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リストマーク 政策の目的

 「EUの第3の柱」の目的は、加盟国間の刑事に関する警察・司法協力を発展させ、また、人種・外国人差別を防止・撲滅することにより、「自由、安全および正義の空間」を創設することにある(EU条約第29条第1項)。特に、テロリズム、人身販売、子供に対する犯罪行為、違法な薬物・武器取引、贈収賄、詐欺などの(組織ないし非組織)犯罪を防止・撲滅するため、以下の措置が実施される(同第2項)。

 

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加盟国の警察、関税、その他の管轄機関のより緊密な協力

 また、欧州警察オフィス (Europol) との協力(EU条約第30条および第32条)


リストマーク Europol (European Police Office)

 EU加盟国の警察当局の協力機関である Europol (European Police Office)は、マーストリヒト条約に基礎を置いているが、1998年、全加盟国によってEuropol 協定(OJ 1995, No. C 316, p. 2; OJ 2004, No. C 2, p. 3)が批准されたことを受け、1999年に正式に設立された。

 EU理事会は、Europol との協力を促進し、また、Europol が特に以下の行為を行いうるよう、アムステルダム条約の発効から5年以内に措置を講じるものとされている(EU条約第30条第2項)。

加盟国警察当局による捜査の準備や加盟国警察当局の支援

Europol が加盟国の関係機関に調査や調整を求めたり、加盟国関係機関に組織犯罪に関する専門情報を提供しうるようにすること(see OJ 2000, No C 289, p. 1)

 なお、加盟国はEuropol の勧告(調査の要請など)に従うかどうか決定しうる。それに従わない場合には、その理由を Europol に報告しなければならない。

組織犯罪に関し、加盟国検察・捜査当局スタッフと Europol の協力の促進

国境を越えた犯罪に関する調査、情報、統計に関するネットワークの構築


 EU理事会はすでに多数の措置を講じている(See Haratsch/Koenig/Pechstein, Europarecht, 5. Auflage, 2006 Tuebingen, para. 1156)。

   リストマーク リスボン条約による改正については こちら




リストマーク European Police College(CEPOL)

 EU理事会の決議(OJ 2000, No. L 336, p. 1)に基づき、European Police College(CEPOL)が設置されている。この組織は、国内警察訓練機関の協力を最適化し、警察幹部への教育を向上させることにある。




 この分野における加盟国間の協力には、(a) 犯罪防止・解明・捜査を所轄する関係部署の実務協力、(b) 情報の収集、保存、分析、交換、(c) 人材の教育、交換、派遣、また、設備の投入や研究、(d) 組織犯罪調査が含まれる(EU条約第30条第1項)。




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加盟国の司法当局やその他の管轄機関のより密接な協力

 また、欧州司法協力機構(Eurojust)との協力(EU条約第31条および第32条)


リストマーク Eurojust (European Judicial Co-operation Unit)

 EU加盟国警察・司法当局の調整機関である Eurojust (European Judicial Co-operation Unit)は、ニース条約に基づき正式に設立された 設立に関する理事会決定

 EU理事会は、以下の方法により、Eurojust を通じた加盟国間の政策協力を促進する(EU条約第31条第2項)。

Eurojust が加盟国の検察機関間の調整を適切に行いうるようにすること

Europol の分析を考慮した上で、Eurojust が国際組織犯罪に関する調査を支援しうるにようにすること

特に司法協力や引渡要請を容易にするため、Eurojust と欧州司法ネットワーク (European Judicial Network) の緊密な協力を可能にすること



 加盟国間の協力には、(a) 裁判手続や判決の執行に適切と考えられる場合には、国内関係当局間の協力を容易にし、また、迅速にすること(Eurojust に関与させることもできる)、(b) 加盟国間における引渡しを容易にすること(参照)、(c) この協力関係の改善に必要と解される場合には、加盟国の現行規則を統一すること、(d) 加盟国の権限抵触を回避すること、また、(e) 犯罪構成要件に関する最低限の規則や、組織犯罪、テロリズム、違法麻薬取引の罪に関する最低限の規則を段階的に採択することが含まれる(EU条約第31条第2項)。


    リストマーク リスボン条約による改正については こちら



B

必要な場合には、加盟国の刑事規則の調整(EU条約第31条第e号)



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リストマーク 政策の 実施にかかる措置

 「刑事に関する警察・司法協力」について定めるEU条約第4編(第29条〜第42条)は、欧州理事会の役割・権限について触れていないが、加盟国首脳と欧州委員会委員長からなるこの機関は、EUの政策発展に必要な決定を行うことができる(EU条約第4条第1項参照)。第3の柱の分野でも、この権限を行使し、政策のガイドラインを定めている(例えば、集団犯罪撲滅行動計画の方針〔OJ 1997, No. C 251, p. 1〕)。


 国内措置を調整するため、加盟国は、EU理事会の場において情報を提供したり、協議する(EU条約第34条第1項)。そして、理事会はEUの目的に貢献しうる措置を講じることができる。この措置の形態は以下の通りである(同第2項)。


