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 EU加盟に向けた新規加盟国の制度改革
   〜 欧州委員会の報告書 〜

 
 2002年12月12〜13日、コペンハーゲンで開催された欧州理事会は、新たに10カ国がEUに加盟しうることを決定したが ( 参考)、加盟予定日(2004年5月1日)をほぼ半年後に控えた11月5日、欧州委員会は、新規加盟(予定)国が加盟に必要とされる制度改革の進捗状況についてまとめた報告書(Comprehensive monitoring report [pdf-file][EU公式サイト])を公表した。これは、前掲のコペンハーゲン欧州理事会の決議に従った措置である。



 コペンハーゲン欧州理事会の最終決議 (pdf-file) (EU公式サイト)

Paragraph 5
"Monitoring up to accession of the commitments undertaken will give further guidance to the acceding states in their efforts to assume responsibilities of membership and will give the necessary assurance to current Member States. The Commission will make the necessary proposals on the basis of the monitoring reports. Safeguard clauses provide for measures to deal with unforeseen developments that may arise during the first three years after accession.
The European Council welcomes furthermore the commitment to continue the surveillance of progress with regard to economic, budgetary and structural policies in the candidate States within the existing economic policy co-ordination processes."




 報告書において、欧州委員会は、10カ国は、2004年5月1日までに 加盟基準を満たし、EU拡大は予定通り実現しうると結論付けているが(6頁および23頁以下)、EC法の総体系(acquis communautaire)の受容については、全ての国において、まだ問題点があり、迅速な国内法の整備が必要であるとしている(7頁以下)。その概要は以下の通りである。


 ◎ 統治機構改革(8頁以下)

EC法を適切に執行・運用するために必要な機構改革は各国で行われているが、人員、教育(語学教育を含む)、財政面において、さらなる改善が必要である。また、司法当局の強化も不可欠である。

公務員の不正行為(収賄)が依然として横行しているため、その対策を優先して実施すべきである。

EC法を各国語に翻訳する作業を迅速に進める必要がある。




 ◎ 法制度の整備(9頁以下)

 新規加盟国は、EC法の総体系(acquis communautaire)に合致するように国内法を整備しなければならないが、報告書の大半は、この作業の進捗状況の調査にあてられている。欧州委員会は、@整備がすでに完了しているか、支障なく完了しうる分野(9頁以下)、Aさらなる取り組みが必要な分野(10頁以下)、またB深刻な問題が残る分野(14頁)という3つの項目に分けて、次のように述べている。


 @ 整備がすでに完了しているか、支障なく完了しうる分野(9頁)

人、商品、サービスおよび資金の移動の自由
労働者の移動の自由に関しては、経過措置が適用される。

会社法の調整

競争政策

農業政策および地域政策(なお、一部の国においては、さらなる調整が必要である。)

漁業政策

交通政策および汎ヨーロッパ・ネットワーク

租税・関税政策(なお、1部の国においては、さらなる法改正が必要である。)


社会・雇用政策(なお、近時、制定されたEC法の受け入れは除く。)
労働者の健康と安全に関する政策、労働法(なお、1部の国は除く。)
男女平等

エネルギー政策

環境政策

司法・内政分野の協力、シェンゲン協定の実施
警察協力に関する国内法の整備も、加盟時までには実現される見通しである。

経済・通貨同盟、統計、産業政策、研究・教育政策、外交・安全保障政策の分野に関しても、特に問題なく、調整が行われると考えられる。

 なお、これらは、あくまでも一般論を述べたに過ぎず、個別的な問題が存在すると考えられる(後述AおよびB参照)


 A さらなる取り組みが必要な分野(10頁以下)

商品およびサービスの移動の自由、職業資格の相互承認(キプロスを除く各国)
工業製品、食糧品およびある種のサービスの移動の自由
資金の移動の自由に関し、ラトビアはさらなる徹底した措置が必要である。

工業製品や食糧品の安全性の監視

公共調達(チェコ、エストニア、ラトビア、ハンガリー、マルタ、ポーランド)

