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EU(EC)の通商政策



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1. EU/ECの権限

  政治的ないし軍事的な理由によって第3国との関係が悪化したり、第3国における重大な人権侵害に対処するため、国家は第3国との経済関係を規制(輸出入の禁止・制限など)することがある。ECにもこのような経済制裁を発動する権限が与えられているだろうか。かつては、この点について明瞭に定める規定が存在しなかったため、異なる見解が主張されていた。つまり、ECは経済分野で活動する国際機関であるが、例えば、通商政策上の規定(第113条)に基づき、政治的な目的(外交・安全保障政策上の目的)を持つ制裁を第3国に対し発動しうるかどうか争われていた。また、制裁は、物品の輸出入規制だけではなく、飛行機や船舶の乗り入れ禁止といった措置を含むこともあるが、後者も通商政策上の規定(第113条)によってカバーされるかどうかという問題も存在した。一般に、欧州委員会はECの権限を認めていたのに対し、EU理事会は 否認していたが、実務では、事前に 欧州政治協力 の枠内で合意が形成されている場合には、ECの権限を認めるようになった。 例えば、旧ソ連(1980年[アフガニスタン侵攻])、ポーランド(1982年)、アルゼンチン(1982年[フォークランド戦争])、 南アフリカ(1986年[アパルトヘイト])、イラク(1991年[湾岸戦争])などに対し、制裁が加えられている 。なお、これらの措置のほとんどは、国連安保理決議を実施するために設けられたものである。

 上述した制裁は、EC条約第113条(通商政策)を根拠にしたり、または、特別な根拠規定を明示することなく、発動されてきたが、上述した法的問題を解決するため、1993年11月発効のマーストリヒト条約は、EC条約第301条 を新たに設け、外交・安全保障政策上の理由に基づき、第3国との経済関係を停止、制限または完全に打ち切る権限をECに与えている 。また、第60条は、資本の移動および支払いに関し、必要な措置を講じる権限について定めている。

 なお、第301条および第60条の文言上、制裁の対象は第3国となるが、第3国とは関係のない特定の人物や団体・組織に対して制裁を発動しうるかどうかという問題が生じている(詳しくは こちら)。
 

2. 立法手続

 第3国に対する経済制裁は、外交政策上の性質を有するため、まず、共通外交・安全保障政策(EUの第2の柱)の枠内で方針が決定される。つまり、EU条約第14条または第15条(EC条約ではない点に注意を要する)に基づき、EU理事会が「共通の行動」や「共通の立場」(参照)を採択し、制裁の発動について決定する必要がある。

注意

 「共通の行動」と「共通の立場」は、EU理事会の全会一致によって採択されるが、前者とは異なり、後者はすべての加盟国を拘束するわけではない。そのため、後者によって制裁の発動が決定されるときは、すべての加盟国がこれに参加しなければならないわけではない。例えば、武器の輸出規制は、通常、「共通の立場」によって決定され、各加盟国の行動に委ねている(EC条約第296条参照)。

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共通外交・安全保障政策の分野において採択された制裁措置



 「共通の行動」または「共通の立場」 が採択された場合、EU理事会は、EC条約第301条の定めに従い、必要な措置を発することができる。このようにして、外交政策と対外的な経済政策(通商政策)の一貫性が保たれることになる。

制裁


注意

 なお、実務では、迅速性を期すため、「共通の行動」または「共通の立場」が採択される前に、EC条約第301条の手続が開始されている。

 第301条は、制裁措置の内容(および制裁の理由)を特定していないが、第3国との貿易の規制(武器の輸出規制を含む)、また、資金の流通規制(例えば、第3国への送金の停止)、資本凍結など、経済措置がその対象になる。資本・資金の流通に関する制裁を発動しうることは、第60条で明定されている。

 他方、外交関係の断絶やスポーツ・文化行事への参加ボイコットなど、外交政策上の性質を有する措置は、EC条約第301条ではなく、EU条約内の共通外交・安全保障政策に関する規定に基づき発せられる。

 武器の輸出規制について、EC条約第296条は、各加盟国が独自の措置を講じることができると定める。


 第301条によれば、EU理事会は、欧州委員会の提案に基づき、特定多数決 にて議決をとるが (かつては、委員会の提案の必要性や全会一致の適用について争われていた)、EU条約第23条第1項後段や共通外交・安全保障政策の枠内で特例が設けられるときは、これとは異なる立法手続によることができる。また、外交政策上の性質を有さない経済制裁(例えば、EC・第3国間で締結された条約の違反に際し発動される制裁)は、前掲の手続によらず、発動することができる 。

 通商政策上の措置と同様に(第113条第3項参照)、欧州議会の関与については全く定められていないが、これは立法手続を迅速化の要請に基づいていると解される。


  リスボン条約 は従来の「3本柱構造」を廃止しているが、共通外交・安全保障政策は政府間協力として存続する(詳しくは こちら)。制裁の発動も、従来のように2段階の手続をとる。つまり、共通外交・安全保障政策の分野で決定が下され、その実施に必要とされる措置を理事会は特定多数決にて発することができる(EUの機能に関する条約第215条第1項)。なお、理事会の措置は、共通外交・安全保障政策の上級代表と欧州委員会の共同提案に基づいていなければならない。また、欧州議会に通知する必要がある。

 ところで、リスボン条約は、第3国だけではなく、特定の個人や組織に対しても制裁を発動することを認めているが(第215条第2項)、その一方で、権利保護手続の重要性を強調している(第3項)。EUの制裁の有効性を争い、自然人や法人がEU裁判所に提訴しうることは、第275条第2項でも規定されている(ただし、第263条第4項の訴訟要件を満たす必要がある)。




3. 第2次法

 EC条約第301条および第60条は、EU理事会が発しうる第2次法の形態を特定していないが、通常は規則(regulation)が制定されている。なお、両規定は、「緊急措置」(urgent measures)を発することができると定めるが、実際には、時間的な制約は設けられていないと解すべきである。

 

 

4. その他

 EC条約第301条や第60条は、経済制裁の発動を認めているが(GATT第21条もこれを許容する)、発動に際しては、一般国際法上の要件を満たさなければならない。特に、対象国が国際法に違反していることが重要である。



(参照)

欧州委員会のホームページ
ドイツ経済・輸出規制庁(BAFA)のホームページ


中国に対する武器の輸出規制




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