(a)

共同の立場 (common positions)

 これは、ある特定の案件に関するEUのアプローチを定める場合に制定される。


(b)

枠組み決定(framework decisions)

 これは、国内法規・行政規則を調整する場合に制定される。  その効力について、EU条約第34条第2項第b号は、EC条約第249条第3項(EC指令の効力に関する規定)と同じような表現を用い定めている。つまり、枠組み決定の目的に照らし、加盟国は国内法・政策を整備しなければならないが(加盟国はその目的に拘束される)、その方法や手段は加盟国の裁量に任されている。なお、EU条約第34条第2項第b号は、決定の 直接的効力 を明瞭に否認しており、この点で、指令に関するEC条約第249条第3項とは異なる(参照)。

  リストマーク 刑事手続における被害者の地位に関する枠組み決定
  リストマーク ヨーロッパ逮捕令状法



(c)

決定(decisions)

 これは、国内法規・行政規則の調整を目的とする場合には制定しえないが、それ以外の目的であれば、規定事項は限定されない(EU条約第34条第2項第c号)。

 この決定は、加盟国のみを拘束し、国内法に置き換えられなくとも適用される。ただし、直接的効力は有さない。

 なお、理事会は、この決定のEUレベルにおける施行に必要な措置を特定多数決 (リストマーク 参照) にて発する。


  リストマーク 
欧州委員会の提案(刑事判決に関する情報交換制度の整備について)



(d)

国際協定(conventions)

 これは、EU理事会の措置が加盟国間の国際協定として制定されるべき場合に制定される。理事会は、国内憲法上の規定に従い、協定を批准するよう、加盟国に勧告する。加盟国は所定の期間内に必要な措置を講じるものとされている。協定は少なくとも半数の加盟国の批准が完了すれば、発効する。理事会は、協定の実施にかかる措置を締約国の3分の2の賛成で発することができる(EU条約第34条第2項第d号参照)。

 さらに、EU理事会は、加盟国を代表し、第3国ないし国際機関と協定を締結することができるが(第38条、第24条の準用)、この協定の当事者はEUではなく、加盟国である。協定がある加盟国の憲法に抵触するような場合、同加盟国は協定に拘束されないが、EU理事会は、他の加盟国間で協定を暫定的に適用する旨を決定することができる(第24条第5項)。



 これらの措置(EU第2次法)は、加盟国または欧州委員会の提案に基づき、
全会一致で採択されなければならないが(第34条第2項)、共同の立場を除く、すべての法令の採択に先立ち、理事会は欧州議会の意見を聴取しなければならない。ただし、理事会は同意見に拘束されない(第39条第1項)。

 加盟国間の見解を調整するため、各国の高官が集まり、調整委員会 (Co-ordinating Committee)が設けられる。同委員会には、この調整権限の他に、EU理事会に意見を提出したり、理事会の作業を支援する権限が与えられている(第36条第1項)。なお、欧州委員会も、「第3の柱」の政策に完全に関与しうる(第2項)。

 「第3の柱」に関する政策の実施より、諸機関に生じた費用はECが負担する。ただし、EU理事会が全会一致で特例を設ける場合には例外が認められるが、この場合は、通常、国民総生産額に 応じて、各国の分担される(第41条第2項および第3項参照)。


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リストマーク EC裁判所の管轄権 

 EC裁判所は、特定の法令の有効性や解釈について、先行判断 を下すことができるが(EC条約第234条)、通常の先行判断手続とは異なり、加盟国の承認を必要とする。つまり、EC裁判所の管轄権が認められるためには、アムステルダム条約 の締結時か、その後に、加盟国によって、その管轄権が認められる必要がある(EU条約第35条第2項)。また、加盟国はEC裁判所に先行判断を求めることのできる国内裁判所を最終審に制限することができる(第35条第3項)。 New なお、リスボン条約によって、このような制限は撤廃された(詳しくは こちら)。


リストマーク

 先行判断を求めうる国内裁判所
 EC裁判所の管轄権(Pupino 判決)



  EC裁判所が判断を下しうる法令 とその権限は以下の通りである(参照)。

枠組み決定と決定
 これらの有効性と解釈について、EC裁判所は判断しうる。

協定
 その解釈について、EC裁判所は判断しうる。

これらの法令の施行規則
 その有効性と解釈について、EC裁判所は判断しうる。


 その他、EC裁判所は、加盟国や欧州委員会によって提起された訴訟において (リストマーク 参照) 、枠組み決定や決定の適法性について判断しうるが(第35条第6項)、ただし、国内警察・検察当局の措置や、公序や国内の治安保全に関する加盟国の権限行使の適法性や 比例性 について審査することはできない(第5項)。

 前掲の4類型の法令の解釈と適用に関し、加盟国間に争いが生じるときは、理事会に判断を求めなければならないが、6か月以内に解決されない場合は、EC裁判所が審理しうる。さらに、EC裁判所は、前掲の協定の解釈と適用に関する加盟国・欧州委員会間の訴えにつき管轄権を有する(第7項)。


 

 

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