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星

 
サ ー ビ ス 提 供 の 自 由

EC条約第49条〜第55条)
ビジネスマン
  


 はじめに

 EC法は、ある加盟国の国民が他の加盟国内で自由に経済活動を行うことを保障しているが、活動は、恒常的ないし継続的になされるか、または、1回限り、ないし短期的であるかで区別される。つまり、前者は 開業の自由 として、また、後者はサービス提供の自由として保障される。EC条約上、「サービスの提供」は補足的であり、開業の自由に関する諸規定(第45条〜第48条)を準用している(第55条)。

 EC条約の文言上、保障されるのは、域内で自由にサービスを提供することであるが、EC裁判所の判例法を通じ、サービスを受ける者の権利も保障されるようになった。つまり、受給者は、サービスを受ける加盟国において、国籍に基づき差別されないという原則が確立している(ECJ 1984, 377, para. 16 - Luisi and Carbone)。両者の保障によって、EC内の競争は高まり、結果として、サービスの質も向上すると解される。以下では、EC法上のサービス移動の自由について説明する。


1. サービスの定義

@ EU加盟国の国民は、域内において自由にサービスを提供しうるが(第49条第1項参照)、保障の対象となる「サービス」とは、「報酬」(第50条第1項)を得ることを目的としてなされる役務である。「報酬」とは経済的対価を指すが(ECJ 1988, 5365, paras. 15 et seq. - Humbel)、サービスを受ける者からではなく、第3者から得るものであってもよい(ECJ 1988, 2085, para. 16 - Bond van Adverteerders)。それゆえ、例えば、患者ではなく、保険機関によって報酬が支払われる医療行為も「サービス」に該当する(ECJ  2001, I-5473, paras. 53 et seq. - Smits and Peerbooms)。これに対し、国による教育(国立大学での教育など)は、学費の支払いが免除されていれば、「サービス」にあたらない(ECJ 1988, 5365, paras. 18 et seq. - Humbel)。


 EC条約は、商品移動の自由 について個別に規定しているため、商品とサービスを区別する必要があるが、商品と異なり、サービスは無体物とされる。サービスが商品の送付と結合して提供される場合は、両者を切り離して捉える必要がある。例えば、A国の放送局がB国に居住する者にテレビ放送を提供するとき、電波の送信はサービス提供の自由として、また、受信に必要な器具の送付は商品の移動の自由として保障される(ECJ 1974, 409, paras. 6 et seq. - Sacci)。両者が密接に関連しているため、分離しえない場合は、どちらに重点が置かれているかによって判断される。例えば、宝くじに関し、宝くじ券の発送は、宝くじに付随するものであるから、サービス提供の自由の補償範囲となる(ECJ 1994, I-1039, paras. 21 et seq. - Schindler)。

 同様に、EC条約は 人(労働者)の移動の自由 を別個に保障しているため、サービス提供の自由と区別しなければならないが、後者は、自営業者が他の加盟国で役務を行うケースを想定している。これに対し、労働者が第3者(会社や上司など)の指示に従い、経済活動を行う場合(例えば、ある者が会社に就職する場合)は、人(労働者)の移動の自由 の対象となる。他方、会社が従業員を他の加盟国に派遣するとき、会社から指示され働く従業員は自営業者ではないが、サービスを受ける者(受益者)との関係において、会社は自営業者であるため、サービス提供の自由の適用例となる。つまり、会社と従業員の関係ではなく、サービスを提供する会社と受益者との関係が重要である(ECJ 1990, I-1417, paras. 12 et seq., - Rush Portuguesa)。なお、人材派遣会社が労働者を派遣する場合、労働者は派遣を介して職を得、また、派遣先の指示に従うことになるから、人(労働者)の移動の自由 が問題になるケースとなる(ECJ 1990, I-1417, para. 16 - Rush Portuguesa) 

 EC条約上のサービス」の例として、第50条第2項は、以下の行為を挙げているが、これらは、EC法独自の概念であり、国内経済学上の定義と同じように解釈してはならない 

 産業的行為

 商行為

 職人の行為

 自由職業行為


 上述したように、サービス」とは、自営業者が経済的対価の取得を目的として、無体の役務を一時的に(他の加盟国に一時的に滞在して、または自営業者は移動せずに非継続的に)提供すること(また、これを受けること)を指す点を併せて考えると、非常に多くの行為が「サービス」に含まれる。例えば、不動産仲介、医療、旅行の企画、ホテル、テレビ・ラジオ放送、電信、インターネット保険、広告などが挙げられる。なお、広告は、業務としての広告(第3者を広告すること)と、自らの業務の広告に分けられるが、後者も「サービス提供の自由」によって保障される(ECJ 1995, I-1141, para. 28 - Alpine Investments)。

