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リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


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チ ェ コ の Klaus 大 統 領、批 准 書 へ の 署 名 を 拒 否

チェコの国旗 リスボン条約をどのように批准するかは、各EU加盟国によって決定されるが(同条約第6条第1項参照)、チェコは国会の承認を経て、大統領が批准することになっている(チェコ憲法第39条第4項、第52条および第63条第1項参照)。議会の下院は2009年2月18日、また、上院は同年5月6日に批准を承認しているが、Vaclav Klaus 大統領 が批准書への署名を拒んでいるため、10月23日現在、手続は完了していない。新条約を批准していないEU加盟国はチェコのみとなった。

 反EU派で知られる Klaus 大統領が批准を阻止してきた、これまでの主な理由は、自国の主権喪失にある。また、イギリス野党との協約も背後にあるとみられている。つまり、英保守党は、政権奪回後に国民投票を実施するとしているが、実際に行われれば、批准反対票が過半数に達する可能性が高い。なお、イギリスは、国民投票を実施せず、国会審議を経て、すでに批准済みである(詳しくは こちら)。そのため、これから国民投票を実施し、批准を取消すことは現実的ではない。チェコも、同様に国民投票を実施せず、国会の審議に委ねているが、国民の支持率は高いため、国民投票を実施していたとしても、批准が可決されていたと解される。

 EU加盟27ヶ国中、国民投票を実施したのは、アイルランドのみであるが、2008年6月の第1回投票 で批准見送りが決まると、Klaus 大統領は、リスボン条約はもはや「死亡した」と発言し、物議をかもした(詳しくは こちら)。その後、アイルランドは、2009年10月の投票(第2回目) で批准を決定しているが、それを受け、Klaus 大統領は、リスボン条約に脚注を設け、EU基本権憲章 は自国に対して適用されないことが明記されるべきと要求するようになった。また、脚注を設けた後、全ての加盟国は批准手続をやり直し、クロアチアのEU加盟条約と共に批准すべきであると述べている。EU基本権憲章の適用を排除するのは、第2次世界大戦後、現在のチェコ領から追い出されたドイツ国民が同憲章を根拠に補償を請求することを阻止するためであるが、欧州委員会は、同憲章はEU法が適用されるケースでのみ効力を持つため、ドイツ国民の訴えを基礎付けないとしている。また、欧州議会の Swoboda 議員は、この問題は、すでにチェコのEU加盟に際し十分に審議されたとし、Klaus 大統領の要求は受け入れられないと述べている(参照)。なお、リスボン条約には、イギリスとポーランドに対し、EU基本権憲章は適用されないことを明確に定めた 議定書 が盛り込まれているが、これは、例えば、第2次世界大戦後、ポーランド領より追放され、財産を没収したドイツ国民への補償問題に悪い影響を及ぼさないようにするためである(詳しくは こちら)。チェコの Klaus 大統領は、今になってこの問題を持ち出しているわけであるが、リスボン条約制定当初から現職にあるため、その当時にポーランドと同じ要求をすべきであったと解される。なお、チェコは、リスボン条約の第53附属宣言において、基本権憲章はもっぱらEUの諸機関に対してのみ適用されること(第1項)、また、同憲章は加盟国憲法に共通の基本権や諸原則に合致するように解釈しなければならないこと(第3項)を強調している。また、スロバキアの Fico 首相は、10月18日、チェコ・テレビ局のインタビューにおいて、EU基本権憲章がドイツ人の追放について定めた Beneš-Dekrete に影響を及ぼさないことの確認にチェコが成功するならば、自国(スロバキア)も同様の要求をすると述べている(参照)。

New 10月28日、スロバキアの Fico 首相は、国会のEU政策部会において、もはや チェコの Klaus 大統領と同様の要請をしないと述べた。これは、EU基本権憲章がチェコ市民に社会的権利を保障しており、権利保護に資するためとされている(参照)。


 Klaus 大統領の要求について、EU加盟国は、10月29日より開催される首脳会議(欧州理事会)において、Klaus 大統領出席の下、審議するものと解されているが、この問題は、10月21日の欧州議会総会でも審議され、前掲の Swoboda 議員を始め、Klaus 大統領の「牛歩戦術」を厳しく批判する意見が主張されている(参照@A)。

 なお、2009年10月18日付の紙面において、Klaus 大統領は、動き出した列車を止めるのはもはや困難であるとし、批准書への署名に応じる方針もみせているが、批准の合憲性を問う訴えが一部の国会 (上院)議員によって提起され、チェコ憲法裁判所に係属しているため、批准書への署名は同裁判所の判断の後に行われるとみられている。訴えの理由として挙げられているのは、アイルランド の第1回国民投票のネガティブな結果を受け設けられた 特別保障 の合憲性であるが、チェコ政府は、その点について憲法裁判所は審査しえないと述べている 。憲法裁判所は、10月27日に審議する予定であるが、申立てが退けられた場合、Klaus 大統領は、2日後に開催される首脳会議(欧州理事会)までに批准手続を完了させる可能性もある。その場合、リスボン条約は、2009年12月1日に発効する。なお、チェコ憲法裁判所は、すでに2008年11月26日に、リスボン条約批准の合憲性を確認している(参照)。


     リストマーク チェコ憲法裁判所の再審査


 New 10月23日、オーストリアの新聞紙 Die Press は、同日、チェコ大統領はスウェーデン政府の提案に同意し、批准書に署名する可能性が高まったと報じている。提案の内容は明らかにされていない。また、どのような形で明文化されるかはまだ確定していないが、第3国のEU加盟に際し締結される協定の議定書と共に署名する可能性もあるとみている(参照)。

 また、10月27日付けの オーストリアの日刊紙 Der Standard は、26日のEU加盟国外相会議(EU理事会)でも、スウェーデン政府の提案に沿った形で、チェコの Klaus 大統領が譲歩する可能性があるという情報が出ていると報道しているが、同提案は、イギリスとポーランドに対しEU基本権憲章は適用されないことを定めたリスボン条約附属議定書(参照)に、チェコも盛り込むものであるとしている。なお、オーストリアの Spindelegger 外相は、EUの法文書において、ドイツ人追放の正統性が確認されるようなことがあってはならないと述べている(参照)。

 10月29・30日の欧州理事会において、EU加盟国首脳は、チェコに対してもEU基本権憲章の適用を排除することを早々に認めた(詳しくは こちら)。

 11月3日、チェコ憲法裁判所はリスボン条約批准の合憲性を確認した。これを受け、Klaus 大統領は批准書に署名した(詳しくは こちら)。

 



 

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リストマーク リスボン条約の批准 

リストマーク 欧州憲法条約


(2009年 10月 23日 記)