Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


リストマーク 批准手続 リストマーク


アイルランドの国民投票

批准を否決


アイルランド国旗 アイルランドの国民投票結果に対し、EUや加盟国の要人の中から様々なコメントが発せられている。まず、欧州委員会の Barroso 委員長は、アイルランド国民の決定を尊重する一方で、リスボン条約は「まだ死んでいない」とし、批准手続の続行を他のEU加盟国に要請した(参照)。また、委員長は、条約を締結した国はそれを批准する法的義務を負うとみている(参照)。なお、委員長は、アイルランドが、再度、国民投票を実施する可能性も否定していない(参照)。

 これに対し、2008年7月1日から半年間、EU議長国を務めるフランスは、「2度目の国民審判」の可能性はアイランド自身の判断にかかっているものの、おそらく実施されないであろうと捉えている。その上で、Fillion 首相は、リスボン条約はもはや発効しえないとしている(こちらを参照)。なお、当初、フランスは、議長国期間の主要政策課題 として、@ 気候、環境保護、A 安全保障防衛)、B 移民、C 食料品の安定供給を掲げていたが、Jouyet ヨーロッパ担当大臣は、アイルランドの批准見送りに対処した法的調整が追加されることを発表した。また、この新しい課題への取り組みに際し、フランスはドイツと協力するとしている(参照)。周知の通り、両国は、ECの原加盟国として、欧州統合を牽引してきたが(参照)、今回の危機に関しても、すでに両国首脳は、まだ批准手続を完了していない加盟国 に対し、手続の続行を訴える共同声明を出している(参照)。特に、議会での審議が最終局面に入っているイギリスに対し、フランスの Sarkozy 大統領は、前掲の Barroso 欧州委員長と同様、リスボン条約批准の重要性を強調し、批准手続の続行を要請している。なお、イギリスやポーランドといった新旧EU懐疑国に並び、現在の欧州統合のあり方に批判的なチェコの Klaus 大統領 は、アイルランド国民投票の結果を受け、もはや「リスボン・プロジェクト」は挫折したと述べている(参照)。リスボン条約は、さらなる障害に突き当たったといえるが、7月より半年間、議長国を務めるフランスの Sarkozy 大統領は、プラハに飛び、チェコやポーランドの首脳と協議する予定を立ている(参照)。なお、ポーランド議会(両院)はすでにリスボン条約の批准を了承しているが(詳しくは こちら)、Kaczynski 大統領が批准書にまだ署名していないため、批准手続は完了していない。

 他方、現在、EU議長国を務める スロベニア の Rupel 外相は、6月15日のEU外相会議(EU理事会)に先立ち、リスボン条約の「再生」を試みることは危険すぎるとし、再考期間の導入を訴えた(参照)。確かに、アイルランド国民ないしはEU市民の判断を尊重せず、リスボン条約を直ちに「復活」させるとすれば、EU・市民間の間のギャップは拡大し、大きな社会的問題に発展しかねない。フランスとオランダの国民投票で欧州憲法条約の批准が否決された後にも、1年間の再考期間が導入されている(詳しくは こちら)。


 ところで、欧州議会の Pöttering 議長(CDU)議長は、ドイツの大衆紙 "Bild am Sonntag" に対し、リスボン条約が発効しない限り、EU拡大は中断されるべきとする一方で、クロアチアの加盟は例外的に認められるべきと述べている。この発言からは、トルコのEU加盟を牽制する意図が読み取れるが、ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)に属する Pöttering 議長は、かねてよりトルコのEU加盟に反対してきた。なお、同議長自身も認めているように、アイルランド国民投票と トルコのEU加盟問題 には関連性がない。また、そもそも、EU拡大は、リスボン条約の発効後でなければならない必然性もない。 従来より、EUは旧ユーゴスラビア諸国やトルコに対し、EU加盟の見通しを示し、これらの諸国の制度改革を奨励してきた。また、近時、欧州委員会は、トルコやクロアチアとの加盟交渉のテンポを速めることを宣言したばかりである。EUにとってのEU拡大の意義や、グローバル・プレーヤーとしてのEUの責任が問われている。

 なお、現在、加盟交渉が最も進展しているクロアチアは、2010年までに加盟する見通しがたっているが(詳しくは こちら)、トルコの加盟はまだまだ先のことであり、それについて語るのは時期尚早である(EU拡大については こちら)。


   リストマーク Sarkozy 大統領も、EU拡大を制止 New


 Pöttering 議長は、さらに、一部の加盟国間でより緊密な統合を推進する選択肢についても触れているが(参照)、いずれにせよ、同議長は、EU加盟27ヶ国の結束を求めていると考えられる。これに対し、同じくドイツの Steinmeier 外相(SPD)は、アイルランドはEU統合より一時的に離脱することも可能であると発言し、物議を醸している。アイルランドを除く26ヶ国のみでリスボン条約を発効させることは法的に不可能であるし(リスボン条約第6条第1項)、EU脱退も認められていないといった法的問題の他に(詳しくは こちら)、アイルランドが ユーロ を導入していることを考慮すると、政策的にも非常に問題がある。ユーロ圏グループの座長である、ルクセンブルクの Juncker 首相や、ドイツ出身の Verheugen 欧州委員も、アイルランドの脱退の選択肢を否定している(参照)。なお、フランスやオランダによって欧州憲法条約の批准が否決された当時、EU理事会議長を務めていた Juncker 首相は、一部の加盟国間における緊密な統合(Kerneuropa)を積極的に支持するものではないが、現在の危機を考慮すると、選択肢の一つになりうるとしている。他方、リスボン条約に代わる新しい条約の制定には反対している(参照)。


 6月12日の国民投票結果については、このように様々な見解が出されているが、最も重要なのはアイルランド政府の態度である。6月14日のテレビ放送において、Cowen 首相は初めて国民投票の結果について語り、@ 自国の孤立は回避されなければならず、EU全体で問題の克服にあたらなければならないが、EUの利益を考慮すれば、自国の一時離脱もありうること、また、A 現状の打開策としては、リスボン条約に議定書を盛り込むだけでは不十分であり(こちらを参照)、より徹底した見直しが必要であることを示唆している(参照)。実際には、@の点について強い覚悟があるのであれば、それだけで十分であると思われる。つまり、EU脱退をテーマとし、再度、国民投票を実施すれば、良い結果が得られるのは確実である。

 



アイルランドの国民投票

投票箱
 ・ Ahern 首相、国民投票の実施日を発表

 ・ 批准反対派の台頭

 ・ 国民投票の結果

 ・ 批准否決の背景

 ・ Eurobarometer の調査結果 New

 ・ 今後の対応

   ・ 2008年6月の欧州理事会決議 New


 ・ EU・加盟国要人の発言


投票率(%)

賛成票(%)

反対票(%)

53.1

46.6

53.4


           出典

 ・ アイルランドのための特別保障を採択

 ・ 2009年10月2日に国民投票を実施

New  第2回目の国民投票まで1ヶ月


EUの旗
他の加盟国によるリスボン条約の批准




リストマーク 欧州憲法条約




(2008年 6月 13日 記  6月 26日 更新)