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域内市場におけるサービス提供に関する指令案

 EUのGDPの70%はサービスで占められているが、加盟国間にまたがるサービスは20%に過ぎない。これは、経済統合の発展にもかかわらず、国内の規制が依然として残されており、国境を越えたサービス提供の自由が阻害されていることによるとされている(リストマーク これに対し、自由化が進展している商品の移動については こちら)。



 現在、ドイツの建築会社がベルギーで工事を請け負うときは、作業員の数と賃金を事前に報告しなければならない。また、ベルギーの労働規則に合致しているかどうかの調査に必要な書類も提出しなければならないが、すべての文書は、ベルギーの公用語に翻訳する必要があるため、時間と経費がかかる 。このような国内規制を撤廃し、加盟国間の協力を促進することによって、 域内のサービス市場を活性化させるため、欧州委員会は、法案(指令案)を提出している(後述参照)。




 独立した研究機関 Copenhagen Economics の調査 によると、サービス市場の自由化は、EU内で60万の雇用を創出するとされている(ドイツはその6分の1に当たる10万の雇用が生み出される)。失業対策は、EUの重要な政策課題に当たるため(リストマーク リスボン戦略 こちらも 参照)、サービス市場の自由化に対する取り組みも強化されている。




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委 員 会 に よ る 指 令 案 の 作 成

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 2004年1月、欧州委員会は、EC内のサービス提供の自由化を促進するため、指令案(域内市場におけるサービス提供に関する指令案)を作成した(ダウンロードは こちら)。根拠規定は、主として、EC条約第47条第2項 ないし第55条であるが、前者によれば、EU理事会は、欧州議会と共同で、加盟国の法律・行政規則を調整するため、指令を制定することができる(共同決定手続)。委員会は、2010年の発効を提案しているが、2005年4月より、欧州議会で審議が開始される予定である。

 


リストマーク 指令案の主な内容

 指令は、サービスの提供に関する国内規制を撤廃し、域内サービス市場の自由化を目的としているが、公務や公共サービスなど、まだ自由化されていないサービス分野を自由化ないし民営化を意図するものではない。つまり、指令は、現在、すでに自由化されてサービス分野でまだ存在する国内規制を撤廃し、サービス提供の自由をより実効的に保障しようとするものである(参照)。金融・運輸サービスも同様に指令の対象にならない。


 このように、除外されるサービスも少なくないが、指令は、以下のように、多くのサービスを対象にしている(参照)。


企業に対するサービス

 経営コンサルティング、証明・検査、機器のメンテナンス、オフィスの警備、広告、代理など


企業と消費者の双方に対するサービス

 法律顧問、税理相談、不動産販売、建築、取引・販売、見本市の開催、レンタカー、旅行代理店、警備

 電信通話サービスに関しては、2002年の「テレコミュニケーション改正協定」で定められていないもののみが指令の対象となる。


消費者に対するサービス

 健康・医療 や家事、旅行、オーディオ・ヴィジュアル、余暇、スポーツ、娯楽に関するサービス



   リストマーク 郵便、電気、ガス、水道の供給サービスについては こちら

 

 指令は、他の加盟国における @ 企業の設立の自由化(リストマーク 開業の自由) と A 期限付きのサービス提供の自由化(リストマーク 労働者の移動の自由)とに分けて規定している。後者は、他の加盟国内に新たに会社や常設の事務所等を設けず、本国より他の加盟国に赴き(または、本国より労働者を派遣して)、サービスを提供するものであるが、受入国と本国の行政機関が協力することによって、企業(労働者)にかかる負担を緩和すべきとされている。例えば、企業は、受入国の行政機関にも簿記を提出しなくてもよい。また、監督官庁は、本国の機関となる。そのため、企業が賃金の支払いやその他の法的義務に反するときは、本国が必要な措置を講じることになると解される(なお、これによるならば、受入国は、法令違反を確認した場合であれ、単独では対処しえないといった問題点が残る)。本国と受入国の協力を円滑するため、コンピュータ・ネットワークの構築についても提案されている。

 他の加盟国に新会社を発足させるときは(前述した@のケースにあたる)、その国の法令・行政規則に従わなければならないが、期限付きのサービス提供(A)については、原則として、本国法が適用される(本国法主義)。なお、受入国の環境保護・社会水準が高いときは、それに従わなければならない。また、事業者・消費者間のすべての消費者契約に適用される法律も、受入国の法律による。



本 国 法 主 義
(country of origine principle/Herkunftslandsprinzip)


