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2005年10月のEU加盟国首脳会議 New

 2005年10月27日、ロンドン郊外のハンプトンコート(Hampton Court)宮殿において、非公式のEU加盟国首脳会議が開催された。議題は、@ イラク大統領の発言問題、A 国連の独立調査委員会に対するシリアの協力、B パキスタン地震、C EUの移民政策など、多岐に亘ったが、主たるテーマは、D 国際化(市場の開放)への対応EU競争力の強化であった(参照)。慣例とは異なり、最終決議(書)が発表されていないため、Dの点に関し、どのような決定が下されたかは定かではないが、具体的な政策は決まっていないと解される (参照)。今回の協議は、12月の首脳会談を成功に導くための足がかりとされており、会議現在、EUが直面する危機 を深めないよう、男性ばかりからなる会議は穏やかな雰囲気の下で開かれた。終了後のプレス・コンファレンスにおいて、欧州委員会の Barroso 委員長は、外の天気だけではなく、会議場の中も、すばらしい空気に包まれていたと述べている(参照)。 しかし、目標とされた12月の首脳会談の準備が整ったかどうは疑わしい。
  リストマーク Verheugen 欧州委員の批判  © European Community,
2005

 

 現在のEUの主要課題の一つとして、 EU次期(2007〜2013年)財政計画 が挙げられるが、12月までEU理事会議長国を務めるイギリスの Blair 首相は、12月の会議における決定を目指している。財政計画はEUの政策に大きな影響を与えるだけではなく、EUの将来 を左右する。進展する経済の国際化の中で、中国やインドといった成長の著しい国々に対抗しうる競争力を維持・向上させ、また、少子高齢化、高失業率など、EU内部の問題に対処することが、EUの将来を論じる上で重要な課題とされているが、そのためには、社会モデル の見直しの必要性も強く指摘されている。

 これらの点を踏まえ、欧州委員会は、国際化ないし市場開放を推進する一方で、その悪影響(例えば、失業問題)を緩和するため、新しい基金(Globalisation Adjustment Fund)の創設を提案している(参照)。しかし、報道によると、今回の首脳会談において、この提案は、すべての加盟国の支持は得られず (参照)、廃案(ないしは修正)に追い込まれた。特に、現在、すでに多くの資金をEUに拠出しているドイツの Schröder 首相は、さらなる負担増に反対する一方で、基金創設に必要な費用は、外交、研究開発費に充てるべきと主張している。社会モデル の見直しといった重要かつ難解なテーマを、基金の創設で解決しようとする試みを阻止したことは、まもなく任期が切れる Schröder 首相の最後の功績の一つに属すると、ドイツのメディアは評価している(参照)。

 同じく、財政負担の大きい、デンマークの Rasmussen 首相 も、基金による保護は長期的には失業問題の解消につながらないと批判している。EU外交筋によると、さらに、スウェーデンやオランダ(いずれもEUに比較的多くの資金を拠出している)、また、エストニアも基金の創設に反対しているとされる。これに対し、国際化推進派のイギリスや、同基金の恩恵を大きく受けるとみられるフランスは支持を表明している。基金の創設は、すでに、Prodi 欧州委員会によっても提唱されているが、当時は、イギリスも反対し、実現しなかった (参照)。Barroso 委員会が再び提案した背景には、サービス市場の開放に反発しているEU市民(特に、フランス国民)の不安を和らげることを意図したものと解される (参照)。

 議長国イギリスの Blair 首相は、12月の会議では、基金の創設も含め、懸案の 次期財政計画 について加盟国の見解をまとめたいとしているが、自国の優遇策 の見直しについて、イギリスが譲歩し、また、農業政策予算の削減にフランスやスペインが合意するかどうかは疑問である。農業補助金の削減については、現在、WTO交渉の場でも議論されているが(参照)、フランスの Chirac 大統領は、2003年に決定された方針の変更に強く反対すると今回の首脳会談でも述べている(参照)。なお、近く発足する新ドイツ政府は、農業予算問題の点では、従来どおり、フランスを支持するとしている。



(参照) 首脳会談終了後の Blair 首相と Barroso 欧州委員会委員長のプレス・コンファレンス(UK Presidency の公式サイト)

Der Standard v. 27. Oktober 2005 (Stichwort: EU-Globalisierungsfonds)

Der Standard v. 28. Oktober 2005 (Richtige Fragen, kaum Antworten)

Der Standard v. 28. Oktober 2005 (Pressestimmen: "Schlossgeplauder ohne Folgen")

Die Prese v. 22. Oktober 2005 ("Feel-Good-Gipfel" des Männerbundes)

Die Welt v. 28. Oktober 2005 (EU streitet über Globalisierungsfonds)


Handelsblatt v. 27. Oktober 2007 (Chirac gegen den Rest der EU)

 


2005年10月の首脳会議




(2005年10月28日 10月29日 更新)