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ECのバナナ市場規則に関する法的問題


 banana  (1) 個人の訴え

バナナ市場規則が発効すると、従来、中南米からバナナを輸入してきた者は、著しい不利益を被り、またその権利(所有権や営業活動の自由)の侵害が予測されたため、同規則が発効する前の段階で、相次いでEC裁判所に提訴した。この法的措置によって、@規則の有効性(ないし適法性)を争ったり、または、Aその有効性は争わないものの、自らの権利侵害に対する救済措置の発動を要求することができよう。従来、EC裁判所はEC法の実効性確保を重視しており、権利侵害を理由に第2次法を無効と判断したことはほぼ皆無に等しいため、Aの方法による方が、勝訴の確率が高いと考えられる。また、輸入業者が自らの権利・利益を保護するためにはそれで十分であろう。しかし、一連の訴えは@に関するものであった。なお、EC裁判所の訴訟は通常、1819ヶ月継続するが、その間も、訴えられた法令は適用され続けるため、原告である輸入業者らは、仮の権利保護措置 として、バナナ市場規則の適用の差止めを求めた。

 しかし、EC裁判所は、まず本案訴訟において、バナナ取引業者の訴えを全て却下した。これは、EC法上、個人は、ECの法規に「直接的」かつ「個人的に」関わる場合にのみ、法令無効の訴えを提起することができるが(EC条約第230条第4項)、この要件が満たされないためである。

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 それゆえ、仮の権利保護に関する訴え も全て却下された。このように個人の提訴権が制限されているのは、EC裁判所に多数の訴えが係属することを防止するためであるが、もっとも、この要件を厳格に解し、個人の裁判所へのアクセスを制限すると、権利保護が実際に必要な者の訴えも不適法となり、ECの権利保護制度は形骸化しかねない。そのため、EC裁判所は、かつて、この要件を緩やかに解釈したことがある。しかし、本件では、(当初)EC裁判所は、バナナ市場規則により個人の権利は侵害されないと考えており、そのために個人の提訴の要件を厳格に解釈したと解される。実際に、EC裁判所は、ドイツ政府が提起した訴えの中で、問題のEC2次法によって、個人の権利は侵害されないと判断している。この判断の妥当性については後述するが、EC裁判所の権利保護水準が低いことは従来より批判されてきた。もっとも、バナナ市場規則に関する法的紛争では、それ以上に、個人の提訴権が著しく制限されているというEC権利保護制度の構造的な問題が顕著になった。


banana  (2) 加盟国の訴え

 この制度上の欠陥は、例えば、加盟国が個人のためにEC裁判所へ提訴することで補いうる。実際に、バナナ市場規則に関する紛争において、ドイツ政府は、国内のバナナ取引業者の要請を受けて、EC裁判所に提訴している。しかし、訴訟手続における不手際は顕著であった。すなわち、同政府は、バナナ市場規則による権利侵害の実態について、詳細に主張することができなかったのである。輸入業者が直接提起した申立て理由の中には、ドイツ政府が主張していなかった点も含まれていたため、個人の訴えが受理されることにも意義はあったと解される。

 ところで、ドイツ連邦憲法裁判所は、ドイツ国民の権利の侵害に対しては実効的な救済措置が必要であること(ドイツ基本法[憲法]19条第4項)、また、バナナ市場規則は救済措置について定めているため、ドイツ政府は、ECの機関に権利救済を請願しなければならないと述べている。この判断を踏まえ、ドイツ政府はEC裁判所に訴えを提起しなければならないと解釈する見解もあるが、ドイツ連邦憲法裁判所は、必ずしも、EC裁判所への提訴を要求しているわけではない。本ケースでは、欧州委員会に保護措置の発動を求める方が重要である(後述参照)。