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EUの教育・青少年政策

1. はじめに

 従来、ECは社会政策の一環として、職業教育を奨励するプログラムを実施してきた(EEC条約第128条参照)。ECのこの権限は、EC裁判所によっても承認されているが(ECJ 1989, 1425 - ERASMUS; 1989, 1615 - Petra; 1991, I-2757 - COMETT)、1993年11月発効の マーストリヒト条約 に基づき、新たな根拠規定が設けられている(EC条約第149条)。この一般規定の他に、EC条約内には、職業訓練に関する規定が盛り込まれている(農業政策の分野に関し第35条、開業およぼサービス提供の自由に関し第47条、雇用政策に関し第125条、社会政策に関し第140条、また、労働者の移動の自由に関し第39条)。また、職業養成に重点を置かない一般教育や生涯教育については、異なる規定が設けられている(第149条)。


 EC条約上、職業教育とは、ある特定の職業ないし活動に要求される資格や技能の取得を目的としてなされる教育を指す。就学者の年齢や教育水準は問わない。芸術学校や大学での教育もそれに含まれることがあるが(ECJ 1985, 593 - Gravier)、職業的要素のない一般教育は含まれない。また、大学における研究は職業教育にあたらない(ECJ 1989, 1425 - ERASMUS)。なお、職業訓練に重点が置かれていれば、一般教育が含まれていても構わない。複数の学年からなる職業教育の一環として、ある学年ではもっぱら一般教育しか行われないときは、その目的を考慮して判断される(ECJ 1988, 5445 - Humbel)。


2. ECの課題

 職業訓練に関する権限は加盟国の下に残っており、ECはこれを支援ないし補充しうるに過ぎない。政策の実施にあたり、ECは、職業教育の内容および組織に関する加盟国の権限を厳格に尊重しなければならない(第150条第1項)。教育・青少年政策の目標は、加盟国と協力して、質の高い教育制度を確立することにある。その実現に必要な場合、ECは、教育・青少年政策に関する加盟国間の協力を奨励し、加盟国の活動を支援・補充するものとされている。なお、教育内容や教育制度の構築に関する権限は加盟国の下に完全に残っており、この加盟国の権限や文化・言語の多様性をECは厳格に尊重しなければならない(第149条第1項)。
 

3. ECの政策・活動範囲

 ECの活動範囲は以下の事項を目的とするものに限定されている(第150条第2項、第3項)。

a)

特に、職業訓練および再訓練を通し、産業の変化に対する適応を容易にすること

b)

初めての就職や再就職を容易にするため、最初の職業訓練および継続的職業訓練の改善

c)

職業訓練受入れの容易化、訓練者と訓練生(特に若い訓練生)の移動性の促進

d)

訓練機関と企業間の職業訓練に関する協力の促進

e)

加盟国の職業訓練制度に関する共通の問題について、情報や経験の交換制度を拡充すること

f)

職業訓練に関する第3国ないし交際機関との協力制度の奨励(第150条第3項)


4. EU理事会の権限

 上掲の政策を実施するため、EU理事会は、欧州議会と共同で法令を制定することができるが(共同決定手続)、加盟国の法制度を調整することは明文で禁じられている(第150条第4項)。それゆえ、学位や検定証の相互承認制度は、その他のEC条約内の規定(第47条)に基づき制定されている(詳しくは こちら)。




5. 具体的なプログラム

 前述したように、EC条約第150条にて、ECの権限が明確に定められる以前から、ECは多数のプログラムを実施しているが、従来の COMETT (単科大学と経済会との協力制度に関するプログラム)、PETRA (最初の職業訓練に関するプログラム)、FORCE (継続的職業訓練に関するプログラム)、EUROTECNET(教育方法の刷新に関するプログラム)は、LEONARDO DA VINCH に統合されている。

 なお、EU理事会の規則に基づき、職業訓練を促進するセンターが設けられている(所在地はギリシャのテサロニキ)。


6. 国籍に基づく差別禁止

 EC条約第12条第1項に基づき、EU市民は、その国籍に基づき、職業訓練へのアクセスを差別されない。もっとも、奨学金や生活補助は、教育ないし社会政策に関する措置として捉えているため、その給付に関し、差別禁止の原則は適用されない。






(参照)

欧州委員会の公式サイト

欧州憲法条約内の規定



(2007年 2月 28日 記)