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ECのバナナ市場規則に関する法的問題


banana
9.

 
実効的な権利保護請求の態様

 従来、EC法令によって権利を侵害された者は、裁判所に提訴し、同法令の有効性を争うことが多かったが、前述したEC裁判所のバナナ判決とT. Port 判決とを読み比べると、このような訴えよりも(バナナ判決の場合)、その有効性を前提とした上で、特別の権利保護措置の発動を要請する方が(T. Port 判決の場合)実効的であることが読み取れる。別の観点から捉えるならば、EC裁判所は、あるEC法規の適用によって個人の権利が侵害される場合であっても、同法規を無効と判断することに極めて慎重であると言える。その理由としては、まず、ECの立法作業は難航することが多いため、ようやく制定された法規を無効と判断するのは適切ではないということが挙げられよう。しかし、このような見解は支持しえない。なぜなら、立法手続上のハードルを理由に、権利侵害を認めてもよいことにはならないためである。その他、EC裁判所もECの機関であり、欧州統合を推進しなければならないため、制定された法令を無効と宣言し、ECの発展を抑制するのは、その本来の使命に反するといった論拠も成り立ちうる。しかし、欧州統合の推進という目的のために、あらゆる手段が正当化されてよいわけではないため、このような考えは支持しえない。

 EC裁判所が、EC法の無効確認に消極的なのは、むしろ、抽象的法令審査がなされるためであろう。すなわち、この審査では、ある特定の個人の権利が例外的に侵害されるという事実は考慮されない。また、立法者は新法の効果をあらゆる角度から考慮し、権利侵害が例外的に発生することをも防止しなければならないとすれば、法令を制定し、新政策を導入することは極めて困難になろう。それゆえ、理事会(または欧州議会の関与の下で)の立法手続が適法であるならば、法令の内容を実質的に審査することは控えるとも解される。

 その他、EC裁判所による法令の無効確認判決は、対世 (erga omnes) 効を有することも考慮しなければならない。すなわち、ある個人の権利が例外的に侵害されたことに基づき、法令を無効と判断すると、同法令は全ての者に対し適用されなくなるのである。それでは、政策の実効性が失われてしまうため、EC裁判所は法令を無効と宣言することに慎重であると言える。

 他方、EC裁判所は、救済措置の必要性については広く認めている。バナナ市場規則のケースに関しては、当初より、そのことが指摘されている。従って、仮に無効の訴えは棄却されるにしても、救済措置の必要性が確認されることはありうる。なお、一般に、救済措置は欧州委員会によって発せられ、EC裁判所は、委員会にその発動を命じうるに過ぎない。また、通常、個人は直接、救済措置を要請しえず、その要請は加盟国によってなされなければならない。ところで、このような措置を講じると、EC法の適用に例外を認めることになるため、委員会は、救済措置発動の要件を厳格に解釈している点に注意しなければならない。そのため、例えば、自らの経営管理能力の未熟さから経営難に陥った者に対しては たとえ、ECの法令がその状態に拍車をかけることになったとしても ―、救済措置は発せられない。