欧州憲法条約の批准 や次期財政計画の策定 で行き詰まり、EUは深刻な危機に直面しているとされるが(参照)、夏休みを直前に控えた2005年7月14日、ドイツの Horst Köhler 大統領、フィンランドの Tarja Halonen
大統領、イタリアの Carlo Azeglio Ciampi 大統領、ラトビアの Vaira Vike- Freiberga 大統領、オーストリアの Heinz Fischer 連邦大統領、ポーランドの Aleksander Kwasniewski 大統領 と ポルトガルの Jorge Fernando Branco de Sampaio 大統領は共同で声明を発表している(参照)。その要旨は以下の通りである。
欧州憲法条約の批准について
フランス や オランダ の国民投票には、多くの市民の欧州統合に対する不満が反映されている。つまり、大半の人々は、自らの将来だけではなく、現在の生活にも重要な意義を有する案件の決定に参加しえないといった現在のシステム(欧州統合の進め方)に納得していない。それゆえ、市民により身近で、透明性を高め、意思決定手続をより民主的かつ実効的にするといった憲法条約の目的(参照)は失われていない。これらの目的を実現するだけでなく、市民による議論を活性化する必要がある。
EUの最大の課題について
高い失業率や低い経済成長率を背景に、多くのEU市民は将来に不安を覚えている。そのため、EUは、雇用の創出と経済発展に尽力し(参照)、市民の信頼を取り戻さなければならない。また、我々は、欧州統合のあり方や進め方について、分かりやすく説明しなければならない。
持続する成長や雇用創出を実現するため、加盟国は研究・教育を奨励するだけではなく、構造改革に取り組まなければならない。
その他の課題について
近時のテロ事件は、テロ対策に関する加盟国間の協力を強化しなければならないことを如実に示している。
また、現在の危機を乗り越えるためには、妥協する姿勢を持ち、連帯性を高めることが重要である。
EUはもはや自由貿易地域ではないが、当初より、政治的統合を視野に入れていた。つまり、EUは、自由、民主主義、法の支配、法の下の平等、多様性や人間の尊厳の尊重、社会的正義や連帯性を重んじる運命共同体である。また、国際舞台において、EUは見解を統一して行動する必要がある。そうしなければ、経済力に見合う政治力を身に着けることはできないし、また、国際問題の解決に取り組み、我々のパートナーの期待に応えることもできない。
ヨーロッパ型社会モデルについて
ヨーロッパ型(社会)モデルは、欠くことのできない社会的要素である。しかし、経済的要素を考慮しなければなければならない。
欧州統合の利点ないし重要性について
現在、EUは困難な状況に陥っている。しかし、欧州統合の意義を疑う余地はない。富の拡大、経済成長、様々な権利や自由の保障、平和や治安の維持といった成果を我々は再認識する必要がある。
間もなくして夏休みが始まり、他国で休暇を過ごす場合には、@ 国境検査が廃止され(参照)、また、A 両替をする必要がないこと(参照)の利益を享受することができよう。なお、欧州統合の進め方に懐疑的なフランス国民やオランダ国民も、欧州統合そのものには反対していないと解される(参照)。
域内市場 の設立は、我々の経済発展に大きく貢献したが、ヨーロッパの国々の団結なくして、アメリカ合衆国や、人口13億(経済成長率は9%)の中国、また、人口11億5000万(経済成長率は8.5%)のインドに対抗することはできないであろう。
EU拡大について
EUの 東方拡大 は、新しい躍動と可能性をもたらしたが、現在、我々は、時間をかけて、25ヶ国体制に発展したことを消化しなければならない。
さらなる拡大 については、約束を守る必要がある。EU加盟は、加盟候補国に制度改革を促し、ヨーロッパのスタンダードを受け入れる機会を与えることになるが、民主主義、人権の保護、法の支配といった
加盟基準 は、すべての候補国に等しく適用されなければならない。
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