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過剰な財政赤字の取り締まり euro



1. 監視手続

 EU加盟国の財政状況は、欧州委員会 によって監視される。特に、単年度の財政赤字がGDPの一定の割合(GDP比で3%)を上回っていないか、また、債務残高がGDPの一定の割合(GDP比で60%)を上回っていないかどうかについて調査される(EC条約第104条第2項)。

 調査の結果、定められた基準 を上回っていることが判明する場合、また、基準を超える恐れがある場合、欧州委員会は報告書を作成することができる(EC条約第104条第3項)。この報告書について、経済・財政部会(第114条第2項参照)は見解を述べることになるが(第4項)、それを参考にした上で、欧州委員会が、自らの判断は正しいと考える場合、EU理事会に通告することになっている(第5項)。

 これを受け、理事会は、ある国の財政赤字が過剰であるかどうかを 特定多数決 によって決定する。なお、審査の対象になっている加盟国は、理事会に対し、意見を述べることができる(第6項)。



2. 過剰な財政赤字に対する措置

 EU理事会が過剰な財政赤字の存在を確認するとき、ある一定の期間内に改善するよう、当該加盟国に勧告することができる(第7項)。なお、この段階において、勧告は公表されないが、所定の期間内に必要な措置が取られないときは、理事会はこれを公表することができる(第8項)。

 それでもなお、財政赤字状態が解消されない場合、理事会は、@自らが定める具体的な措置の実施を命じたり(同第9項)、また、A以下の措置を発することができる。この措置は、第11項で以下のように特定されている(なお、以下の措置を組み合わせて発動したり、必要に応じ強化することも認められる)。


 当該加盟国が債務証券またはその他の有価証券を発行する前に、理事会が定める事項を公表すること

 当該加盟国に対する貸付政策の再検討を欧州投資銀行に要請すること

 過剰な財政赤字は解消されたと理事会が判断するまで、適切な金額を無利息でECに預託するよう当該加盟国に要請すること

 適切な額の課徴金を課すこと


 なお、理事会議長は、この措置に関する決定について欧州議会に報告しなければならない。

 加盟国が制裁に従わないときは、EC裁判所へ提訴(条約義務違反訴訟[EC条約第226条、第227条])も認められる(第10項)。

 過剰な財政赤字は解消されたと理事会が判断するときは、EC条約第104条第6項、第9項および第11項の決定を取り消すことができる。なお、理事会が勧告をすでに公表しているときは、過剰な財政赤字は解消されたと宣言しなければならない(第12項)。




 前述した勧告(EC条約第104条第7項)、その公表(第8項)、具体的な措置の要請(第11項)、また、制裁の発動(第12項)について、EU理事会は、欧州委員会の提案を受けた後、EC条約第205条第2項の票数配分にのっとり、その3分の2の多数決でもって議決をとる。なお、該当国の持票数は考慮されない(第104条第13項)。

 また、第104条第9項の命令と第11項の制裁は、ユーロ導入国に対してのみ課すことができる(第122条第3項)。


 



    
※ このページの写真は、Audiovisual Library European Commission より提供されています。




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