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“The new Brussels II Regulation
  


 EU内では国際結婚は珍しくないが、このような夫婦や、同じ国に居住しない夫婦が離婚を希望する場合、どの国の裁判所に離婚を申し立てればよいであろうか。また、ある加盟国の裁判所が下した離婚判決は、他の加盟国でも効力を有するであろうか。

 同様に、国籍の異なる両親の離婚に際し、未成年の子供の親権等について裁判所の判断が必要になる場合、どの国の裁判所に申し立てればよいか、また、ある国の裁判所が下した判決は、他の加盟国でも承認・執行されうるかといった問題が生じる。離婚する両親と子供が同じ国に住んでいない場合にも同様の問題が生じる。


 「自由、安全および正義の空間」を創設し、域内における人の移動の自由 を促進するため、また、子供の福祉の観点から、EUは上掲の問題についても、規則(Council Regulation)を制定している(EC条約第61条第65条、第67条参照)。



リストマーク Council Regulation No. 1347/2000

 2000年5月29日、EU理事会は、規則 No. 1347/2000 (OJ L 160, 19) を制定し、婚姻事件と離婚の際の親の責任に関する紛争の国際裁判管轄と、判決の相互承認・執行について定めている根拠条文は、EC条約第61条第c号第67条第1項(立法手続規定)である。この規則は、2001年3月1日に発効しているが(なお、デンマークでは適用されない)、後述する 新規則 No. 2201/2003 の発効に伴い、現在は効力を失っている。


リストマーク Council Regulation No. 2201/2003

 フランスのイニシアチブに基づき、規則の改正作業が進められ、2003年11月27日には、新しい規則 No. 2201/2003 (OJ L 338, 1)が制定された。根拠条文は、同様に、EC条約第61条第c号第67条第1項(立法手続規定)であるが、新法は2005年3月1日に発効している。なお、デンマークでは、同規則は適用されない(EC条約第69条参照)。

 離婚について、新旧規則で異なる点はないが、離婚の際の両親の子供に対する責任に関しては、以下のように改正されている。

従来の規則(No. 1347/2000)の適用範囲は、親権(監督権)や面接権に関する判断に限定され、扶養に関する判断には適用されなかった。しかし、新規則は、扶養に関する判断を含め、すべての親の責任に関する判断に適用される(第1条参照)。

新規則は、両方の親とのコンタクトを維持する子供の権利を保障している。
例えば、A国裁判所の判決に反し、子供がB国に住む父親に会いに出かけることを母親が阻止する場合には、判決がB国でも自動的に承認・執行され、子供の面会権の保障を図っている。旧規則で必要とされていた執行宣言(執行判決)は不要である(第41条第1項)。

新規則は、親による子供の誘拐の防止策について定めている。
例えば、A国の裁判所が下した判断を覆すため、B国に住む親が子供をB国に誘拐し、B国内で再び裁判を開始することを防ぐため、新規則第10条は、このようなケースであれ、A国の裁判所が管轄権を有すると定める。なお、子供が他の加盟国内に常居所を設け、監督権を有する者がそれを了承するか、同人がそれを知りうべき時から1年以内に子供の返還を申請しない場合には、新しい常居所地国に管轄権が与えられる。

ある加盟国の裁判所が下した、子供の返還に関する判決は、特別な手続を必要とせず(執行宣言も不要である)、他の加盟国でも執行されうる(第42条)。

子供が連れて行かれた加盟国(前掲の例では、B国)の裁判所が、元の常居所地国に戻せば深刻な危険にさらされると考えるときや、子供が一定の年齢に達し、判断能力を身に着けており、帰還を望んでいないときは、直ちに帰すべきではないと判断ることができる。ただし、子供の常居所地について、最終的な決定を下すのは、元の常居所地国の裁判所である。

 (参照) Press Release of European Commission



 なお、規則は両親の離婚に関する事案にのみ適用される。また、両方の配偶者の子供に関する案件にのみ適用される。


 

