2006年5月1日、EUの東方拡大より2年が経過した。これを機に、労働者の移動は、より自由化されることになったが(詳しくは こちら)、より高い次元へと発展し続ける経済統合は、新旧加盟国間に大きな軋轢をもたらしている(詳しくは こちら)。他方、ブルガリアとルーマニアのEU加盟(第2次東方拡大)や、セルビア・モンテネグロとの交渉 など、拡大の勢いは治まっていないため、2年前の歴史的拡大は、なりをひそめている感がある。
5月3日、欧州委員会は、東方拡大2周年に際し報告書 "Enlargement,Two Years After - An Economic Evaluation" を発表した。 そのタイトルが示すとおり、111頁に及ぶレポートは、経済分析に焦点が当てられているが、@ 従来の加盟国(EU15)から新規加盟国(EU10)への産業・企業移転や、A
新規加盟国からの労働者の大量流入といった最も注目されている事項について、委員会は、深刻な状況は生じていないと楽観的な見解を示している。
委員会は、新規加盟国内に生産拠点を移す企業が増えているが、その影響の評価は容易ではないとする一方で、生産コストの削減や商品価格の値下げなど、EU15内の企業や消費者にも大きな利点をもたらしていると
捉えている。また、確かに、EU15
からEU10 への投資も盛んであるが、後者から製品(intermediate goods)を輸入し、加工・完成させるケースが多いことを考慮すると、EU10
への投資や生産拠点の移転の影響は限定的であるとしている。なお、EU15 内の雇用喪失は、最高でも1.5%(東方拡大の影響が最も大きいと解されるドイツやオーストリアでも、雇用の伸びは0.3〜0.7%縮小したにとどまる)に過ぎないと解されている(63〜66頁)。
従来の加盟国から企業移転や投資の伸びは、新規加盟国の経済を発展させており、その平均賃金は、最も裕福な加盟国の45〜50%に達しているが、従来の加盟国の批判を考慮し、5月3日、加盟国のEU大使は、新規加盟国への企業移転の奨励(経済支援)は廃止することで合意したとされている(参照)。
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