EUの難民政策

 一時的な入国、移住、難民の受け入れといった種々の態様を問わず、人の移入を統制する権限 は伝統的に国家の重要な権限の一つとされている 。そのため、超国家的組織とされるEUでさえ、設立当初(1993年11月)は権限が与えられていなかった。しかし、EU域内では人の移動の自由が保障されていることに基づき、EUに権限が与えられるようになった(EUの機能に関する条約第4条第2項第j号) 。つまり、例えば、イタリアへの入国が許された者は、国境でパスポート検査を受けることなく、オーストリアやドイツへ自由に移動できるようになるが 、それゆえにイタリア、オーストリアやドイツは人の移入に関する政策を統一する必要がある。それと同時に、EU外境検査を加盟国間で連帯して行う必要性が出てくる(EUの機能に関する条約第67条第2項)。そのため、EUの発足から約5年6ヶ月が経過した1999年5月、アムステルダム条約に基づき、EUには人の移入や域境検査に関する権限が与えられるようになった(参照)。厳密には、EUは加盟国とこの権限を共有する(第4条第2項第j号)。なお、前述したように、この権限は伝統的に加盟国が保有してきたため、EUの政策統合過程では、加盟国の法や伝統が尊重されなければならないことがEUの機能に関する条約第67条第1項で明記されている。また、加盟国の団結が重要であることが同条約で謳われている(第67条第2項および第80条)。

 前述したように、人のEU内への移入には、一時的な滞在、移住、難民の受け入れなど種々の形態があるが、EU基本条約(EUの機能に関する条約)において、これらは、域境検査を含め、まとめて規定されている(第77条~第80条)。なお、加盟国間の国境検査は撤廃されているため(原則)、ある加盟国から他の加盟国へ自由に移動することができ、これは第3国の国民にも保障されるが、EU加盟国の国民にのみ保障される移動の自由とは本質的に異なる。つまり、EU市民であれば、国境検査の有無に拘わらず、他の加盟国に移動して労働・居住することがEU法上、保障されているが、第3国の国民についてはそうではない。特に、第3国の国民の労働や開業については、従来通り、個々の加盟国が決定することがEU基本条約の中で明瞭に定められている(EUの機能に関する条約79条第5項)。もっとも、EUレベルで国内法が統一されている案件もある(例えば、Blue Cardの発給)。

 人の移入や域境検査に関するEUの政策の基本的枠組みは、すでにEUの機能に関する条約第77条以下で定められている(第3国から一部の加盟国への人の流入が急激に増えるとき、EU理事会は暫定措置を発することができる旨の規定〔第77条第3項〕も予め設けられている)。また、実体的内容については、第3国の国民間または無国籍者間では差別を設けてはならないこと(第67条第2項)、また、1951年7月の国連難民条約やその議定書に合致していなければならないことが予め定められている(第78条第1項)。

 これらの基本原則にのっとり、具体的な政策、特に、難民認定手続は、欧州議会EU理事会によって決定される 。EU理事会とは加盟国政府の代表で構成されるEUの立法機関であるが、そこで加盟国は激しく対立しあったため 、新しい難民認定手続について定める規則が制定されたのは2013年6月のことである。一般に、この規則はDublin III規則と呼ばれているが、前身であるDublin II規則 、さらにその前身であるDublin I規則 、また、Dublin I規則の起源であるシェンゲン実施協定(Schengen II)の内容を継承している。これらのEU法に基づく難民認定手続は、一般に、Dublin手続と呼ばれているが、それによれば、難民はEU域内で最初に足を踏み入れた加盟国に難民認定を申請しなければならない(第13条第1項)。また、難民認定審査はその国でのみ行われ、難民として認定されなかった者が他の加盟国で新たに申請することは認められない。なお、同人が他の加盟国に行き、そこで新たに難民認定を申請を提起するとき、同人は難民非認定の判断を下した加盟国へ送還される。EU内の審査は1国のみでのみ行われることを保障するため、申請者の指紋を統括して管理する組織(EURODAC)が設けられている 。

 Dublin III規則による主な改正点は以下の通りである。
  • 従来の規則は難民認定を申請する者にのみ適用されたが、副次的な保護を求める者に対しても適用されるようになった(第1条)。
  • 2011年12月11日付けのEU裁判所判決 を踏まえ、人権侵害の危険性のある加盟国への送還は禁止されることが明文化された。詳細には、難民申請認定手続や認定条件には構造上の欠陥があり、EU基本権憲章第4条に違反する状態が予測できる加盟国への送還は禁止される。この場合、申請が提起された加盟国に管轄権が与えられる(第3条第2項)。
  • 難民認定申請者には、認定手続や認定基準を包括的に告知しなければならない(第4条)。従来はその不備が問題になっていた。
  • 難民認定申請者への聴聞を行う(第5条)。
  • 難民認定申請手続においては、子供の福祉が尊重されなければならない(第6条)。
  • 難民認定申請者に当局の判断を伝え、異議申立ての機会を保障する(第26条および第27条)。なお、異議申立ての方法・効果は加盟国によって決定される。
  • 「著しい逃亡の危険性」が逮捕理由に付け加えられた(第28条)。

 リストマーク EC指令2001/55号

 なお、EUはすでに2001年、当時、発生していたバルカン紛争によって大量の難民がEU内に押し寄せてくることを想定し、指令2001/55号を制定している(これは現在の危機に対しても適用できる)。 この指令は、第3国から大量の難民が押し寄せ、従来の制度では対応できないケースにおいて暫定的な保護措置を設けるとともに、加盟国間の負担の公平化を促進することを目的にする(第1条)。

 なお、指令に基づく暫定的な措置の有効期間は1年であり(第4条)、措置の必要性はEU理事会によって決定される(第5条)。これが理事会によって決定されるとき、加盟国は難民に住宅を提供し(第13条)、また、18歳未満の者には教育を受ける機会を保障しなければならない(第14条)。ただし、規則は加盟国の受け入れ能力には限界があること、また、加盟国間で負担を公平に分担すべきという考えに基づいている。 2015年夏以降、EUは難民危機に直面しているが、この指令の趣旨・目的が生かされていれば、深刻な危機は発生しなかったと解されている。


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