際法(EC法)と国内法の関係は明らかではない場合が多く、EC条約や加盟国憲法(リストマーク 例外)もこの点について明瞭に定めていない。もっとも、EC裁判所によってこの問題は解決されている。
 


リストマーク 国内における国際法の効力

  国内法と国際法(条約)が矛盾抵触する場合、どちらが優先するであろうか。これは、国際法の国内効力の問題であるが、国内憲法は明確にさだめていない場合が多い。もっとも、オランダ憲法第94条やアイルランド憲法第29条第4項第3款第2文は国際法(EC法)が優先する旨を明らかにしている。




@ EC法の優先

 1964615日に下された判決(Costa/ENEL事件)の中で、EC裁判所は、EC条約と加盟国法が矛盾する場合は、前者が優先的に適用されると明瞭に判示した。その理由はいくつか挙げられ、説得力に欠けるものもあるが、重要な点は、国内法がEC法に優先するとすれば、EC法の実効性effet utile) が害されるということである。その他の判例においても、effet utile は、キー・ワードとして用いられている。その他、全加盟国において、EC法の適用を統一するといった要請も働いている。



 EC法が国内法に優先する理由  GO


  EC裁判所は、さらに、EC法は、加盟国の憲法(基本的人権に関する規定)にも優先すると判断した(Simmenthal II 判決、Case 106/77 [1978] ECR 629)。これは、各国より大きな批判を浴びた。これを受け、EC裁判所が各国の憲法(基本権)を尊重するようになったため、この問題は解消された。しかし、マーストリヒト条約の批准に際して再び問題視されるようになった。EUの権限が強化されればされるほど、この問題は、各国にとってますます重要となる。

 

A EC法の直接適用性

 国際法と国内法の関係については、前述した、両者が矛盾抵触する場合の優先関係に関する問題の他に、以下の問題も生じる。

 国際法規は国内でも直ちに適用されうるであろうか(一元論)、それとも、国内法に編入または置き換えられた後にはじめて適用されることになるであるか(二元論)。この点について、EC条約は次のように定めている。
 

「規則」は加盟国でも直ちに適用される(第249条第2項)。

「指令」は加盟国によって国内法に置き換えられなければならず(第3項)、置き換えられた国内法が適用される。

 ところが、EC裁判所は、「指令」であれ、その内容が無条件であり、 かつ、十分に厳密に規定されている場合は、直接的に適用されると判断している。そのため、加盟国が指令を所定の期間内に国内法に置き換えなかった場合において、前掲の条件が満たされると、指令が直接的に適用される。この指令に基づき個人に権利が与えられる場合、個人はこれを法的根拠にして、加盟国に訴えを提起することができる(Case 8/81, Becker [1982] ECR 53, paras. 24-25)。

 

B EC法の直接的効力

 EC法の直接的効力とは、個人が、EC法を直接援用して、例えば、加盟国に対して訴えを提起しうる効力を指す。Aでも述べたように、「規則」は直接適用されるから、直接的効力も有する。すなわち、個人は、「規則」違反を理由に、加盟国に対して訴えを提起することができる。 

 これに対し、「指令」は通常、直接的効力を有さないが、Aで述べた条件が満たされる場合には、これが認められる。例えば、EU理事会指令(80/987/EEC, OJ 1980, L 283, p. 23)は、雇用者の倒産から労働者を保護する制度(基金を設立し、会社の倒産に際しては、この基金から未払い給料が支払われるとする制度)の導入を加盟国に義務付けていたが、イタリア政府はその履行を怠った。そのため、F氏は、勤めていた会社が破産した際、未払い給料を得ることができなくなった。もっとも、EC裁判所によると、この指令が定める労働者の保護は無条件であり、また、十分に厳密に定められているので、直接的効力を有し、F氏には、指令より直接、権利が与えられると判断した。しかし、実際に保護制度が設けられていない以上、F氏はこの権利を訴求しえず、加盟国政府に対しても、未払い給料の支払いを請求しえないが、制度導入を怠ったイタリア政府に対して、損害賠償を請求しうると判断した。この判旨には、EC法違反(指令の置き換え義務違反)に対する加盟国への制裁の意味も含まれている(Joined Cases C-6/90 and C-9/90, Francovich [1991] ECR 5357, paras. 10-46)。



 


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