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Ryanair に対する公的優遇措置の適法性




写真提供
Audiovisual Library European Commission



 ヨーロッパの航空市場では価格競争が激化しているが、いわゆる「ローコストキャリア」の代表格である Ryanair が、ベルギー・ワロン地方Brussels South Charleroi Airport (BSCA) より受けた優遇措置は、EC法に違反しないかどうかが争われていたケースで、2004年2月3日、欧州委員会は、その一部に限り、適法であるとの判断を下した。

 問題になっていたのは、 以下の措置である。

ワロン地方の措置
Charleroi における発着料の割引(乗客1人あたり1ユーロで、発着料の約50%の軽減となる)

BSCAの措置
・ Ryanair の広告費用の一部負担
(15年間に渡り、乗客1人あたり4ユーロ)
・ 新航路開設促進費の支給
・ パイロット養成・宿泊費の負担
・ 旅客の空港使用税の軽減

なお、これらの優遇措置は、他の航空会社には提供されなかった。


 域内における企業間競争の公正さを維持するため、EC条約は、国や公的機関による企業への補助金交付を禁止している(EC条約第87条以下参照)。ワロン地方の措置が取締りの対象となる公的措置に当たることは明らかであるが、BSCA の措置も、BSCA がワロン地方によって統制されている公的機関であるため、取締りの対象となる。

 なお、EC条約第87条第3項第c号によれば、ある産業部門や経済地域の発展を目的とした援助で、それがECの利益に反しないものであれば、許容される。地域経済の発展、公的交通手段利用の促進、隣接する空港の過密問題の解消、また、ECレベルでの交通ネットワーク(汎欧州ネットワーク)の構築といったECの利益に合致するため、広告費の負担や新航路の開設促進策は適法であると欧州委員会は判断した(もっとも、これらの措置は、一般に公開され、公平な基準に基づき実施されなければならない)。他方、その他の優遇措置はEC法に違反するとし、Ryanair に補助金の返還を命じている。
 
 この決定について、交通政策を担当する Loyola de Palacio 欧州委員は、「ローコストキャリア」の経済活動を支援するだけではなく、EU市民の利益を拡大するものだと述べているが、その他に、航空会社と空港との関係の透明性を高める上でも重要である。他方、Ryanair 側は、この判断を不服とし、EC裁判所に提訴する構えを見せている。



  追記
 
 2004年2月、欧州委員会は、Ryanair に補助金の一部返還を命じたが、この命令を執行するのは、欧州委員会ではなく、ワロン地方である。特に、返還されるべき金額を決定するのは、ワロン地方の責務 である。欧州委員会の決定によれば、ワロン地方は4月中旬までに必要な措置を講じなければならなかったが、@ 委員会の命令に不明な点があったこと、また、A Ryanair が速やかに必要な情報を提示しなかった ことに基づき、この期限を遵守することはできなっかった。そのため、ワロン地方は期限の延長を委員会に要請しているが、Ryanair が可及的速やかに情報が提出しないときは、補助金全額(1500万ユーロ)の返還を求めて提訴する構えも見せている。

(2004年7月5日記)





 
参考 欧州委員会の公式声明 (英語)
在独欧州委員会代表部 (独語)


Ryanair
ベルギー・ワロン地方
Brussels South Charleroi Airport (BSCA)