通 商 政 策 の 対 象 |
共通通商政策の伝統的な対象は「モノ」である。その典型例は、農産物や工業製品であるが、農産物については、農業政策に関する特別規定(EC条約第37条)が優先して適用される場合がある(詳しくは こちら)。その他、欧州石炭・鉄鋼共同体条約や欧州原子力共同体条約の対象となる鉱物・エネルギー資源も通商政策の対象に含まれる[1]。 近年はサービスの貿易も重要性を増しているが、従来は、モノの貿易と態様が異ならない限度において、通商政策の対象になるとされてきた。つまり、ECから第三国への[2]人の移動を伴う場合や、サービスの提供地に提供者の営業所等が設置されている場合は、通商政策の対象から除外されると解されてきた。なぜなら、人の移動や営業所等の開設に関しては、通商政策とは異なる特別の規定がEC条約内に存するからである[3]。しかし、現在は、ニース条約に基づき、人の移動を伴うサービス貿易についても、通商政策の対象に組み込まれているが(EC条約第133条第5項)、文化的なサービス、オーディオビジュアル・サービス、また、教育や社会・医療部門に関するサービスについては、この限りではない(第6項第2款)。
通商政策の一環として、ECは第3国やその他の国際機関と条約を締結することができるが(EC条約第133条第3項参照)、この条約は、通商政策上の性質の他に、発展途上国の支援(開発支援)、経済政策、また、外交政策としての側面を付帯する場合がある。例えば、アフリカ諸国の支援を目的として、これらの国の農産物の輸入奨励について定める条約は、貿易的側面(つまり農産物の輸入)の他に、開発支援という側面を有している。このような場合であれ、ECは、通商政策の一環として条約を締結しうるかどうかについては、これまで度々争われてきたが、EC裁判所は、条約の主たる目的や内容を考慮し判断している。つまり、条約が輸出入量や貿易形態に影響を及ぼすことを主たる目的としていたり、条約の主たる内容が、これらの点に関連する場合は、その他の政策の要素が含まれている場合であれ、通商政策の対象に含まれる。
なお、EC裁判所によれば、EC条約が定める通商政策の概念は、慣習的な例に倣い、狭く解釈されてはならず、国際取引やその法制度の発展に応じ、拡張しうる(Opinion 1/78,
Internationales Naturkautschuk-Übereinkommen [1979] ECR 2913)。 それゆえ、通商政策の対象も拡大しうることになる。
[1] Opinion 1/94, WTO [1994] ECR I-5267 (paras. 24 and 27). なお、欧州石炭・鉄鋼共同体条約は、2002年7月に効力を失っている(詳しくは こちら)。 [2] その逆も含める。 [3] Opinion 1/94, WTO, op. cit., (paras. 84 et al).なお、通商政策の対象に関するその他の問題につき、入稲福 智「ECの共通通商政策の分野における権限とEC裁判所における『意見』(Advisory Opinion)手続」法学研究第68巻第12号605頁以下(615頁以下)を参照されたい。
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