 ところで、EC条約は、運輸・交通セクター のサービスについては個別に規定しているため(第70条〜第80条)、「サービス提供の自由」の対象にはならない(第51条第1項)。また、「資本の移動の自由」についても特別に規定されており(第56条〜第60条)、金融・保険サービスについては、これらの規定を考慮する必要がある(第2項)。同様に、「商品の移動の自由」や「人の移動の自由」の対象となるものは含まれない(第50条第1項および前述参照)。

 

A サービスは、提供するか、または、それを受けるかで、以下のように区別されるが、いずれも、その自由な提供・受給が保障される。

 能動的サービス

  提供者が他の加盟国に赴き行うサービス

 (例)ドイツ在住の弁護士がフランスで活動する場合


 受動的サービス

 受給者が他の加盟国に赴き受けるサービス


(例)

フランス在住の顧客がドイツに渡り、弁護士よりアドバイスを受ける場合



B 提供者が他の加盟国に移動せず、行われるサービスもあるが、これも保障される。

(例)

ドイツ・テレビ局の放送をフランス在住の市民が受信する場合

※ テレビ放送の自由化に関する指令(放送指令)について後述参照


 なお、Aのケースであれ、Bのケースであれ、サービスが複数の加盟国間にまたがって提供されることが重要である(これは、ECが加盟国間の経済統合を目的としているためである)。それゆえ、例えば、ドイツの旅行社がドイツ人を対象に、国内旅行を催行する場合には、EC法は適用されないが、フランス旅行を企画する場合には、EC法が適用され、サービス提供の自由が保障される。




堕胎手術に関する情報の流布と手術を受ける権利

 アイルランド憲法第40条第3項は妊娠中絶を禁止しているが、同国の判例法上、アイルランド人女性が外国で堕胎手術を受けることや、それを補助したり、外国での手術に関する情報を告知することも同規定によって禁止されることが確立している。これに反し、学生が堕胎手術を行うイギリスの病院のビラを配布したところ、胎児保護団体より、その差し止めを求める訴えが国内裁判所に提起された。同裁判所から先行判断を求められたEC裁判所は、堕胎手術もEC条約第49条以下の「サービス」に含まれることを明確する一方で、その宣伝活動を自由に行うことまで保障されるわけではないと判断した。すなわち、情報を提供した学生とイギリスの病院との間には何らつながりがないため、学生の行為は「サービス」には当たらず、EC法によって保護されるものではないとした(Case C-159/90 Grogan [1991] ECR I-4685, paras. 22 et al)。

 なお、EC裁判所は、EC法は表現の自由について規定していないため、表現の自由の制約(本件における広報活動の禁止)はEC法に違反するものではないと判断しているが、同様の事件において、欧州人権委員会と欧州人権裁判所は、欧州人権条約第10条(表現の自由)に違反すると述べている(Appl. 14234 and 14235/88, Open Door Counselling Ltd and Dublin Well Woman Centre Ltd and others against Ireland, NJW 1993, 773)。

 前述したように、サービス提供の自由には、自由にサービスを受ける権利も含まれるため、外国で堕胎手術を受けることは認められるべきであるが、これを禁止するアイルランド憲法はEC法に優先する(EU条約とEC条約の議定書はその旨を明確に定める。リスボン条約については こちら)。これは、国内憲法がEC法に優先することを示す特異な例である(Herdegen, pp. 262-263)。




2. 保障範囲

サービス提供の自由の主眼は、商品や労働者の移動の自由と同様に、国籍に基づく差別を禁止することに置かれている(第50条第3項参照)。 

(例)

 フランスの刑事手続法上、重大な人身傷害事件の被害者が加害者に損害賠償を請求しえないような場合、国に補償を請求しうる。ただし、被害者が外国人である場合は、その本国とフランスとの間に協定(相互性の原則に基づく協定)が締結されていなければならない。イギリスとの間には、このような協定が結ばれていなかったため、イギリス人旅行者Cがパリで襲われたとき、フランスはCの補償請求に応じなかった。これはEC法に違反するか。

 
国籍に基づく差別は、そもそも、EC条約第12条第1 に違反し禁止されるが、EC裁判所によれば、サービス提供の自由について定める第49条以下の規定は、提供者だけではなく、受給者にも権利を与えている。それゆえ、サービスの提供を受ける者についても、国籍に基づく差別は禁止される。従って、Cの補償請求を退けることは、EC法に違反する(Case 186/87 Cowan v Tresor public [1989] ECR 195
)。