規則の主な内容


 リストマーク 婚姻事件について
 
 以下の加盟国の裁判所の管轄権が有する(第3条第1項第a号)。

夫婦が常居所を有する加盟国

夫婦が同一の加盟国内に常居所を有さないときは、最後に共通の常居所を有した加盟国
ただし、当該加盟国内に、一方が住んでいなければならない。

被告が常居所地を有する加盟国

夫婦が共同で裁判所に申し立てるときは、どちらか一方が常居所を有する加盟国

原告が常居所を有する加盟国
ただし、原告は、申し立てを行うまでに1年以上、当該加盟国に住んでいなければならない。
または、原告は、申し立てを行うまでに半年以上、当該加盟国内に居住し、その国の国籍を有していなければならない。

夫婦の本国である加盟国(第3条第1項第b号)


 当事者は、これら以外の裁判所に申し立てることはできない。

 複数の加盟国に同一の事件が係属するときは、先に訴えが提起された裁判所が管轄権を有する。後訴裁判所は、前訴裁判所の管轄権が肯定されるまで、職権で手続を中止し(第19条第1項)、前訴裁判所の管轄権が肯定されれば、後訴を却下しなければならない(第3項)。訴えの提起は、訴状の裁判所への提出によってなされる(第16条第1項)。

 ある加盟国の裁判所が下した離婚判決は、他の加盟国でも、特別の手続を必要とせず、自動的に承認される(第21条第1項)。ただし、利害関係者は、@承認国の公序良俗違反、A訴状の送達が適時ないし適切な方法でなされなかったため、被告が手続に出席できず、または、防御活動が不十分であったこと、B他の判決との抵触、などを理由に、異議を申し立てることができる(第22条)。なお、承認国の裁判所は、判決国の裁判所の管轄権について審査してはならない(第24条)。
 
 利害関係人は、欧州委員会によって作成された リスト に掲げられた裁判所に、他の加盟国の判決の承認または非承認を申請することができる。なお、この裁判所は、国内法に基づき決定される(第21条第3項)。

 判決の確定により、他の加盟国でも、特別な手続を必要とせず、婚姻上の身分が確定する。また、国内法を理由に、確定判決の無効を申し立てることは許されない(第25条)。

※ 

規則は、離婚、別居、婚姻の無効・取消しに適用される。

準拠法の決定については定めていないため、この問題は国内法に照らし決定される。



 リストマーク 離婚の際の親の責任について

 子供の常居所地国の裁判所が管轄権を有する(第8条第1項)。子供が適法に他の加盟国に移住し、そこで新しい常居所を有するときは、移住から3ヶ月以内に限り、元の常居所地国の裁判所は、同国の裁判所が下した面会に関する判断の修正について管轄権を有する。ただし、同判断によって面会権を与えられる親が、子供の元の常居所地国に常居所を有することを要する(第9条第1項)。

   リストマーク 一方の親による子供の誘拐に関する事件の管轄権


 ある加盟国の裁判所が下した判決は、他の加盟国でも、特別の手続を必要とせず、自動的に承認される(第21条第1項)。ただし、利害関係者は、@承認国の公序良俗違反(その判断にあたっては、子供の福祉を考慮しなければならない)、A子供の尋問を行わず、承認国の手続法の重要な原則に反すること、B訴状の送達が適時ないし適切な方法でなされなかったため、被告が手続に出席できず、または、防御活動が不十分であったこと、C他の判決との抵触、などを理由に、異議を申し立てることができる(第23条)。

 判決国で執行されうる判決は、他の加盟国でも執行することができる(第28条)。他の加盟国の判決の執行は、欧州委員会によって作成された リスト 内の裁判所に申請しなければならない(第29条第1項)。申請がある場合、裁判所は、遅滞なく判断しなければならない。また、判決の内容を審査してはならない(第31条)。

 執行判決に対しては、欧州委員会が作成した リスト に掲げられた裁判所に、異議を申し立てることができる(33条)。





(参照) 

欧州委員会のホームページ





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