独仏の財政赤字状態が続く中、安定・成長協定 の法的拘束力や、その見直しについて活発に議論されている(詳しくは こちら)。 |
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旧東ドイツ地区への経済支援が予想以上に負担になっていること、長引く景気後退、記録を更新し続ける失業率、また、2006年に国政選挙を控えていることを踏まえ、ドイツ政府は、経済が沈滞しているときに歳出を抑えれば、景気をさらに悪化させるとし、安定・成長協定の厳格な適用に異議を述べている。
他方、ケインズ理論に基づくこのような考えは、もはや支持しえず、経済成長には財政均衡が不可欠であるとする加盟国(特に、オーストリ アやオランダなどの小国)も少なくない。
欧州委員会の Joaquín Almunia 委員(経済・通貨政策担当)は、過剰な財政赤字を計る2つの基準 の維持を支持する一方で、個々の加盟国の特殊な経済状況を考慮する必要があるとして、柔軟な姿勢も見せている(参照)。
安定・成長協定の見直しは、2005年春の主要政策テーマの一つに挙げられている。
3月7日夜、ユーロ導入国は、協定の適用を緩和すべきかどうかについて協議したが、見解はまとまらなかった。協定によれば、単年度の財政赤字額が国内総生産(GDP)の3%を上回る場合には、取締手続が開始されるが(参照)、例外的な場合には、一時的にこの値を上回ることが許されるかどうかという点について、オーストリア(協定の厳格な適用維持派)は、上限を3.5%に引き上げるとする妥協案を示したが、ドイツの
Eichel 経済省は、ドイツ統一とEU財政負担の大きさを挙げ、これでは不十分であるとしている(参照)。
3月8日に開かれたEU25ヶ国の蔵相会議 (ECOFIN-Council)では、各国が自国の利益を主張したため、議論はさらに混迷したとされる。他方、唯一、合意に達しているのは、経済成長を促すために必要な支出は、GDP
の3%という財政赤字枠から除外されるべきとする点であるとされる(参照)。
3月20日、EU25ヶ国の蔵相は臨時会議を開き、安定・成長協定の見直しについて再び協議することになっているが、最終決断は、3月22・23日に開催される 欧州理事会(政府間首脳会議) で下される。現在、EU理事会議長国を務めるルクセンブルクの Juncker 首相は、3月20日の蔵相会議で見解がまとまらない場合は、欧州理事会で審議すべきではないとしている。その場合は、協定の修正は見送られ、従来どおりに適用されることになる(参照)。
加盟国蔵相、安定・成長協定の適用の柔軟化で合意
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2005年3月20日(日曜日)、EU加盟国の蔵相はブリュッセルで会合を開き(蔵相会議 (ECOFIN-Council))、懸案の安定・成長協定の見直しについて協議したが、日付の変更前になって、ようやく合意に達した。それによれば、ある国が安定・成長協定に違反するようなことがあっても、直ちに制裁手続は開始されない。また、加盟国の財政赤字については、社会制度改革と「欧州統合に必要な」支出が考慮される。この基準を満たすかどうかは、欧州委員会によって判断されるが、迅速に実施された
東方拡大 に対する財政負担を和らげるものと解されている(参照)。
他方、単年度の財政赤字はGDPの3%以下、また、債務残高は同60%以下に抑えるとする2つの基準は維持されている。ただし、短期間に限り、単年度の財政赤字は、GDP
の3%を超えることが認められるとされる。具体的な数値は特定されていないが、3.25〜3.5%と解されている(参照)。また、過度の財政赤字が認められる期間について、オーストリアの Grasser 外相は、通常、2年としている(最悪のケースでは、5年とすることも可能であろうとしている)(参照)。
安定・成長協定適用の柔軟化は、特に、3年連続で、財政赤字がGDPの3%を超えているドイツの要請を容れたものと解される。同国に対しては、財政赤字の算定に際し、@ドイツ統一に必要な歳出(旧東ドイツの復興に必要な財政支出)と、A加盟国内でも最も負担の大きいEUへの拠出金を考慮することが認められた。23時を過ぎて行われた記者会見で、ドイツの
Eichel 経済相は、交渉結果に非常に満足しいていると述べる一方で、ドイツは、財政不均衡を許可してもらおうと思っているわけでないとし、自国に対する批判を退けている。従来より、ドイツ政府は、不況時に財政支出を切り詰めれば、さらに景気を悪化させるとしており、Eichel
蔵相は、安定・成長協定の適用に際しては、経済成長を重視すべきであると述べている(参照)。
合意内容について、加盟国の蔵相間では解釈が必ずしも統一されているわけではない。特に、ドイツの Eichel 蔵相は、安定・成長協定の基準が緩和されたと解釈する一方で、オーストリアの
Grasser 蔵相は、基準は変更されていないことを強調している(参照)。また、Grasser 外相は、ドイツ統一という15年前の出来事を財政赤字の理由に持ち出すのは「後知恵」(Treppenwitz)であるとして、隣国ドイツを批判している(参照)。
なお、最終決定は、3月22・23日に開かれる欧州理事会で下される予定である( 欧州理事会が始まった3月22日
夜、わずか20分程度の話し合いの後、蔵相会議の決議は加盟国首脳によって了承された[参照])。
EU加盟国蔵相会議(EU理事会)の決定
(2005年3月20日) |
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従来の2つの基準(単年度の財政赤字はGDPの3.0%以下、また、累積赤字はGDPの60%以下に抑えること)は維持される。
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A |
国内の景気がよいときは、加盟国は財政赤字の削減に努めなければなければならない。
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B |
加盟国の財政状況の監視に際し、欧州委員会は、年金制度改革や欧州統合に必要な歳出を考慮することができる。欧州統合に必要な歳出には、ドイツが旧東ドイツ地区の復興に支出している費用が含まれる。なお、この例外は、短期間に限り、また、単年度の財政赤字がGDPの3.0%を若干超える程度に限り認められる。
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C |
財政赤字の改善期間は延長することができる(単年度の財政赤字がGDPの3.0%を超えたときから、3年後に、再び3.0%以下に戻せばよいとすることができる)。 |
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