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 飛 行 機 乗 客 の 権 利 保 護 に 関 す る 規 則 発 効


 2005年2月17日、航空会社による搭乗拒否、フライトのキャンセル、また、大幅な遅延から乗客を保護するEC規則(Regulation (EC) No 261/2004 of the European Parliament and of the Council)が発効した。従来の規則(No. 295/91)は、搭乗拒否についてのみ定めていたが、新法は適用範囲を拡大するだけではなく、搭乗拒否に対する補償についても、より厚く消費者を保護している。なお、荷物の紛失・破損については規定していない。


リストマーク 搭乗拒否に対する補償

 新規則によると、オーバー・ブッキングを理由に搭乗を拒否された旅客は、運賃の払戻し、または代替便の手配を請求しうるだけではなく、飛行距離に応じ、以下の補償を航空会社に求めることができる(第7条第1項)。


a)

1500 km 以下のすべてのフライト

250ユーロ(従来は150ユーロ)

b)

1500km を超えるEC内のすべてのフライトおよび1500km を越え3500 km 未満のすべてのフライト

400ユーロ(従来は150ユーロ)

c)

a と b に該当しないすべてのフライト

600ユーロ(従来は300ユーロ)


 なお、上掲の補償額は、代替便の利用により、2、3、または、4時間(上掲a~c の飛行距離に応じる)を超える遅延が生じなかったときは、半減することができる(第7条第2項)。

 その他、航空会社は、代替便の予約や、必要に応じ、宿泊・飲食費や通信費(電話代)の負担が義務付けられる(第9条)。



 2002年、ヨーロッパでは、25万人の旅客が搭乗拒否にあったとされる。これは、いわゆる no show を考慮し、座席数を上回る予約を航空会社が受け付けているためであるが、このビジネス慣行により、ルフトハンザ・ドイツ航空は 、年間(2002年)、90万人の乗客を搭乗させることができたとされる。なお、 旅客が予約をキャンセルするケースも少なくないため、オーバー・ブッキングにより搭乗拒否が生じるとは限らない。


(参照)

Die Welt v. 17. Februar 2005, Seite 17 ("EU verschärft Strafen für Überbuchung und Verspätung")




リストマーク フライトのキャンセルに対する補償

 フライトのキャンセルについて、航空会社が出発日の遅くとも2週間前に知らせなかったか、代替便の利用により到着が2ないし4時間遅れるときは、消費者は補償を請求しうる(第5条)。その額は、上掲の搭乗拒否の場合に準じる。もっとも、欠航は、防ぐことのできない特別の事情の発生に基づいていることを航空会社が証明したときは、補償を請求しえない(欧州委員会は、悪天候や飛行機会社職員のストライキは、この特別の事情に含まれないと解している)。なお、そのような場合であれ、旅行者は、必要に応じ、宿泊・飲食費や通信費(電話代)を請求することができる。

 欠航に際し、旅客は代替便の手配を請求しうる。代替便を利用するものの、5時間以上の遅れが生じるときは、旅費の払戻しを請求しうる。


リストマーク 遅延に対する補償

 上掲のフライト距離に応じ、それぞれ、2、3、または、4時間以上の遅延が生じた場合、旅行者は宿泊・飲食費を請求しうる。5時間以上の遅延については、航空会社は旅費の払戻請求に応じなければならない(第6条第1項)。



ぽいんと 防ぐことのできなかった特別の事情によってフライトがキャンセルされる場合、旅客は補償を請求しえないが、新規則が定めるその他の請求権は、特別な事情による場合であれ行使しうる。

 航空会社が請求に応じないときは、EU加盟国の関係当局(リストマーク リスト)に苦情を申し立てることができる(参照)。

 なお、上掲の額を上回る請求を認めることも否定されない。また、航空会社の責任を否認ないし限定する契約条項は無効である。

 格安チケットの場合には、運賃よりも補償額の方が高くなることもあるため、新規則はlaw-cost careers の経営状況を圧迫しかねない。これに対し、ルフトハンザ・ドイツ航空は、従来より乗客の権利・利益を尊重しているため、新規則の発効により、コストがかさむことはないとされる。

(参照)

Die Welt v. 17. Februar 2005, Seite 17 ("EU verschärft Strafen für Überbuchung und Verspätung")


 

 

リストマーク 紛争処理センターの設置

 新規則は、消費者の苦情申し立てを受理し、航空会社に権利保護を命じる機関の設置を加盟国に義務付けている。これは、時間と費用のかかる裁判手続の回避を目的としている。

 ドイツの場合は、連邦航空庁(Luftfahrt-Bundesamt (LBA)) がこの任務にあたる。旅客の苦情について審査し、EC法違反が認定される場合には、その遵守を航空会社に命じうるが、それでも紛争が解決されないときは、旅客は、国内の訴訟手続に従い、国内裁判所に提訴しなければならない。


区切り線



 旅客の保護や航空サービスの向上を目的としたEC規則は、EU内の空港を離陸するすべての飛行機に適用される。なお、定期便であるか、チャーター便であるか、また、law-cost careers の運航するフライトであるかは問わない。

 EU外の空港を離陸するフライトについては、以下の点に注意する必要がある。

 

新規則の適用

EUの航空会社(EU加盟国によって認可された航空会社)のフライトで、EU内に着陸する場合

あり ※

第3国の航空会社のフライト(EU内に着陸するかどうかは問わない)

なし


ただし、アメリカ合衆国のように、第3国で補償を受けられる場合は除く。



 なお、イギリスの裁判所より先行判断を求められたの受け(参照)、現在、EC裁判所は新規則の適法性について審査している。判決は2005年内に下されるものと解されるが、その間、規則は通常通り適用される。



(参照)

欧州委員会の公式サイト
欧州委員会のプレス・リリース

ドイツ連邦航空庁のホームページ (飛行機乗客の権利について)



(2005年2月18日記)