 この判例法理に照らせば、外国人旅行者の美術館訪問を制限することも禁止される。また、旅行者、患者、ビジネスマン、留学生、また、同人らの家族は、サービスを受ける者として、提供地に滞在する権利が与えられることになるが、人の移動の自由 に関する規定との調整が必要になる

 適用上、他の加盟国の国民が差別されることはなくても、そのサービス提供を困難ないし不可能にする国内法も、EC法に反するとして禁止される(これは、商品や人の移動の自由の場合と同じである。なお、かつてEC裁判所は、@国籍に基づく差別と、Aこのような差別はないが、サービス提供の自由を制限する加盟国の措置を明瞭に区別していたが、近時の重点はAに置かれている(Hakenberg, Europarecht, 5. Auflage, paras. 317 and 328)


   参考 参考




3. 例外・保障の制限

サービス提供の自由の制限については、開業の自由に関する規定(第45条第46条)が準用される(第55条参照)。つまり、以下の2つの観点から、サービス提供の自由には例外ないし制約が設けられている。


(1) 公権力の行使を伴う行為に関する例外(第45条)

公権力の行使を伴う役務について、サービス提供の自由は保障されない(参照)。例えば、弁護士の公証人としての機能を果たす役務や株式ブローカーが公式な株価を確定する役務について、他のEU加盟国の国民のアクセスは保障されない(なお、これらの者の業務のすべてが、サービス提供の自由の適用対象外になるわけではない)。また、自動車工場による自動車の検査の確認行為についても同様である(ECJ 1994, I-4837 - van Schaick)。

なお、EU理事会は、その他の例外分野を決定することができる(第45条第2項参照)。



(2) 公序、公安、健康の保護(第46条)

 さらに、加盟国は、公序、公安または公衆衛生上の理由に基づき、開業の自由を制限することができる第46条)。


(例)

・他の加盟国で受ける医療行為に関するケース

 公的な健康保険機関は、医療行為が他の加盟国内で行われたことを理由に、保険金の支払いを拒むことはできないが(ECJ Case C-368/98 Vanbraekel [2001] ECR I-5363, paras. 46 et al)、国内の社会保障制度の健全性を維持するため、保険金の支払いを制限することができる(保険金の支払い条件として、事前の許可を求めることの適法性について ECJ Case C-157/99 Smits-Geraets [2001] ECR I-5473)。

 また、外国での療養にかかった費用(滞在費、療養行為費、交通費、租税など)は、事前に許可された場合にのみ補てんするが、国内での療養よりも効果が大きいことが明らかな場合にのみ許可されるとすることは、外国での療養を委縮させる効果を持ち、EC法に違反する(Case C-8/02 Leichtle [2004] ECR I-2641)。


(例)

 フランスでは、アルコール性飲料を直接的および間接的に宣伝することが禁止されている。スポーツ競技場での広告も同様に禁止されているが、他方、イギリスでは禁止されていない。フランスのテレビ局が、ロンドンで行われるサッカーの試合を中継しようとした際、サッカー場にはアルコール性飲料の広告が出されていたため、主催者にフランス法の内容を通達したところ、主催者は広告主(Bacardi)との契約を解除した。そこで広告主がフランスのテレビ局を国内裁判所に訴えたところ、同裁判所よりEC裁判所に先行判断が求められることになった。EC裁判所は、フランス法の適用によってサービス提供の自由は制約されるが、健康保護によって正当化されるとした。また、健康保護水準の決定は加盟国に委ねられているとした(Case C-492/02 Bacardi [2004] ECR I-6613)


(例)

 ドイツの企業 Omega は国内に Laserdrome という名称の娯楽施設を設け、おもちゃのピストルによる打ち合いゲームを提供していたが、行政当局は、ドイツ憲法上、保障されている人間の尊厳に反するとして、業務の継続を禁止した。これはEC法が保障するサービス提供の自由の侵害にあたらないかどうかが争われることになったが、EC裁判所は、公序を理由にサービス提供の自由を制限しうることは、EC条約第46条でも明定されており、人間の尊厳の保護は公序に該当するとした。また、営業の停止は必要以上の制約にあたらないため、比例性の原則に反しないとした(Case C-36/02 Omega [2004] ECR I-9609)。



