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ドイツ首相

新 し い E U の 理 念 の 確 立 を 訴 え る



ドイツのMerkel首相

 2006年5月5日から14日は、ヨーロッパ ・ウィークとして、欧州統合をテーマにした様々な催し物がEU内で開催されているが(参照)、その期間中の5月11日、ドイツの Angela Merkel 首相(写真右)は、ドイツ連邦議会において、EU政策に関する所信表明を行い、新しい時代には、新しい欧州統合の理念が必要であると訴えた。約35分に及ぶ演説の冒頭で、首相は、第2次世界大戦後、ECは、「平和共同体」として発足し、ヨーロッパにおける平和の維持・確立に貢献してきたと評価した。また、冷戦中における役割も評価した上で、現在の状況については批判的に見つめ直さなければならず、新しい時代には、新たな課題への取り組みが不可欠であるとしている。具体的には、国際競争が激化する過程において、ヨーロッパは、経済発展を達成するだけではなく、EU市民の不安を取り除くためにも、社会的側面 を重視し、雇用の確保に努めなければならないとする。また、外交・安全保障政策 の分野における加盟国間の協力体制を強化し、テロ対策や世界平和の実現に貢献しなければならないとしている。

 さらに、EUの行動能力を高めるためには、憲法条約 が不可欠であると強調している。憲法条約は、基本権や基本的価値観について明確に定めているとともに、諸機関の権限を初めて明確に規定し、民主主義上の欠陥を是正している。遅くとも、ドイツが理事会議長国を務める2007年上半期に協議を再開しなければならないが、憲法条約は非常に難解なテーマを含んでおり、加盟国間の見解も異なっているので、早急な結論付けは慎まなければならない(参照)。

 憲法条約に並ぶ大きなプロジェクトして、Merkel 首相は、EU拡大 を挙げているが、ブルガリアとルーマニア に対する約束は守られなければならないことを強調するとともに、EUの地理的限界を明確にする必要があり(参照)、欧州委員会は加盟候補国が加盟要件を満たしているかどうか明瞭に指摘すべきであるとしている。

 なお、2007年上半期の議長国期間中は、EU市民を中心に据え、新しい欧州統合・政策のあり方について検討するものとされる。また、ドイツやEU内の官僚主義の撤廃も重要な目標に掲げられている。他方、ドイツ国内の政策に関しては、ユーロの 安定・成長協定 を遵守する必要性(ドイツは2002以降、これに違反している)やコンゴへの軍隊派遣について触れている。


区切り線
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 この所信表明に対しては、現在、EUが直面している危機 に対する対策が不足しているとの批判や(参照)、憲法条約に関しては、その必要性が強調されるのみで、具体的な「救済策」が示されていないと指摘されている(参照)。もっとも、これらの点、特に、憲法条約に関する問題については、EU内の最大のパートナーであるフランスの大統領選(2007年前半)が終了するまで、ドイツ政府は確固たる措置を講じることができないものと解される。

 EUの地理的限界を明確にする必要があるとする点は、すでに3月、欧州議会も同旨の決議を採択しているが、これは、党派を同じくする Brok 議員の提案に基づいている(参照)。かねてより、Merkel 首相は、トルコのEU加盟に反対してきた。所信表明では明確にされていないが、同国のEU加盟をけん制する狙いがあるものと解される。




(参照) Deutsche Bundesregierung, 11. Mai 2006 (Die europäische Idee neu denken)
 

Deutsche Bundesregierung, 11. Mai 2006 (Regierungserklärung von Bundeskanzlerin Angela Merkel)

 

FAZ v. 11. Mai 2006 (Regierungserklärung: „Wir brauchen den Verfassungsvertrag“)


Die Welt v. 12. Mai 2006 (Kommentar: Kritische Masse)


ドイツ首相、憲法条約に関する協議は慎重に 


写真提供:© European Community 2006



(2006年5月11   5月15日 更新)