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EU
 アメリカの輸出関連法人所得税軽減措置
 に対する
EU の報復
アメリカ合州国


 2004年2月27日、ドイツの Schröder 首相は、ホワイト・ハウスにおいて、Bush 大統領と会談した。終了後、ドイツテレビ局 ZDF のインタビューにおいて、ドイツ首相は、イラク戦争に際し、両国の関係は非常に悪化したが、今回、米大統領より「おかえりなさい」と歓迎されたのはなぜかという質問を受け、それは両国が良好な関係を築いてきたからだと答えた。アフガニスタンの復興支援活動や国際テロ対策に対するドイツの貢献が評価されたと解される。もっとも、和やかに行われた首脳会談の裏では、新たな紛争が芽を吹き出そうとしていた。


 米国は、内国法人(親会社)が国外に子会社を設けて物品を輸出させ、この輸出より得られた所得について、税を軽減している。一般に、輸出関連子会社は、法人税を優遇する第3国(いわゆるタックス・ヘブン)に設立されているが、これによって、アメリカ企業は輸出競争力が高まり、不公平であるとの不満が EU 企業の中から出ていた。



DISC/FSC



 これを受け、EC がWTO に提訴したところ、同措置は、国際貿易協定に反する不正な企業補助金にあたるとの判断が示された。それを踏まえ、米国は、2000年11月、制度を改正したが、新税制も WTO 法に違反するとの判断が下された。米国の国際法違反に対し、EC は報復措置を発動することができるが、税法改正に必要な時間を米国議会に与えるため、直ちに制裁を加えることを控えていた。しかし、改正作業が進展しないため、WTO に制裁の発動許可を求めたところ、2003年5月7日、これが正式に承認された。

 これを受け、EU理事会は、2003年12月、規則(Regulation No 2193/2003)を制定し、2004年3月1日より、所定のアメリカ製品(精肉、紙、繊維など)に対し、5%の制裁関税を課すことを決めた。関税率を毎月、1%ずつ増加させることで、アメリカ側に圧力を加えることになっているが(上限は17%)、EU 域内でも、輸入品の値上がりといったデメリットが生じうる。

 3月1日、報復措置は実際に発動された。EC が WTO 法に基づき、制裁を講じるのは今回が始めてあるが、他方、米国は、EUがホルモン剤使用牛肉の輸入を禁止していることの報復として、1999年より、年間約1億1600万USドルにもおよぶ関税をEU製品に課している。



紛争の背景 ship


 輸出企業への課税をめぐる欧米間の紛争は、1970年代に遡る。1972年に施行された米国の「内国国際販売会社」(Domestic International Sales Corporation (DISC))税制は、不正な輸出補助金にあたり、GATT第16条第4項に反するとし、EC が GATT に提訴したところ、小委員会(パネル)は、EC の主張を容れ、米国税制を協定違反と認定した(1976年)。後にこの判断はGATT締約国によって採択されるに至り(1981年)、米国は DISC を改め、「外国販売会社」(Foreign Sales Corporations (FSC)) 制度を導入した(1984年)。当初より、ECは新制度も GATT に反すると考えていたが、ウルグアイ・ラウンドが開始されたことに鑑み、提訴を見送った。もっとも、新制度より受ける米国企業の利益が増大するにつれ、1997年、EC は米国との協議を再開することになったが、交渉がまとまらないため、WTO に提訴した。1999年10月、WTO小委員会(パネル)は、FSC は補助金協定と(農産物の輸出に関しては)農産物協定に違反すると判断したため、米国は上級委員会に控訴したが、同委員会は、小委員会の判断の一部に修正を加えたものの、その結論を支持した。後に、この決定は、WTO 紛争処理機関によって採択され、WTOは、2000年10月(後に、EUと米国の合意に基づき、同年11月に延長)までに、問題の税制を廃止するよう米国に勧告した。

 これを受け、米国は、2000年11月、FSC 改正法(Extraterritorial Income Exclusion Act (ETI Act)) を制定したが、実質的には何ら修正されていなかったため、EC は、改めて WTO に提訴し、新制度と WTO諸協定の整合性について審査を求めた。また、同時に、約 400万ドルに及ぶ報復措置の発動を申請したが、WTO の紛争処理機関によって審査されている間は、制裁を加えないことで合意された。

 2001年8月、小委員会(パネル)によって、ETI Act も WTO法に違反すると判断され、翌年1月、同判断は、上級委員会によって確認された。同委員会の判断は、同月中に紛争処理機関によって採択され、EC は報復措置の発動を申請した。この申請について、仲裁人は、上級委員会の報告書の採択から60日以内に決定を下すことになっているが(WTO紛争解決了解第22条第6項参照)、約5ヵ月遅れとなる 2002年8月、仲裁人は、EC の要請どおり、約 400万USドルの報復措置の発動を許可した。同金額は、米国の補助金額に相当する。

 当初、EC は、制度改正に必要な時間を米国議会に与えるため、直ちに制裁を加えることを控えていたが、改正手続が進展しないのを受け、制裁対象品を特定し、その発動許可を WTO に求めたところ、2003年5月7日、WTO 紛争処理機関によって正式に承認された(紛争処理了解第22条第7項参照)。





[参考]

 報復に関する欧州委員会の声明  (欧州委員会の公式サイト[英語])

 報復の法的根拠 COUNCIL REGULATION (EC) No 2193/2003, OJ 2003, L 328, 3 (英語)

 紛争の経過について
  (欧州委員会の公式サイト[英語])

 WTO紛争解決手続に係属したケース(EU関連) 
    (欧州委員会の公式サイト[英語])

  1976年の GATT 小委員会(パネル)の判断について
    柳赫秀「米国の国内税制(DISC)」
    松下満雄他編『ケースブック ガット・WTO法』 (有斐閣 2000年)
    122頁以下


 Der Spiegel (独語)

 独・米首脳会談 (ドイツ連邦政府の公式サイト) 独語 英語 仏語