 本国法主義とは、本国(出身国)の法令または行政規則によって許可されている場合には、他の加盟国の許可を得ることなく、同国内でサービスを提供しうるという原則である。つまり、企業ないし自由業者(弁護士や会計士など)は、本国の規制・監督のみを受ける。受入国の法令の内容を調査したり、改めて許可を取得する必要がなくなるため、特に、中小企業の負担を軽減すると解されている(参照)。他方、この原則によるならば、サービスが提供される加盟国では、他の26の加盟国の法令も適用されることになるから、行政・司法機関の負担を増すとの批判もある(参照)。

 なお、この原則は他の政策分野でも広く認められている。例えば、商品移動の自由 に関しては、ある加盟国で適法に製造され、流通過程におかれている商品は、他の加盟国内にも制限無く輸入されなれければならないとされている(Case 120/78 Casis de Dijon [1979] ECR 649, para. 14)。

 本国法主義は、他の加盟国内に法人を設立せず、労働者が移動してサービスを提供する場合にのみ適用される。例えば、弁護士や会計士が、事務所設置国より他の加盟国より出張して役務を行い、終了後、設置国に戻る場合に本国法主義は適用される(なお、事務所等を設ける場合であれ、それが常設の施設でない場合には、本国法主義が適用される)。したがって、本国で許可が得ているならば、他の加盟国で改めて許可を得る必要はない。

 また、以下の事項については、本国法主義は適用されない。

労働者の雇用条件に関する指令(96/71/EC)が定める案件(最低賃金、労働時間、最低休暇日数、最低有給休暇日数、臨時労働者の保護、健康・衛生・安全基準、青少年および妊婦の保護、男女平等、障害者の保護を含めたその他の差別禁止に関する規定)

なお、上掲事項は法令で定められている場合だけではなく、団体協約で定められている場合であってもよい(第17条第5項参照)。

現在、立法手続が進行中の職業資格に関する指令が適用される案件

したがって、加盟国は、サービスの提供に先立ち、申告や登録を義務付けることができる。また、保健衛生業の分野では、職業資格を審査するとが可能である(第17条第8項)。

郵便、電気、ガス、水道サービス

加盟国はサービスの質や価格等を規制することができる(第17条第1項ないし第4項)。

サービス提供地における特殊なサービスで、公共政策、治安、公衆衛生または環境保護の目的に必要な場合(例えば、公共イベントや建物の安全基準)(第17条第17項)

公共政策、治安または公衆衛生の観点から、加盟国内で一般に禁止されていること(例えば、ある特定の医療行為)(第17条第6項)

消費者契約(第17条第21項)



 さらに、ある特定人に対し、本国法主義の適用を排除し、国内法に基づき規制することも認められる(第19条)。

 このように、指令案は多くの例外を設けているが、それゆえに指令案は複雑であり、批判されている(参照)。


(参照) 欧州委員会の公式サイト




 なお、他の加盟国に設立された企業より派遣された労働者(派遣が短期間であるかどうかは問わない)については、すでに1996年に発効している指令に基づき、受入国の最低水準(例えば、最低賃金)が保障される。また、受入国の安全保護、休暇、労働時間に関する規則が適用される。

 欧州委員会の提案によれば、すべての交通・金融サービスには、指令は適用されない。また、公共サービス、公立学校における教育、地域の交通、または港湾事業にも、指令は適用されないが、民営化されている電気、ガス、一部の郵便業は適用の対象になる。また、安全保障会社による現金輸送や死者の運送は、指令の適用を受ける。




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 サービス市場の自由化をめぐっては、新旧加盟国間には対立が生じている。フランス、ドイツは、サービス市場が自由化されれば、給与・社会保障水準の悪い加盟国の労働者に対抗できないとし、委員会案に反対しているの対し、特に、東欧諸国は、サービス市場の自由化を訴えている。


 
EU規模で組織されているヨーロッパ労働組合団体は、@ サービス提供の自由化に際しては、競争政策の観点からだけではなく、社会、労働市場、また、環境政策の観点からも検討する必要があること、また、A 指令案には例外規定が多く設けられており、複雑であるとして批判している (FR v. 24. März 2005, S. 5 ("EU-Gipfel ist Schritt in richtige Richtung"))。


・  オーストリア
・  2005年3月の欧州理事会@A 



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(参照) Europäische Kommission, Vertretung in Deutschland, EU-NACHRICHTEN, 2005, Nr. 7, S. 5-6.

 

欧州委員会の公式サイト

 ・ 指令案

 ・ Copenhagen Economics の報告書

 ・ Frequently asked questions


サービス提供の自由 



(2005年3月22日 記 2006年1月29日 更新)



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