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EU

 欧米貿易紛争の激化
 
〜 アメリカの鉄鉱セーフガードに対するEUの報復 〜

アメリカ合州国


 2002年3月5日、アメリカは、国内の鉄鋼産業を保護するため、輸入鉄鋼製品に、最高30%の関税を賦課することを決めた(執行は同年3月20日)。このセーフガード措置はWTO法に違反するとして、EC、日本、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュー・ジーランドとブラジルがWTOに提訴したところ、WTO紛争処理機関の小委員会(Panel)は、2003年7月11日、原告の主張を容れ、米国のセーフガードはWTO法に違反すると判断した。これを不服とし、米国は控訴していたが、上級委員会(Appellate Body)は、2003年11月10日、小委員会の判断を支持する判断を下した(
WT/DS248/AB/R 他)。上級委員会によれば、米国のセーフガードは以下の点でWTO法に違反する。

米国の措置は、WTO法の要件とされる "unforeseen developments" の結果として採られたものではない。

ほとんどの製品に関し、輸入の増加はみられない。

アメリカの措置は、カナダ、メキシコ、イスラエルおよびヨルダンには適用されない。

 上級委員会の決定は、紛争処理機関が全会一致で否決しない限り、30日以内に採択される(WTO紛争解決協定第17条第14項)。したがって、遅くとも、12月10日には同決定が採択され、法的な拘束力が発生する。これに基づき、米国は、違法状況の除去が義務付けられるが、通常は、1年半の期間内にこれを行えばよいとされる。もっとも、ECは、WTOセーフガード協定第8条によれば、直ちに報復措置を発動することができるとし、上級委員会の判断が採択された日より5日後に、報復にでる構えを見せている(この報復措置の法的根拠となる EU理事会決定 (pdf.file) は、2002年6月13日に制定されている)。

 なお、本件における米国のセーフガードは、米大統領の宣言(Proclamation of 5 March 2002)を法的根拠としており、これを廃止ないし修正する権限も大統領に与えられている。それゆえ、違法状態の除去は、手続的に困難ではない。速やかな対応がなされれば、ECは報復措置の発動を控えるとしている。




new 追記(2003年12月5日)

 2003年12月4日、アメリカ合衆国政府は、鉄鉱セーフガード措置の即時撤廃を表明した。これを受け、ECは、その実現を注意深く監視するとしているが、欧州委員会の Pascal Lamy 委員(通商政策担当)は、約2年にわたる紛争の末、米国がようやく違法措置の廃止を決断したことを歓迎する一方で、自由貿易を妨げる補助金制度の見直しや国際的な過剰生産に対処すべく、OECDの場における各国の協議を徹底する必要性を指摘している。

 [参考] 欧州委員会の公式サイト (英語)


 本件では、鉄鋼製品に対するセーフガードの適法性が問題になったが、同製品について、アメリカは、ダンピング防止税も発動しており、それがWTO法に違反することはすでにWTO紛争解決手続において確定している。ECは、これらの措置によって、域内の鉄鋼産業は多大な損害を被っているとしており、米国の保護貿易政策を強く批判する見解も存するが、他方、ECは、1990年代にWTO法違反と判示された、バナナやホルモン剤使用牛肉の輸入規制をまだ完全に見直しておらず、アメリカの制裁を甘受している。なお、2003年10月、ECは、従来の指令(Directive)を改正した。新法(2003/74/EC) に従い、加盟国は、12カ月以内に国内法を整備しなければならないが、もっとも、それによっても、家畜の成長を促す目的でホルモン剤を使用することは従来どおり禁止される。また、消費者の安全性が完全に立証されていない薬剤の使用も、暫定的に禁止される。そのため、新法がWTO法に完全に合致するかどうかは疑問である。


[参考] WTO上級委員会の判断について (欧州委員会の公式サイト[英語])
WTO上級委員会の報告書(WT/DS248/AB/R 他)(WTOの公式サイト[英語]) (pdf.file) 
WTO セーフガード協定 (WTOの公式サイト[英語]) (pdf.file) 

米国鉄鋼製品セーフガートに関して  (欧州委員会の公式サイト[英語])

ホルモン牛肉の輸入に関する新しい指令(2003/74/EC)について (欧州委員会の公式サイト[英語])