(3) その他の重大な必要性

 商品や人の移動の自由と同様に、サービスの移動の自由は、さらに重大な必要性に基づき制約されることがEC裁判所の判例法上、確立している。例えば、@司法制度の実効性、A賭けや宝くじ事業に関する社会秩序維持や詐欺撲滅、B知的財産権の保護、C労働者の保護、D公正取引や消費者保護、E文化保護やマスメディアの多様性の維持、F租税上の理由などがこれに属する。なお、EC裁判所は、これらの理由に基づくサービス提供の自由の制約に関し、加盟国に広範な裁量権を与えている(Herdegen Rdnr. 326)。例えば、スポーツくじ(ロト)の販売を認可制にし、違反者に罰金を科すことはサービス提供の自由(および 開業の自由 )の制約に当たるとする一方で、スポーツくじの禁止が公序や消費者保護といった公益によって正当化されるかどうかは加盟国(国内裁判所)の判断に委ねている(Joined Cases C-338 and 359-360/04 Massimiliano Placanica; Case C-42/07 Bwin)

サービス提供の自由の制限は、その目的に適した方法で、最小限度の制約によってのみ許される(ECJ Case C-288/99 Collective Antennevoorziening Gouda [1991] ECR I-4007, para. 15)。つまり、比例原則の観点から、制限措置の適法性が審査される。



4. ECの措置

(1) 第3国の国民のサービス提供の自由

 EC条約上、サービス提供の自由は、域内に滞在するEU市民に保障されるが、EU理事会は特定多数決にて、域内に滞在する第3国の国民にも保障することを決定しうる(第49条第2項)。現在まで、理事会の決定は下されていない。


(2) サービス市場の自由化

 ある特定のサービスを自由化するため(制限を撤廃するため)、EU理事会は、特定多数決にて指令を制定しうる(第52条第1項)。これは、開業の自由の分野でも、これに匹敵する規定が存在するが(第44条)、立法手続が異なっている(サービスに関し、欧州議会は拘束力の意見を述べうるに過ぎない)。


(3) サービス提供の容易化

 開業の自由の場合と同様に(第47条)、EU理事会は、サービスの提供を容易にするために指令を制定し、国内法を調整しうる(第55条参照)。すでに多くの第2次法が制定されているが、特に重要な例は以下の通りである。


 @ 弁護士活動の自由化に関する指令

 サービス提供の自由を保障するため、学位や職業資格の相互承認に関する指令がすでに多数、制定されている。例えば、指令 77/249/EEC は、弁護士活動の自由化について定めているが、同第5条によれば、自国内で認可された弁護士の了承を得ることを条件として、他の加盟国の弁護士の活動を認可することができる。この規定に基づき、ドイツは、国内法を改め、外国人弁護士は、常に国内弁護士の了承を得なければ活動しえず(口頭弁論においては、ドイツ人弁護士の同伴を必要とする)、これは、弁護士による代理が必要とされないケースにおいても同様であると定めた(BGBl. 1980 I, 1453)。しかし、 このような規定は弁護士活動の自由を必要以上に制限するもので、公共の利益によって正当化されるものではないとEC裁判所が判断したことを受け(Case 427/85 Commission v Germany [1988] ECR 1123, paras. 13 et al and 25 et al)、ドイツ法は改正されている。


   弁護士の開業については こちら



 A 放送の自由化に関する指令

 1989年に制定された指令(89/552/EEC, OJ 1989, No. L 298, 23)は、EC内におけるテレビ放送の自由化について定めているが、テレビ放送は、原則として、発信国によって規制される(第2条参照)。これは、ケーブルを通じ、発信する場合でも同様であり、他の加盟国による規制は、例えば、重大な青少年保護規定違反が存在する場合等において、厳密な条件に従ってのみ認められる(ケーブル放送の発信を許可制にすることの違法性について ECJ Case C-11/95 Commission v Belgium [1996] ECR I-4153, paras. 20 et al and 29 et al)。

 なお、同指令には、ヨーロッパの番組を助成する規定も盛り込まれており、物議を醸している。例えば、アメリカで制作された番組が市場を独占するのを防ぐため、番組編成や制作費の面で、ヨーロッパの番組が優遇されており、同番組の比率はある一定レベルに達していなければならない(第4条および第5条参照)。このような規定は、欧州文化の保護に寄与する一方で、テレビ局の営業活動を制約することになるが、EC条約上、正当化されるものではなく、また、欧州人権条約第10条(表現の自由)の観点から、その適法性が問題視されていている




 B 郵便サービスの自由化に関する指令

     詳しくは こちら

ポスト




 C その他のサービス提供の自由化に関する指令


     詳しくは こちら



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