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サ ー ビ ス 提 供 の 自 由 化


オーストリア国旗 EUの 東方拡大 によって、オーストリアは、国境の大半を新規加盟国と接している(拡大EUの地図)。かつての共産圏から豊かな生活を求めて、多数の新EU市民が流入し、自国民の職を奪うことを阻止するため、オーストリアは、EC法上の大原則である 労働者の移動の自由 に7年間の猶予期間を設けているが(詳しくは こちら)、首都ウィーンだけでも、1000人以上の単純労働者が働いているとされる。そのほとんどは、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーといった周辺諸国からの移民であるが、その賃金は安いため、オーストリアの雇用主には格好の労働力となっている。また、介護業部門では、国中で2万人の新EU市民が、安い賃金を対価に働いているとされる。

 もっとも、現時点でオーストリアで労働している新EU市民は、違法労働者である疑いが強い。取締りの強化が必要である一方で、EU労働市場の自由化も着々と進んでいる。2004年11月に退陣した Bolkestein 欧州委員(域内市場政策担当)の下で起草された、サービス提供の自由化 に関する指令案(参照)は、2005年4月より、欧州議会で審議される予定である。

 欧州委員会作成の指令案によれば、2010年までにサービス市場は完全に自由化されることになるが、域内におけるサービス提供の自由を促進するため、ある加盟国で認可された労働者は、他の加盟国で新たに認可されることなく、サービスを提供しうるとしている。オーストリアの Bartenstein 経済相はこの指令案に賛成しているが、国内政党や労働組合は批判しており、その傾向は強まりつつある。その理由は、オーストリア国民は、中東欧諸国の安い労働力に対抗しえないためであるが、市場競争の下、国民の賃金が低下するだけではなく、労働時間、休暇、失業手当、健康保険、年金など、社会保障水準の低下につながりかねない。また、サービスの質や消費者保護水準の低下も懸念されている。このような観点から、特に、社会党(SPÖ)は指令案に反対しており、隣国ドイツの Schröder 首相(社民党)は、欧州委員会に再考を強く要請している。欧州議会の社会党会派も同様に批判的であるが、特に、ある加盟国で認可されたサービスは、他の加盟国では認可を必要としないとする原則に異議を述べている。なぜなら、この原則によれば、例えば、オーストリア国内で提供されるサービスについて、24ヶ国の法律が適用されることになりかねないためである。

 なお、後に、欧州委員会は見解を改め、公共サービス(水道、ガス、電気、郵便)や医療・介護サービスを自由化の対象から除外することを検討している。また、建築規則や地方の環境規則は、影響を受けないとしている。



 EUのGDPの約65%(ないし70%)は、サービスによるとされているが、従来、弁護士や建築家などの自由業、また、職人(大工)や介護者といった労働者の職業も、国内法で定められており、これは域内におけるサービス流通の自由を阻害してきた。そのため、欧州委員会は、2010年までにサービス市場を自由化するものとし、サービスは、原則として輸出国によって統制される(欠陥等に対する責任についても、輸出国の法令による)とする指令案を作成した。なお、警察、電気、ガス、水道、郵便には、この原則は適用されない。また、最低賃金、労働時間、休暇、職場における安全保護、妊婦や子供の保護についても、輸出国ではなく、受入国の法令が適用される。


   指令案について、詳しくは こちら





(参照)

Profil 2005, Nr. 5, Seite 36-38 ("Trumbau zum Babl")

このページ内の統計は、すべて上掲雑誌を基にしています。


(2005年3月8日 記)