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Van Parys 判決


Case C-377/02, Van Parys [2005] ECR I-1465

EC裁判所 2005年3月1日 判決


 この事例では、再び、バナナ市場規則 の適法性が問われることになったが、1997年9月、WTO の紛争解決機関(DSB)は、同規則が WTO 諸協定に反することを認定している(参照)。これを受け、同規則は部分的に改正されているが(Council Regulation (EC) No 1637/98 of 20 July 1998 など、新法も WTO 諸協定に反することが 1999年5月、DSB によって確認されている(参照)。その後、ECはバナナ市場規則をさらに改正しているが(Council Regulation No. 216/2001 of 29 Januar 2001 など)、2001年4月、紛争当事国であるアメリカおよびエクアドルと は合意を締結するに至った。

 本件判決(先行判断手続国内裁判所における事例は こちらにおいて、EC裁判所は、WTO諸協定の性質・体系を考慮すると、同諸協定に基づき、EC法の適法性は審査されないこと(para. 39)、また、その例外は、ECがある特定の条約義務の履行を意図していたり(Nakajima判決理論)、ある特定の条約規定に明瞭に言及している場合(Fediol判決理論)にのみ認められる(para. 40)とする従来の判例法を確認している。その上で、確かに、ECは、DSB の判断に従うべく、Council Regulation (EC) No 1637/98 of 20 July 1998 を制定しているが(see paras. 14 and 49)、それゆえに、WTO諸協定に基づき、法令審査が例外的に行わなければならないわけではないと述べている(para. 41)。この判断は以下の理由に基づいている。


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 すでに Portugal v. Council 判決の中でも指摘されているように(See Case C-149/96, paras. 36-40)、DSBが諸協定違反を認定する場合であれ、WTOの紛争解決制度は、加盟国間の交渉による紛争解決を重視している。 つまり、確かに、違反措置の撤回が最優先されるべきであるが、迅速に撤回しえない場合は、代償の提供や条約義務の履行停止も暫定的に認められる(DSU第3条第7項)。代償の提供や条約義務の履行停止は、妥当な期間内にDSBの勧告を実施することができない場合に許される暫定的な措置であるが、妥当な期間内に実施しえない場合には、関係加盟国は、相互に受け入れることのできる代償の提供について交渉することができる(第22条第2項)(つまり、勧告の実施期間が終了した後において、代償の提供は認められる)。また、第22条第8項によれば、紛争が解決されるまで、つまり、違反措置が撤回されるか、紛争当事国間で相互に満足しうる解決が得られるまで、DSBの議事日程に掲げられる。違反国がDSBの勧告や決定を適切に実施しているかどうか争いが生じる場合は、再び、DSBに提訴しうるが、当事国間の合意により紛争を解決することも認められている(第21条第5項)。このような合意による紛争解決は暫定的にしか許されないにせよ、司法機関がWTO諸協定に照らし、法令審査を行うとすれば、立法・行政機関に与えられた、交渉により紛争を解決する権限(第22条)を否認することになる(paras. 42-48)。

A

 バナナ市場規則に関しては、紛争当事国であるアメリカおよびエクアドルと合意が成立している(para. 49)。

B

 DSBの判断の実施期間が経過した後、裁判所がWTO法との適合性を審査しなければならないとすれば、ECの交渉権限を弱めることになる(実施期間の経過後であれ、ECは交渉により紛争を解決することができる)(paras. 50-51)。



 EC裁判所は、さらに、ECの主要なパートナーが、WTO諸協定の内容や趣旨に鑑み、その裁判規範性を否認していることは明らかであるが、ECが一方的に司法審査を実施するとすれば、WTO法の適用に関し、不均衡が生じる危険性があることを指摘している(para. 53)(参照)。




リストマーク 解 説 リストマーク


 従来より、EC裁判所は、DSBがWTO違反を認定した措置の撤回に代わる行為は一時的にしか認められないこと(暫定的性質)を強調している(参照)。また、2003年9月に下された Biret 判決 では、DSBの判断の効力(WTO諸協定が直接的効力を有さないことにどのような影響を及ぼすか)について検討すべきことが指摘されているが、このケースでは、DSBの判断の実施期間がまだ経過していないことに基づき、司法審査は行われていない。これらの点を考慮すると、DSBの判断の実施期間が経過した後であれば、WTO諸協定に照らし、EC法(第2次法)の適法性を審査するものと考えられたが(参照、Tizzano 法務官同旨(para. 78))、本件判決において、EC裁判所はこれを否認している。Biret 判決では、実施期間終了後の場合についてまで、明確に判示されているわけではないため、本件判決はこれに矛盾するわけではない。もっとも、代替措置の一時的な性質を強調する先例とは完全に一致していない。しかし、交渉による紛争解決の可能性を認めるWTO法の趣旨には合致しているため、判旨は支持しうる(これに反し、Tizzano 法務官は、Alber 法務官の見解を引用しながら、違反措置が撤回されないのは、国際法違反に他ならないとし、司法審査の必要性を強調している(paras. 63-73))。なお、DSUによれば、当事者間の合意は、WTO諸協定に一致していなければならないが、この点について、EC裁判所は審査していない(参照)。

 本件判決によれば、DSBの判断の実施期間が経過した後も、WTO諸協定に基づく司法審査は原則として行われない。また、DSBの判断を実施するために、ECが法令(第2次法)を改正していることは、Nakajima 判決理論の要件を満たさない(Tizzano 法務官は、反対の見解を述べている(paras. 96-104))。これは、ECの交渉権限に基づいているが、第1審裁判所の先例は、これに合致していない。

 本件は、紛争当事国であるアメリカやエクアドルと合意が成立している事例であるが、そうでなければ、司法審査が必要になるかどうか定かではない。ECの裁量権(交渉権限)を重視するならば、この問題は否定されよう(そうでなければ、将来の交渉の可能性が否認される)。





(参照)

Case C-307/99, OGT Fruchthandelsgesellschaft mbH [2001] ECR I-3159

Case T-19/01, Chiquita Brands International v. Commission




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