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EUの将来

EUの将来 

 進展する国際化、中国やインドなどの飛躍的な経済成長、EU内の少子高齢化や高失業率問題、リスボン戦略の実施次期(2007〜2013年)財政計画の決定農業補助金の削減社会モデルの見直し域内市場の自由化欧州憲法条約の批准、さらなるEU拡大(第2次東方拡大トルコのEU加盟)など、将来のEUを占う課題は山積しているが、十分な対応ができているとは言いがたい。むしろ、個々の問題に関する加盟国間の見解が激しく対立し、EUは 深刻な危機 に直面しているとも解される。2004年5月、EU史上最大規模の拡大(東方拡大)が実現したが、現在、25ヶ国は、その影響をじっくりと消化しなければならない時期にあることも確かである(参照@ABC)。しかし、長引く不況に基づく政策の悪循環、加盟国政府によるEUへの責任転嫁、従来の加盟国にみられる制度改革への取り組みの弱さ、そして何よりも、25ヶ国の団結力の決如が危機的状況の最大の理由となっている。会議を開く度に新たな問題が生じているとも言えるが、2005年下半期、EU理事会議長国を務める イギリス の議事運営(参照@A)や、欧州委員会の指揮・統率力を批判する見解もある。

 

 冒頭に掲げた諸問題は、程度に違いこそあれ、相互に関連しているが、その概要は以下の通りである。


国際化の時代におけるEU

 著しい経済成長を達成している中国、インド、ブラジルは、数年後に個々のEU加盟国の経済力を凌駕し、EU全体に対しても脅威になると解されているが、加盟国や欧州委員会は、EU企業の技術力を向上させることで対応しようと考えている。つまり、質の高い職をより多く創出することが課題とされているが(参照@AB)、そのために必要な研究・開発また教育への投資は鈍っている(参照)。この政策分野に関するEU(EC)の権限は弱く、主たる権限は加盟国の下に残されているが、その取り組みは徹底していない。そのため、EUの政策も同時に強化させるべきとの見解が支配的であり、EUの次期(2007〜2013年)財政計画 では、予算を引き上げる一方で、これまで全予算の半分以上が充てられていた農業補助金を削減する必要性も指摘されているが(参照)、農業補助の恩恵を強く受けるフランスは激しく抵抗している。

 農業市場への介入に象徴されるEUの保護主義体制は、経済のグローバル化の過程でも批判されており(参照@A)、その見直しが必須になっているが、諸国間の経済格差(賃金格差)が大きい状況下において、市場の開放は大きな問題を引き起こしている。これは、EU内の「東西問題」にも反映されており、従来の加盟国の多くは、自由化に反対している(参照@ABC)。その背景には、市場の開放は低賃金労働者や低廉な製品の流入を招き、国内労働者の職を奪うとの懸念があるが、国による介入はかえって競争力を低下させると批判されている。また、自由競争こそが豊かさを増幅するとも主張されており、福祉政策のあり方を含めた 社会モデル見直し の必要性が指摘されている。

 EU経済を活性化させ、競争力のある、豊かな社会を将来にわたっても実現するには、諸制度の改革が必要であるが、独仏を機軸とした社会モデルはこれを阻んでいる。2005年10月、欧州委員会は、市場の自由化の影響を受ける者を救済するため、基金の創設を改めて提案したが、EU予算の拡大や新たな保護主義につながりかねないと批判されている(参照)。

 社会モデル を含め、社会政策一般に関する加盟国間の方針は伝統的に大きく異なっているため(つまり、EU(EC)内での政策統合は不可能ないし非常に困難と解されているめ)、加盟国からEU(EC)に権限はほとんど委譲されていない(参照)。25ヶ国が協調性を見せ、国際化(市場の開放)に対応しうるかどうかは疑問である。

 なお、現EU理事会議長国イギリスの Blair 首相は、10月26日、欧州議会(ブリュッセル)で「EU改革に関する5ヶ条計画」を発表し、@ 研究・開発の奨励、A 安全保障、B 移民政策の発展、C エネルギー政策、D 少子高齢化問題 に徹底して取り組むべきであると提唱しているが、その他の加盟国の支持が得られるかどうかは定かではない。議長国の任期も約2ヶ月後に終了することから、具体的な協議は2006年以降になるが、同年上半期、議長国を務めるオーストリアは、Blair 首相の提案する原子力発電の活性化(上掲のCのエネルギー政策に関して)に強く反発している。


EUの将来



欧州憲法条約の発効とさらなるEU拡大

 2005年5月ないし6月、フランスオランダ で実施された国民投票で欧州憲法条約の批准が否決されて以来、憲法条約の発効は危ぶまれている(参照)。欧州委員会の Barroso 委員長の早期発効は不可能との発言(参照@A)も物議を醸しているが、憲法条約がなくともEUは機能しうる。もっとも、さらなるEU拡大の条件としては不可欠と解されている。しかし、現実的に見るならば、憲法条約の「生命」は、その内容よりも、EU拡大にかかっていると言える。つまり、2004年5月の 東方拡大 の悪影響や、急ピッチで進められる 第2次東方拡大、さらには、トルコのEU加盟 にEU市民は大きな懸念を抱いており、これが憲法条約の不支持につながっている(参照@ABCDEFG)。それゆえ、欧州統合に対するEU市民の信頼を回復し、憲法条約への支持率を高めるためには、EU拡大に関わる問題に適切に対処しなければならない。




(参照)

EUの直面する危機
 ・ 欧州憲法条約批准危機
 ・ 次期財政計画をめぐる対立 

Verheugen 欧州委員の批判

2005年のEU
 ・ 上半期の課題 
 ・ 下半期の課題

2006年のEU
 ・ 上半期の課題参照) 

EUの現状と課題(7ヶ国首脳の共同声明)

Plan D

EU拡大
 ・ トルコのEU加盟問題 
 ・ 第2次東方拡大

リスボン戦略

EUの人口統計

EU社会の実像 


The Sound of Europe


(2004年10月30日 記)