金融業に関する法令の整備(ポーランド)
保険業に関する法令の整備(チェコ、ラトビア、リトアニア、スロバキア)
投資・証券業に関する法令の整備(エストニア、キプロス、ラトビア、リトアニア)

独禁法の整備(ラトビア、スロベニア)
国家補助に関する法令の整備(チェコ、マルタ、ポーランド、スロバキア)
鉄鋼業界の再編(ポーランド)
国営企業の民営化

知的所有権の保護

ある特定の農産物市場に関する国内法の整備
ECの農業補助金の管理制度
地域政策(ハンガリー、マルタ、ポーランド)

石油の備蓄(キプロス)
電気およびガス(キプロス、ラトビア)
海上交通の安全(キプロス、マルタ)

消費税(ラトビア、ポーランド、スロバキア)
直接税(エストニア、マルタ、スロベニア)
中央銀行の独立性(ポーランド)

タバコの規制(チェコ、ハンガリー、マルタ、スロベニアを除く各国)
ヨーロッパ社会基金の運用

大気、ゴミ、産業廃棄物の処理(エストニア)
自然保護(チェコ、キプロス、ハンガリー、マルタ、ポーランド)

新規加盟国間における従来の(2国間)協定の見直し、または廃止

構造・結束基金(Structual and Cohesion Funds)の運用

シェンゲン協定の実施に伴う国境警備の強化(ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロバキア)
個人情報保護の改善(エストニア、ラトビア、スロベニア、スロバキア)
ビザ政策の完備(キプロス、ポーランド、スロバキア)
移民政策の完備(ラトビア、リトアニア)
庇護政策の適切な運用(エストニア、ポーランド、スロベニアを除く各国)
組織的犯罪の撲滅を目的とした警察協力の整備(リトアニア)
贈収賄やマネー・ロンダリング対策(チェコ、エストニア、リトアニア、ポーランド)
贈収賄や詐欺対策の強化(ラトビア、スロベニア、スロバキア)
麻薬対策の強化(ラトビア、ポーランド)


 
 B 深刻な問題が残る分野(14頁以下)

 迅速かつ抜本的な措置が講じられなければ、2004年5月1日までに、国内法の整備が達成されない事項として、欧州委員会が指摘するのは以下の通りである(全部で39の項目が挙げられている)。

 ・ 域内市場に関して

医療分野を含め、多くの職業分野における職業資格基準(最低基準)の策定と職業資格の相互承認(チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーラド、スロベニア)
以上の点が改善されない限り、これらの国で取得した資格は、他の加盟国において承認されないことになろう。

造船業界および船舶修理業界の再編(マルタ)
鉄鋼生産の数量制限(スロバキア)
政策実施の一環として、企業に補助金を支給することも認められよう。

漁船の検査・監視(リトアニア、ポーランド)
これが実施されないと、両国の漁師は、EC法上、禁止されている魚類(または漁獲量)を従来どおり釣り上げることができ、ECの漁業政策の機能を根本的に害することになろう。

EC労働法および男女平等に関する規定の受け入れ(エストニア)
国内法の調整が行われないと、エストニアはEC内の競争条件を阻害することになろう。

コンピュータ・システムの導入やECとの情報交換制度の改善(ラトビア)
これが実施されないと、特に、関税政策(関税同盟)の運営に支障が生じる。

動植物の検査、動物(家畜)の輸送に関する法令の制定・実施(ポーランド)
BSE対策や動物の廃棄物に関する取り扱い(ポーランド、ラトビア、マルタ)
安全な農産物の生産(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)
ジャガイモの疾病対策(ポーランド)

陸上運送業従事者の社会政策・安全措置(チェコ)

海上交通の安全(キプロス、マルタ)


 ・ EUより給付される資金の分配

適切な農業補助金給付制度の導入(特に、キプロス、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロバキア)

適切な農産物輸出補助金給付制度の導入(キプロス、マルタ)

地域開発政策(ハンガリー)

漁業市場政策(ポーランド)


 
 上述したように、改善の必要性が指摘されている分野・事項も少なくないが、EU拡大を担当する Verheugen 欧州委員は、新規加盟国や欧州委員会にとっては、周知の事実であるので、驚くに値しないと述べている( EUの公式サイト)。