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ECのバナナ市場規則に関する法的問題


banana
7.2.

 
EC裁判所による基本権審査の消極性

 ところで、今日では、EU条約第6条において、権利保護の必要性が明定されており、また、この分野におけるEC裁判所の管轄権も明文で認められている同第46条 詳細は こちら。しかし、現在でもEC条約には人権カタログが盛り込まれていない(欧州基本権憲章については こちら。また、EC裁判所が保護されるべき権利の内容を明らかにしていないことに対し、学説は一般に批判的であるが、そもそも、保障範囲を明確にすることは不可能である。なぜなら、EC法上、個人の権利保護は、ECの政策目標の実現に優先することはないため、政策目標が重要であればあるほど、権利の保障範囲は限定されるためである。私見によれば、ECの権利保護制度の瑕疵は、この保障範囲の制限が大幅に認容される点にある。EC法規による権利侵害が問題になるのは、ほとんどの場合、所有権や営業ないし職業遂行の自由(または自由に職業を行う権利)に関してであるが、これらの法益が公共の福祉のために制限されることは広く認められている。もっとも、公共の福祉を増幅させるためであれば、あらゆる措置が許容されるわけではなく、従来、EC裁判所は、比例性原則や信頼保護原則に照らして、権利制限措置の合憲性について判断してきた。



司法統制



 しかし、実際には、これらの諸原則が適切に適用されているとは考え難く、ECの権利制限がほぼ無制限に許容されたケースは枚挙にいとまがない。例えば、公共の福祉のために基本権は制限されるという原則を適用する際、EC裁判所は、あるECの法令が実際に公共の福祉にかなうものかどうかについて検討していない。EC裁判所によって審議されるのは、ECの法令が明らかに不当であるかという点のみである。

 他方、EC裁判所の権利保護には以下の制約がある。第1に、ECは従来の加盟国の制度を統合し、新たな制度の導入を目的としているため、従来、加盟国法の下で保障されてきた権利(特に、既得権)や信頼は保護されない。また、全ての加盟国(および加盟国内の市民)を平等に扱っていたのでは、新しい政策の導入は不可能であるので、平等原則の適用は制限される。

 第2に、EC産の優遇EC法上の大原則として掲げられており、第三国を平等に扱うことは要求されていない(例えば、ロメ協定を締結し、ACP諸国のみに優遇措置を与えることも許容される)。従って、第三国との取引が制限されても、特別の定めがなければ、その補償を求めることはできない。また、そもそも、GATT上の原則である差別禁止の原則や、最恵国待遇の原則は、EC法とかみ合わない。バナナ市場規則がGATTに反することは従来より批判されてきたが、EC法上、GATT違反が許容されるため、EC裁判所はこれを統制しえない。

 このように、EC法秩序においては、欧州統合の名の下に、所有権の絶対性や法的安定性を害したり、差別的取扱いが容認されるだけではなく、国際貿易法秩序(WTO協定・GATT)に抵触する措置も許容される。それゆえ、ECの法令によって、従来の権利や利益を害される者は、いかにすれば、自らの権利・利益を実効的に保護しうるかについて考案しなければならない。