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リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


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2009年10月の欧州理事会、チェコの要請を承諾

 2009年10月29・30日の欧州理事会において、EU加盟国首脳は、Klaus チェコ大統領の要請に応じ、EU基本権憲章 が同国に適用されないことを早々に決めた。イギリスとポーランドに対する opting-out (適用排除)は、すでに リスボン条約附属第30議定書 において明記されているが、これにチェコが盛り込まれることになる。なお、 この法的措置は、第3国のEU加盟に伴い、EUの基本条約が改正されるときになされる(para. 2)。

 チェコの Klaus 大統領の要請は、第2次世界大戦後に追放されたドイツ人らがEU基本権憲章に基づき、新たに補償を請求することを阻止する狙いがあるが(詳しくは こちら)、そもそも、EU基本権憲章には、そのような効力はない。なぜなら、同憲章は、主として、EUやその機関に基本権保護を義務付けており、加盟国はEU法の実施に関連する場面において、同憲章に拘束されるに過ぎないためである。また、同憲章は、加盟国憲法と合致する形で基本権を保障するものであり、EU市民に新たな権利を与えるものでもない。さらに、同憲章は遡及的に適用されないため、第2次世界大戦直後の補償問題に影響を及ぼさない。

 なお、チェコやポーランドに対し、EU基本権憲章の適用を排除しても、同国から追放されたドイツ人らの補償問題が解決されるわけではない。実際に、今回の欧州理事会において、追放の法的根拠となった Beneš-Dekrete の正当性が確認されているわけではない。この補償問題は、今後も EU統合の枠外で検討されなければならない。

 当初、EU加盟国は、理解しがたいほど時機に後れたチェコ大統領の一方的要求を受け入れられないとしていたが、リスボン条約の発効をこれ以上遅らせれば、新しい欧州委員会の任命 もスムーズにいかないため、加盟国首脳は現実的な路線を選択したと考えられる。また、前述したように、チェコの適用排除が法的に確定するのは、次のEU基本条約の改正時であり、すでにリスボン条約の批准を完了している26の加盟国に、批准のやり直しを求めるものでもないため、現実的な妥協案と解される。なお、問題解決には、現在、議長国を務めるスウェーデンの貢献があったと解されている(参照)。

 渦中の人物である Klaus 大統領は、欧州理事会には出席せず、同国代表が電話でやり取りをしていたとされている(参照)。欧州理事会の決定を受け、外交的圧力は再び Klaus 大統領にかけられることになったが、チェコ憲法裁判所によって合憲性が確認されれば(参照)、批准書に署名することを同大統領は示唆している。

 なお、欧州理事会の最終決議には、「チェコの要望」に従いと記されているが、同国の Klaus 大統領の個人的な要請として捉えるべきであろう。また、最終決議では、リスボン条約が2009年末までに発効することの重要性を強調しているが(para. 2)、法的には、同年12月1日までに発効しなければ、最短でも、翌年の元旦にしか発効しえない。


     リストマーク チェコ憲法裁判所の再審査



 

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リストマーク リスボン条約の批准 

リストマーク 欧州憲法条約


(2009年 10月 31日 記)