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growth and jobsLisbon Strategy
〜 リスボン戦略 〜


   ・ 内容 要約

   ・ 実施 
   ・ 中間評価
      
High Levl Group 新提案

   ・ 再スタート(2005年)
          ・
2005年3月の欧州理事会
          ・
2006年3月の欧州理事会
          ・
2006年6月の欧州理事会
          ・2008年3月の欧州理事会

   ・ 欧州委員会の新プラン
   ・ 研究教育への投資鈍る
   ・ 教育の充実化必須





Lisbon

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画像提供:European Community 2008

(下の Kok 氏の写真の提供も同じ)



High Level Group の 評 価

 リスボン戦略の採択から4年が経過した20043月、欧州理事会は、Wim Kok 元オランダ首相を座長とする第三者機関に実施状況について分析させることを決定した。これを受け、13人の有識者からなる High Level Group が組織され、20045月から10月にかけて作業が行われた。

Wim Kok 元オランダ首相

Wim Kok 座長

 約半年にわたる審議の結果、2004113日には報告書が提出されているが、それによれば、リスボン戦略の目標は一つも完全には達成されていない。その原因として、確かに、米国IT産業の停滞やテロ事件の発生、また、石油価格の高騰など、2000年以降の外的要因が有利に作用しなかったことも挙げられるが、目標が高すぎる一方で、調整が十分になされていないこと、また、何よりも、断固とした取り組みがなされていないことが指摘されている。報告書の中では、complacent(自己満足)という単語が多用されており、加盟国の危機意識の決如が警告されている。



 雇用率の増加については、15カ国中、7カ国は中間目標(2005年までに67%に引き上げる)を達成しているが、近時の傾向を考慮すると、2010年までに雇用率を70%に近づけるとする最終目標は達成されないであろうと悲観している(リストマーク 2004年雇用調査報告書)。また、GDP3%以上の金額を研究・開発に投じているのは、2カ国(スウェーデンとフィンランド)に過ぎない。さらに、各教員にIT教育を施すという目標の達成も非常に芳しくないとされる。なお、情報技術機器やインターネットの普及に関しては、ほぼすべての国が目標を達成している。



また、EU経済は停滞し、アメリカやアジアとの格差がますます広がっていること、出生率の低下や高齢化という問題に対処しなければならない状況を考慮すると、リスボン戦略の必要性は、これまで以上に高まっており、あらゆる措置が講じなければならないとしているが、以下のように5つの優先課題を挙げている。


(1)  知識経済(knowledge-based economy)の実現

        情報技術や情報産業の重要性は高まっているが、これらの分野において、EUは競争力に劣る。例えば、特許申請件数、優秀な研究者や教育機関の数、ノーベル賞受賞者数、論文数に関し、米国はEUを上回っている。また、米国のIT産業は、同国のGDP7.3%を占めているのに対し、EUでは6%に過ぎない。投資額も米国に比べ少ない。これらの点に基づき、「頭脳流出」という状況が生じている。優秀な研究者を惹きつけるためには、研究開発費を増やすだけではなく、加盟国間の障壁の撤廃、ビザ申請手続の迅速化、また、職業資格相互承認制度の改善に取り組む必要がある。また、基礎研究を支援したり、国内の研究・開発政策を調整するための機関として、European Research Council (ERC) を設けることが望しく、EU理事会と欧州議会には、2005年末までに方針を決定するよう要請する。 

 IT部門では多くの措置を講じるべきであるが、eEurope の実現(それにはe-commerce, e-government and e-learning の促進を必要とする)を最優先課題にすべきである。その他、2010年までに、ブロードバンドの普及率を50%以上にすることが望ましい。また、企業の投資環境を整えるためにも、EC特許権の創設や権利保護制度の改善をこれ以上、遅らせるべきではない。


(2) 域内市場の完成と競争の促進

確かに、域内市場の統合は、EUの経済発展と雇用創出に貢献しているが(欧州委員会の報告書によれば、域内市場の完成によってEUGNPは、この10年間に1.8%上昇し、また、250万の雇用が創出されたとされる)、商品やサービス市場統合の動きは減速し、加盟国間の取引量も減少している。特に、サービス部門に関しては国内規制が残存しており、自由化が完全に達成されているとは言えない。また、指令の国内法への置き換えが滞っている。さらに、商品価格の格差は非常に大きいだけではなく、EU市場は投資の対象としての魅力を失っている。

このような状況を克服するには、国内法への置き換えが不完全な分野を特定し、迅速な対応を命じる必要がる。また、域内市場における障壁を撤廃し、モノ(商品)や、特に、サービスの流通の自由化を保障するため、EU理事会と欧州議会は、2005年末までに必要な法令を制定すべきである。ファイナンシャル・マーケットに関しては、1999年に示された行動計画の実施を徹底し、また、国内政策を調整し、域内取引を簡易・迅速化すべきである。さらに、欧州委員会は、域内の競争を高めるため、国内障壁(加盟国による企業援助を含む)が残っていないかどうか調査すべきである。


