Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



Lisbon Strategy
〜 リスボン条約 〜



リストマーク 欧州憲法条約との相違点 リストマーク

リストマーク 憲法条約の大部分を承継

  欧州憲法条約には「憲法」や「外相」、また、EUの旗や歌といった国家を想起させる文言が盛り込まれた(参照)。さらに、EU法の優先性も明確に定められた(参照)。しかし、リスボン条約は、加盟国による批准が困難になるのを避けるため、欧州憲法条約において初めて第1次法内に取り入れらたこれらの文言や規定を削除した(詳しくは こちら)。

 他方、これらの点を除けば、両条約の内容は概ね一致している。これは、リスボン条約は憲法条約を出来る限り承継すべきとする加盟国政府の方針に合致している。このような観点から、憲法条約の本質が承継されたことは高く評価されているが、フランス国民やオランダ国民によって支持されなかった憲法条約に「化粧直し」を施しただけで、「再生」させたことを批判する立場もある(例えば、チェコのKlaus大統領)。 ただし、前述した内容面での違いも存在する。なお、当初、イギリスの Tony Blair 首相は、憲法条約の批准に先立ち、国民投票を実施するとしていたが、次期首相である Gorden Brown は、内容的には同じでも、もはや憲法条約の批准が争点になっているわけではないため、国民投票を実施するという公約はリスボン条約に適用されないとした。




リストマーク 条約の一本化を断念

他方、形式面では大きな違いある。つまり、欧州憲法条約はEU条約、EC条約および EU基本権憲章 を統合し、新しい単一の法規範になることが想定されていたのに対し(詳しくは こちら)、リスボン条約は諸条約を統合しない。したがって、リスボン条約の発効後も、EU条約、EC条約および EU基本権憲章 は廃止されず、従来通り、独立した条約として適用される。なお、EC条約の名称は、EUの機能に関する条約」(Treaty on the Functioning of the European Union)と改められる(リスボン条約第2条第1項)。


従 来 リスボン条約発効後
  EC   EU

 EC条約

(Treaty establishing the European Community)

EUの機能に関する条約

(Treaty on the Functioning of
 the European Union)

 
 リストマーク 同条約については こちら


なお、欧州原子力共同体条約も、同様に存続する(同条約は、欧州憲法条約にも統合されていなかった)。


欧州憲法条約とは異なり、諸条約を一つにまとめていないのは、そうすれば、条約全体が膨大となるためである(欧州憲法条約は、その膨大さだけではなく、難解な文言ゆえに批判されていた)。そのため、フランスの Sarkozy 大統領は、"Treaty light" を支持し、その中では、憲法条約第1部に相当する諸規定(参照)を盛り込むべきであると提唱していたなお、リスボン条約はこの提案に沿っているが、共通外交・安全保障政策に関する規定も、"Treaty light" (つまり、EU条約)の中に残ることになった。


EU基本権憲章 も単独の法規範として存続するのは、イギリスとポーランドの承認を得やすくするためである。なお、両国に対しては、さらに議定書が設けられ、適用除外の特例が定められた(詳しくは こちら。なお、基本権憲章の「独立」により、かえってその重要性は際立っているとも解される。



リストマーク 個々の規定の相違

個々の規定の違いについては、以下の点が重要である。

@ 加盟国法に対する EU法の優位性(国内法に対する優先性) に関する規定(第I-6条)は削除された。もっとも、リスボン条約は、第17宣言 において、EC裁判所の判例を通し確立されてきた、この原則を確認している(こちらも参照)。

 EU法の優位性・優先性に関する規定が削除されたのは、加盟国による批准を容易にするためである。特に、オーストリアでは、国内憲法全体(本質)を変更する条約の批准に際しては国民投票を実施し、国民に直接、審判を問うことが求められているが、EU法の優位性・優先性に関する規定が削除されたことにより、国民投票の実施も不要と判断された。  

A 欧州憲法条約は、EUの旗、歌、通貨、ヨーロッパの日 について定めていたが(第I-8 条第1項、第2項、第4項および第5項)、 これらは国家を想起させるとの理由から、基本諸条約内では定められないことになった。同様に、「多様性のもとに統合する」といったEUのモットー("United in diversity"〔第I-8 条第3項〕)も削除された。つまり、欧州憲法条約が第1次法としては初めて設けた規定(前掲のEU法の優位性に関する条文も含む)は、リスボン条約には引き継がれないことになった。もっとも、EUの旗、歌、単一通貨ユーロ、ヨーロッパの日やモットーは、従来どおり、EUないしEU市民結束のシンボルやモットーとして用いられる。同趣旨のことはリスボン条約附属52宣言の中でも謳われているが、この宣言に参加しているのは、27ヶ国中、16ヶ国のみである。

B EU外相(Union Minister for Foreign Affairs) という職名は(第I-28条)、イギリスの要請を受け改められ、従来通り、共通外交・安全保障政策の上級代表 となった(リスボン条約発効後のEU条約第18条)。

C EU理事会の名称も変更されない(同第9条参照、憲法条約については こちら)。

D 欧州憲法条約は第2次法の名称を変更していたが(詳しくは こちら)、リスボン条約は従来通りの名称を用いている(EUの機能に関する条約第249条参照)。


E 欧州憲法条約によれば、EU理事会の新しい議決方式(二重の多数決制度)は、2009年11月より適用されることになっていたが(詳しくは こちら)、リスボン条約は、2014年以降に先延ばしている(新EU条約第9c条第4項、EUの機能に関する条約第205条第3項)。なお、2014年から2017年までの移行期間においては、従来の特定多数決制度によることも可能である(see "Declaration on Article 9 C(4) of the Treaty on European Union and Article 205(2) of the Treaty on the Functioning of the European Union")。

F 欧州議会の議席数について、欧州憲法条約は750を上限としていたが(第I-20条第2項)、リスボン条約は750議席プラス1名の議長とする(リスボン条約発効後のEU条約第14条第2項)。これは、イタリアの議席をひとつ増やすことを目的としている(リスボン条約附属宣言参照)。

G フランスの Sarkozy 大統領の要請に従い、自由かつ公正な競争が行われる域内市場の創設(欧州憲法条約第I-3条第2項)というEUの目標より、「自由かつ公正な競争が行われる」という文言が削除された。他方、自由主義的市場経済ではなく、社会主義的市場経済の構築がEUの目標・任務とされ、域内市場の社会的側面が強調されている(新EU条約第3条第3項、詳しくは こちら)。


H EC条約では、「共同市場」と「域内市場」という2つの概念が用いられていたが(参照)、リスボン条約は前者を削除し、後者のみを用いている。

I 諸政策については(EUの新しい権限や目標を含む)、欧州憲法条約の定めを踏襲しているが(参照@A)、同条約締結後に生じた近時の要請に応えるため、環境政策上の目標として、「特に、気候変動対策」に貢献しうる措置の奨励」が追加されることになった(第191条第1項、憲法条約第III-233条第1項参照))。

 また、同様の観点から、「エネルギー・ネットワーク(エネルギー網)の連結を奨励すること」がエネルギー政策上の目標に加わり、さらに、加盟国間の連帯の重要性が明記された(第194条第1項、憲法条約第III-256条参照)。


 J 欧州中央銀行がEUの機関であることは、憲法条約より明瞭に規定された(憲法条約第I-30条第1項第1文、新EU条約第13条第1項)。



(参照) ・ リスボン条約

  ・ 加盟国の批准状況


・ 欧州憲法条約

  ・ 欧州憲法条約の批准危機