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フランスの暴動

フランス社会への復讐

フランス国旗 2005年10月末より、フランスで相次いでいる暴動は、移民政策の失敗を浮き彫りにしている。フランス国内には、旧植民地であるアフリカ諸国より多数の人々が移り住んでいるが、歴代政府は、移民をフランス社会に同化させること(社会的統合)に積極的ではなかった。都市の郊外には、移民や社会的弱者の住宅として高層団地が建設され、「貧民街」を形成しているが、ドイツ系メディアは、アパートこの一角を「ゲットー」(Ghetto、ユダヤ人が強制的に居住させられた区域)と呼んでいる。パリを取り囲む「塀」のように建ち並ぶ高層アパートは、1960年代末、できるだけ早く、安く、かつ、大勢の人々を収容することをモットーに建造されたため、当初より十分な社会設備を有していないが、現在は老朽化が目立つとされる(参照)。住環境に恵まれない区域の住民は、ほとんどが移民で、一般のフランス社会から隔離され生活している。また、居住地や出身国を理由に差別されることもあり、移民がフランス国民としての感情を育むことを妨げているとされる。1998年のサッカー・ワールドカップの際には、ジダン(Zidane)選手を初めとする多くの「新フランス人」が活躍し、優勝を果たしたが、当時の国民の一体性は失われていると言えよう(参照)。

 10月末以降の暴動は、このような移民住宅政策(ないし都市計画)の失敗に加え、移民が抱える貧困問題に端を発しているとされている。移民層の失業率は、一般国民の約2倍にも達しているが、職を持つ者であれ、所得は非常に低い(一般国民の約6割)。これは、ほぼ全ての者が学校を中退し、十分な教育を受けていないことによるとされている。暴動の背後に潜む問題を解決するには、魅力のある仕事を与え、生活に希望を抱かせることが重要であると専門家は分析している(Die Welt v. 8. November 2005, Seite 3)。

 なお、移民ないし移民世帯出身者による暴動は、すでに1970年代末にも発生しているが(もっとも、その規模は現在の暴動より小さかった)、30年以上に亘り、徹底した取り組みはなされていない。歴代政府やフランス社会に見られる「無関心さ」は、移民の疎外感を強めているが、移民世帯の子供2人が感電死したことや Sakorzy 内相の差別的な発言(詳しくは こちら)をきっかけに少年らの不満が爆発し、かつてない大規模な暴動に発展した(参照)。

 なお、フランスの暴動に連鎖し、ドイツやベルギーでも放火事件が発生しているが、その規模ははるかに小さい。ドイツでも多くの移民世帯が暮らしており、経済格差、失業率、教育、犯罪など、フランスと似た問題を抱えているが、ドイツ語の習得を移民に義務付け、ドイツ社会への統合(社会的統合)を奨励している点で異なっている。また、ドイツ国内には「外国人街」は設けられていない。そのため、ドイツ政府や専門家は、暴動が飛び火することはないと分析している(参照)。




 2005年10月27日、窃盗容疑のため警察に追跡されていると勘違いした移民の子供が変電所で死亡したことをきっかけに、フランス国内の各地では車や学校、教会などへの放火が相次いでいる。フランス政府は、無法地帯は絶対に許さないとし、強硬姿勢で臨んでいるが、「社会のゴミを一掃する」との Sarkozy 内相の発言に若者らは反発し、暴動はフランスのほぼ全土に広がった

 情勢の悪化を受け、Chirac 大統領は、11月6日(日)、初めて、国民に治安の回復を訴えているが、効果は現れていない。7日には、ごみ入れへの放火を防ごうとしたところを若者らに襲撃され負傷していた男性(60歳)が死亡した。初の犠牲者が出たことで、暴動は波紋を広げている。

 フランス政府は、1950年代に制定された非常事態法を適用し、事態の収拾に臨む姿勢を見せている。暴動をおこしている若者らを「ゴミ」と呼ぶ Sarkozy 首相は反感を買っているが、国民の57%は政府の強硬姿勢を支持しているとされる(Die Welt v. 8. November 2005, Seite 3)


(2005年11月8日 記)





(参照) Weltspiegel v. 6. November 2005 ("Frankreich: Leben in der Vorstadthölle")

Die Welt v. 8. November 2005, Seite 1 ("Ruf nach Schußwaffeneinsatz")

Die Welt v. 8. November 2005, Seite 3 ("Ratlose Republik")

Die Welt v. 8. November 2005, Seite 3 ("Integration geht nur über die Arbeit" Interview mit Steffen Angenendt, Leiter des Programms Internationale Migration der Deutschen Gesellschaft für auswärtige Politik, Berlin)

Frankfurter Rundschau v. 8. November 2005, Seite 2 ("Deutschland soll sich nicht in Sicherheit wiegen")


Frankfurter Rundschau v. 8. November 2005, Seite 3 ("Deutsche Verhältnisse")


Frankfurter Rundschau v. 8. November 2005, Seite 3 ("Dänemark setzt Hürden für potenzielle Neubürger höher")




(2005年11月8日 記)