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 2004年6月10日〜13日
 欧 州 議 会 選 挙

選 挙 結 果




欧州議会選挙 各国の与党惨敗

 歴史的なEU拡大から約6週間が経過した6月10〜13日、第6回目の欧州議会選挙が実施されました。主たる選挙テーマは、EUに関わるものではなく、国内の政治問題であることから、国内選挙の前哨戦とされていましたが、各国の与党はおしなべて議席を減らす結果となりました。唯一、大躍進した政権政党は、スウェーデンの社会党、ルクセンブルクのキリスト教民主党(保守系)、また、ドイツの緑の党に限定されます。

 選挙前に同じく、保守系政党が最大の党派になりますが 参照、これがトルコのEU加盟にどのような影響を及ぼすか注目されます。保守派はイスラム教国のEU加盟に反対していますが、今秋の欧州委員会の報告を受け、EU理事会は、本年12月、トルコと加盟交渉を開始するかどうか決定することになっています (詳細は こちら

(2004年6月15日 記)





 欧州統合史上、未曾有の大規模拡大の日が本年5月1日に設定された背景には、新EU市民と共に欧州議会選挙に臨むという計らいがあった。しかし、それより約6週間後の6月10〜13日に実施された欧州議会選挙では、当初の予測どおり参照、欧州政治に対する市民の関心の低さと、国内政治に対する不満が浮き彫りなり、当初の意図が達成されたかどうかは定かではない。投票率は50%を大きく下回り(45.5%)、最低記録を更新したことを考慮すると参照、最大の敗者はEU自身であるという見解も主張されている 参照

 


 星 投票率

 欧州議会と Institut EOS Gallup の調べによると、今回の投票率は、44,6%(EU平均)で、最低記録を更新した(なお、欧州議会の中間発表 によれば、45.5%である)。また、新規加盟10か国の平均値は28,7%となり、欧州議会は落胆の色を見せている。特に、スロバキアでは16%であった。また、ポーランドでも19,9%に留まり、 同国の選挙史上最低レベルの投票率であった。

 なお、とりわけ欧州統合に懐疑的なイギリスの前回(1999年)の投票率はわずか24%とEU平均の半分以下であったが、今回は38.9%に達した 参照

 法的に投票が義務付けられているギリシャの投票率は、62.8%とEU平均を上回ったが 、1981年にEUに加盟して以来、最も低い値となった 参照。なお、同様に投票が法的に義務付けられているベルギーでは、従来通り、投票率は90%を上回った 参照


   リストマーク 従来の投票率  EU市民の関心が低い理由




 星 政権政党の大敗

 概して、加盟国の与党は辛酸を嘗めることになったが、これは、政府のEU政策ではなく、国内政策に国民が強い不満を抱いていることを示している。特に、ドイツの社会民主党(SPD)は、本領を発揮すべき社会政策の分野で強い批判を浴び、歴史的な大敗を喫したが 参照、同じく左派が政権の座にあるイギリス、ポーランド、ハンガリー、リトアニアでも国民の厳しい審判を受けることになった(フィンランドやキプロスでは、左派政権政党が僅差で保守系野党に敗れた)。保守政権のフランス、イタリア、デンマーク、ポルトガル、オーストリア、アイルランド、マルタ、また、自由民主主義政権のスロベニアやエストニアでも状況は同じで、与党は敗北した。大連立政権を擁するチェコの状況はさらに深刻で、与党3党は、総計しても、わずか6分の1の議席しか獲得できなかった参照。ラトビアも同様の状況にある。

 これに対し、与党が大勝利を収めることができたのは、スウェーデン(社会党)、ルクセンブルク(保守系政党)、また、比較的最近、新政権が発足したスペイン(社会党)とギリシャ(保守系)であった。ドイツでも、1994年以来、社会民主党(前述したように、今回は大敗した)と連立政権を組んでいる「緑の党」が躍進した 参照。本年3月の列車テロ事件後に行われた国政選挙で勝利を収め、政権についたばかりのスペイン社会党は僅差で第1党の座を守ったが、オランダでも保守系与党が辛勝した。

 なお、イギリスでは、イラク戦争を契機にブレア政権の支持率が低下しているが、BBC の調査によると、有権者のほぼ半数は、EUから脱退すべきかどうかを念頭におき投票したとされ、イラク戦争や国内の政治問題は重視されていないという。いずれにせよ、労働党は、1918年以来の大敗に甘んじなければならなかった(得票率は22%)。

 各国の選挙結果を総合すると、保守派は276席を獲得し、前回、初めて得た第1会派の地位を固守することに成功した。他方、社会党系政党は、ドイツで歴史的大敗を喫するなど、各国で苦戦を強いられ、201議席に留まった。

 自由党会派が66議席でこれに続き、環境保護派は42議席、左派は39議席、ナショナリストが27議席、そして、EU懐疑派を含めたその他の党派は66議席となった。EU懐疑派の議席の内、12議席は、EUからの脱退を訴えるイギリスの UKIP が獲得しているが(前回比で9議席増)、スウェーデンでは欧州議会選挙のために結成された「6月の党」が第3党に躍り出た。また、チェコでは、連立与党が大敗を喫したことは前述したが、欧州統合に懐疑的な保守政党 ODS は30%の票を獲得し、第1党に躍進した。

 極右政党は、ベルギーなどで得票数を伸ばしている。


   (参照) FAZ  ZDF



星 新加盟国 New (6月18日更新)

 現政権に対する不信は、特に、新EU加盟国において顕著であるが、当初の予測通り、中東欧の政権政党は惨敗した。特に、チェコでは、EU懐疑派の人民民主党(ODS)が約30%の投票を獲得し、第1党に躍進する一方で、Špidla 首相 が属する社会民主党(11%)は、同じくEUに懐疑的な共産党(約17%)よりも議席を減らした。


 また、ポーランドでも、連立左派政権は、国民主義派(LPR)やEU懐疑派よりも得票率が下回った。なお、投票率は19.9%で、国内議会選挙史上、最低レベルであった
参照

 その他、スロバキアやラトビアでも、EU懐疑派が勝利を収めた。

   (参照) NZZ


星 その他

 1999年、サンター欧州委員会は、一連の不正疑惑に関する批判を受け、退陣したが、内部資料を欧州議会(の環境保護会派)に提出し、議会による行政統制のきっかけをつくった元欧州委員会官僚の Paul van Buitenen は、政党を結成し、本国オランダで出馬していたが、7%を上回る票数を獲得し、彼の政党 Europa Transparent は、2議席獲得した。内部告発という目的であれ、機密文書を外部に流出させたため、元EU官僚は解雇され、また、罰金刑に処されたが、後に復職を果たした。しかし、約2年前に自主退職し、母国オランダの警察署で勤務する傍ら、ブリュッセルの不正解明に向けた活動を続けていた。今回の選挙で当選したことで、今後は欧州議員として、EUの透明性向上に尽力するものと解される。

   (参照) FAZ



リンク
 欧州議会選挙の結果に関するリンク

 ・ 欧州議会の選挙に関する公式サイト   

 ・ Der Spiegel (独)


(2004年7月3日 更新)