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数量制限の禁止の例外 − 産業・商業所有権の保護

EC条約第30条)
  

 

 EC条約第30条は、商品移動の自由の例外について定めているが (詳細は こちら)、それによれば、産業・商業所有権を保護するために、他のEU加盟国からの商品の輸入を規制することができる。産業・商業所有権には、特に、特許権、商標権や著作権が含まれる。これらの権利保護を強調するならば、権利者が他の加盟国からの再輸入並行輸入を禁止することが可能になり、商品移動の自由化というECの目標(ないしEC市場の原則)に反する事態が生じかねない。特に、加盟国内での物価水準は異なっているため、販売価格が安い国から高い国へ輸入して販売しようとする試みも珍しくないが、権利者がこれを規制しうるとすれば、自由な商品流通が阻害される。前述したように、これはECの目標ないし原則に反するため、EC裁判所は、特許権者が製品をある加盟国(この国では、法律上、特許権として保護されない)の市場に置いたときは、特許権を理由に商品の輸入を禁止することはできないと判断している(Case 187/80 Merck [1981] 2063)。この判決は、商品を市場に置くことによって、特許権は「使い尽くされている」という、いわゆる消尽理論に基づいている。



リストマーク 商品の並行輸入

 特許権や商標権によって保護されている商品を、第三者が権利者に無断で販売すれば、特許権や商標権を形式的に侵害することになる。例えば、ライセンス契約を持たない第三者が外国産のブランド品を権利者の承諾を得ずに輸入し、販売すること(並行輸入)は、商標権の侵害にあたると考えることができる。もっとも、権利者やライセンス取得者が、これを理由に輸入を禁止するとすれば、自由な商品流通が阻害される。そのため、EC裁判所は、前述した消尽理論に基づき、他の加盟国からの並行輸入を認めている。




 著作権の場合も同様に、権利者が対象となる商品を他の加盟国で流通させたときは、同国からの輸入を禁止してはならない。また、例えば、楽曲の著作権者が第三者とライセンス契約を結び、ある加盟国における販売を許可したときは、EC全域において販売を許可したものとして扱われる。ドイツを除く、他の加盟国での販売ライセンスを与えられた者が製品を他の加盟国で販売し、ドイツに輸入することは禁止されない。また、ドイツでの販売ライセンス料は一般に割高であるため、差額を請求することも認められない(Joined Cases 55 and 57/80 membran v GEMA [1981] ECR 147)。

 なお、薬品については、消費者保護の観点から、外箱の表記を変更することが必要になる場合があるが、他のEU加盟国から薬品を輸入し、外箱に変更を加えて販売することは(もっとも、製造者を特定したり、薬品の同一性を保障するために、当初の外箱に印刷されていた商標は変更しない)、以下の条件の下で認められる。


外箱の変更が輸入国の法律上、要求されること、また、平行輸入の禁止によって、EC内における商品流通が阻害されること

薬品の品質が保たれていること

新しい外箱には、梱包し直した者と製造者が明確に記載されていること

薬品を開封することによって、ブランドや製造者の評判が害されないこと

輸入業者が権利者に並行輸入販売について事前に通知すること(また、権利者の要求に応じて見本を送付すること)


 なお、以上の点は、EC内における商品の平行輸入に関して該当し、EU加盟国以外の国からの並行輸入には適用されない。つまり、この場合には、消尽理論は適用されないため、権利者は、例えば日米からの並行輸入を禁止することができる(Case 51/75 EMI [1976] ECR 811)。