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ヨーロッパ型社会モデル family

 現在、EUは、欧州憲法条約の批准次期財政計画の策定 という2つの案件で難局に陥っているが、 両問題の解決には、「ヨーロッパ型社会モデル」が重要な役割を担っている。

 独仏に代表される社会的国家(社会主義的市場経済を採用する国)は、労働者がキャピタリズムの犠牲にならないよう、その権利・利益を厚く保護している。例えば、週35時間労働、完全週休2日制(日曜日の労働禁止、20時以降の商店の営業禁止)、1年あたり6週間の休暇(連続3週間の休暇)、労働組合の経営参加が保障されている。また、大量解雇を伴ったり、労働組合の合意を得ずになされる企業合併・買収に対しては、国家が干渉することもある。

 このような「ヨーロッパ型社会モデル」は、域内市場 の拡大や発展の中で大きな問題に直面している。特に、東方拡大 によってEC市場は中東欧諸国にまで拡大されたが、給与・労働保護水準の低い 新規加盟国 から多くの労働者が移入し、自らの職を奪うのではないかという懸念や現実的な問題が従来の加盟国内で生じている(詳しくは こちら)。

 これまで独仏が牽引してきたEUは、域内市場 の自由化を基本原則に掲げており、人(労働者)の移動の自由 や、サービス提供の自由 を保障している。別の観点から述べるならば、悪い労働条件でも(喜んで)受け入れる中東欧諸国からの労働者の移入をEU(EC)は促進していることになる。これは、何も欧州憲法条約によって初めて取り入られた原則ではないが、同条約はリベラルな市場統合をさらに推し進めるものとして捉えられたため、フランス国民の多くは、憲法条約の批准に反対している。この国民の声を重視するならば、「ヨーロッパ型社会モデル」は維持されなければならないと解される。つまり、新規加盟国の国民がフランスで働く場合には、フランスの労働水準に従わなければならないであろう。他方、EU企業の競争力を強化し、EU経済を活性化するためには、伝統的な「社会モデル」の見直しが必要とされている。特に、次期財政計画 に関する協議の場で、イギリスは、EUの財政構造を21世紀型に改めるだけではなく、国際化や市場の自由化という現代の流れに即し、「社会モデル」を修正する必要があると述べている(詳しくは こちら)。これらの問題を解決しなければ、憲法条約の発効やEU次期財政計画の策定は困難であろう。

 

(2005年6月22日)