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The European Union Agency for Fundamental Rights

(EU基本権庁)

花 

 1998年より、ウィーンには European Monitoring Centre for Racism and Xenophobia (EUMC:ヨーロッパ人種差別・外国人排斥監視センター)が設置されているが、2003年12月、欧州理事会は、この組織を改組し、The European Union Agency for Fundamental Rights(EU基本権庁)を発足させること決めた(その背景については こちら)。これを受け、欧州委員会は、2005年6月30日、新しい組織を設立するための法案(規則案)をEU理事会に提示していたが(COM (2005) 280 final)、その活動範囲や権限をめぐり加盟国間で対立が生じたため、審理が長引いた。規則(Regulation No. 168/2007, OJ 2007, L 53, 1)が制定されたのは2007年2月15日のことであるが、法の整備を受け、基本権庁は、当初の予定より3ヶ月遅れ、2007年3月1日より、活動を開始することになった。

 新しい組織は、その前身である「ヨーロッパ人種差別・外国人排斥監視センター」(EUMC)を母体としており、引き続きウィーンに本拠を置く(理事会規則第23条第5項)。法人格を有し(同条第1項)、以下の機関よりなる(第11条)。


a Management Board

an Executive Board

a Scientific Committee

a Director


 なお、全職員の規模は約100人、また、予算は2013年まで毎年増加し、最終的に約2400万ユーロとなる(年間)。

 基本権庁は、前身である「ヨーロッパ人種差別・外国人排斥監視センター」の活動を継承するが、基本権に関する専門行政組織として、以下の4つの任務を負う(理事会規則第4条)。


人権保護に関する情報の収集、分析、普及

EU内の基本権保護状況に関する年次報告書の作成(特に、特定のテーマに関する調査)

人権分野におけるコミュニケーション方策の発展

学術研究および学術ネットワークの構築

 その他にも、明瞭な委託があれば、任務を遂行しうる。

 なお、EU基本権庁は、個人の権利救済に関与しえない。つまり、個人は基本権侵害を理由に新機関に申し立てることはできない。このような申し立ては、従来どおり、欧州人権裁判所に提起されることになる。なお、同裁判所との協力関係を緊密にするため、ECは欧州評議会(欧州人権裁判所は同評議会制度の枠内で設けられている)と協定を締結するものとされている。また、基本権庁の執行部(Executive Board)の会議には、欧州評議会の代表も出席することが想定されている(理事会規則第9条)。

 基本権庁は、加盟国や加盟候補国による基本権侵害の有無について審査しえず、EUの諸政策が基本権に及ぼす影響について調査・分析したり、実効的な保護方法を示しうるに過ぎない。つまり、EUや加盟国との関係において、基本権庁の第1義的な役割は、それらを助言ないし支援することである(設立規則第2条参照)。なお、調査・分析の対象となる基本権は制限されない。

 EU(EC)の立法手続への関与については、理事会内で最後まで争われていたが、諸機関の要請がある場合に限り、基本権庁は見解を述べることができる。ただし、諸機関の行為の適法性や加盟国によるEC法違反の有無について審査することはできない(理事会規則第4条第2項)。

 基本権庁の活動は、いわゆるEUの第1の柱の分野に限定される。つまり、第2 および第3 の柱は対象外である(EUの3本柱構造については こちら)。なお、EUや加盟国による権利侵害は、第3の柱 の分野(例えば、テロ対策)において生じる可能性が高いが、ドイツやイギリスなどの反対により(警察・司法権は国家の伝統的な主権の一つであるとされる)、基本権庁の活動範囲より除外されている。そうであるならば、新しい専門機関を設ける必要はないとして、欧州議会やNGOによって厳しく批判されているが、このような批判を踏まえ、基本権庁の活動分野は2009年末までに見直されることになっている。




(参照) EU基本権庁の公式サイト

 ・EU基本権庁の設立に関するEU理事会規則


EU理事会のプレスリリース

ドイツ理事会議長国のプレスリリース




Vertretung der Europäischen Kommission in Deutschland, EU-NACHRICHTEN 2007, Nr. 7, Seite 6 ("Meinungsverschiedenheiten verzögern Entscheidung)


EU基本権庁設立の背景




(2007年2月26日 記)