(3) ビジネス環境の整備

   現在までに膨大な量の法令が制定されているが、その解釈・適用は、企業にとって大きな負担となっている。そのため、法令を簡素化し、また、その内容を改善する必要がある。2002年に採択された “Better lawmaking” に関する合意に基づき、法令の質を改善すると共に、企業の負担軽減策を実施しなければならない。また、現在でも、EU内で法人を設立するには、多くの時間、費用、労力を要する。ベンチャー企業の立ち上げに対する投資環境も改善の余地がある。さらに、倒産した企業に重い法的・社会的責任を課す現行破産法も企業活動の妨げとなっている。これらの点を改善し、企業活動を奨励する環境を整える必要がある。


(4) 労働市場の現代化

        High Level Group の報告書では、EU内の社会的結束を高め、貧困問題を解消し、また、経済成長を持続するためには、雇用率の改善が不可欠であることが強調されている。労働市場の「柔軟化」は、労働者の権利を弱めるものとして捉えられることが多いが、そうではなく、経済環境の変化への迅速な対応を可能にし、また、新しい技術(知識経済の確立に必要なIT技術など)を労働者に習得させるシステムを導入することであると捉えている。さらに、EU人口の高齢化に鑑み、高齢者の労働を奨励するためにも、職業訓練ないし生涯教育制度を充実させなければならないとしている。なお、EU市民の労働力に関し、現状が維持されるならば、2040年までに、一人当たりのGDP20%低下し、他方、年金・健康保険制度予算は急増するであろうと予測されている。

        High Level Group によれば、近年の加盟国の取り組みによって、EU労働市場は、前述した「柔軟化」の要請に応えているとされる。つまり、確かに、パートタイムや低賃金労働者が増えたこともあるとはいえ、就業者数は、4年前に比べ、600万人以上、増えている。他方、失業率や長期間失業率はかなり低下している(それぞれ30%、40%の減少)。もっとも、リスボン戦略の目標には到達していないため、さらなる取り組みが必要となる。特に、女性の雇用率の改善に努めなければならないとしている。さらに、ソーシャル・パートナーと協議しながら、European Enforcement Task の勧告(20043月に採択)を実施することを加盟国に要請している。なお、EU人口の高齢化や「頭脳流出」に対処するためには、EU外から労働者を受け入れることも必要になると予測されるため、事前に取り組んでおくことが賢明であるとしている。


(5) 持続的な環境保護

        経済発展は、環境問題を考慮しながら実現しなければならないが、EU企業の取り組みは、世界中で最も優れている。しかし、環境保護への投資額を増やすだけではなく、その法的枠組みを整える必要がある。また、加盟国は、公共調達に際し、環境対策に秀でた企業や製品を優遇するといった取り組みをしなければならない。なお、短期的とはいえ、環境対策は企業の競争力を低下させる恐れがあるため、EUや加盟国は、企業の意識向上に努めなければならないとされる。




これらの課題を実現するため、High Level Group は、あらゆる当事者(EUの諸機関、加盟国、ソーシャル・パートナー、市民など)に積極的な参加を要請するだけではなく、議論やコミュニケーションの活性化を提唱している。特に、最も重要な役割を果たす加盟国に対しては、国内議会やソーシャル・パートナーと協力し、政策決定手続の透明性を高めながら、2005年末までに国内行動計画を発表することを求めている。

 

他方、EUの諸機関には以下の点を要請している。


 ・ 欧州理事会 リスボン戦略の実施についてリーダーシップを発揮すること

 ・ 欧州委員会 実施状況を評価・報告し、実施を奨励・支援すること

 ・ 欧州議会 実施の監視に際し、proactive な役割を果たすこと

 とりわけ、EU加盟国と欧州委員会に対し、制度改革に向けた徹底した取り組みを要請しているが、ソーシャル・パートナーや市民にも積極的な関与・協力を呼びかけている。また、EUは、EU拡大、高齢化、経済の国際化といった問題に直面しているため、これまで以上に野心的な目標を掲げなければならないとしている。さらに、目標を迅速に達成する必要性は、ますます高まっているため、2010年という期限を先延ばしするのは望ましくなく、必要なのは、加盟国のより徹底した取り組みであるとしている。

 



Webページ作成の便宜上、脚注はすべて削除してあります。詳しくは、拙稿「リスボン戦略」平成国際大学法政学会編『平成国際大学論集』第9号(2005年3月)131頁以下をご参照ください。




リストマーク




 リストマーク High Level Group の報告書については、こちらも参照 してください。

報告書 High Level Group (chaired by Wim Kok), Facing the Challenge ? The Lisbon strategy for growth and employment, 2004 のダウンロードは こちら

High Level Group のメンバーの Mirow 氏のインタビュー New



 リストマーク その他の中間評価について
Timboro の調査結果
2004年雇用調査報告書



 リストマーク 加盟国の取り組み
リスボン戦略担当欧州委員の任命について