EU拡大の背景 〜 東方拡大を中心として

 ECは、第2次世界大戦後の経済復興(また、恒常的な経済発展)や平和の維持・確立などを目的として1950年代に設立された(EC条約前文および第2条参照)。1993年にEUに発展した後も、その基本理念は基本的に変化しておらず、むしろ強化されていると言えるが(EU条約前文、第1条および第2条参照)、1989年に冷戦が終結し、東西ヨーロッパ諸国の関係が再構築される過程では、さらに、市場経済、人権および少数派の保護、また、民主主義や法の支配の重要性が強く認識されるようになった。EU拡大の背景には、ヨーロッパにおけるこれらの基本原則の確立が潜んでいる。

 とはいえ、一般のEU市民にとって最も関心のあるテーマは経済であろう。輸出依存型経済の代表格であるドイツは、東欧諸国への輸出が急激に増加している(90年代後半、EU加盟申請国への輸出は約250%増えている(Auswärtiges Amt, p. 7)。さらなる経済発展が予想される加盟申請国国は、現EU企業にとって新しい市場を提供しうる。

 


ドイツとEU拡大            

 EU・加盟申請国間の取引の約50%には、ドイツが関与している。これは、ドイツ経済の約10%に相当する。また、EU拡大はドイツの国内総生産を0.51.0%押し上げると予測されている。また、ドイツは新加盟国の中で最大規模のポーランドと国境を接しており、同国の主たる貿易パートナーとしての利点が拡大するとされている。

 この経済効果の他に、ドイツは、EU加盟国に取り囲まれることになり(もっとも、スイスとの国境は除く)、地理的に新しいヨーロッパの中心となる。とりわけ、旧東ドイツ地方やバチェコと国境を接する南ドイツ・バイエルン州の地域は、辺境地ないし僻地としての不利益から解放されることになる。もっとも、いわゆるEU国境の喪失は、隣接する新EU加盟国からの移住の影響を強く受け、失業問題を深刻化させかねないことが懸念されている。ドイツの経済研究機関の予測では、EU拡大が実現した最初の年、22万人の労働者がドイツ国内に移住するとされている。なお、年間の移住者数は、10年内に半減すると予測されているが、ドイツ国内に居住する新加盟国の国民は、55万〜250万人に上るとされている。さらに、国境付近の都市には、新規加盟国からの通勤労働者が増え、魅力的な都市では、全労働者の約10%を占めるに至ることが想定されている。産業別では、手工業、特に、建設業は低価格競争に対抗しえないと考えられている。

(参考)   Auswartiges Amt, Die Europaische Union ? Fragen zur Erweiterung (2002) , pp. 26 and 30.

CDU/CSU-Gruppe im Europäischen Parlament, Europa wächst zusammen: Die Erweiterung der Europäischen Union, 2002, pp. 4 and 14

EU拡大と東ドイツ地区

            

 

 EU拡大によって、市民生活が多様化することは言うまでもない。また、ヨーロッパ諸国の国際経済力や政治力も強化される。また、環境問題や犯罪対策などに団結して取り組むことが可能になる。ドイツ出身の欧州委員 ギュンター・フェアホイゲン(Günter Verheugen)(EU拡大担当)は、EUの東方拡大は、ヨーロッパの@安定化、A平和の確立、B長期にわたる経済発展にとって重要であると述べている。

 


  現在進行中の東方拡大の利点(ないし必要性)

ヨーロッパにおける平和、安定および富の拡大

100万人以上のEU人口の増加と、それによってもたらされる経済発展、新しい雇用の創出

国内市場統合による経済活動の自由化、また、その促進

環境保護、犯罪対策、麻薬取引や違法移民問題について、新規加盟国も共同で取り組むことにより、市民の生活の質を向上させること

安全保障政策や通商政策などの分野におけるEUの国際的地位の強化

(参考) Die Europäische Kommission, Die Erweiterung der Europäischen Union, 2002, p. 5.

  

 


EUの東方拡大? 東欧の西欧化?

 旧ソ連の崩壊以降、東欧諸国では、人権、自由、また民主主義の重要性が強く認識される共に、西側諸国との関係が強化された。200451日、かつての共産圏諸国のEU加盟が予定されているが、それによって、EUが東方に拡大するというよりも、むしろ、中・東欧諸国が西欧諸国(EU)と結びつくと解すべきである。この意味において、ドイツ外務省は、一般に用いられている「EU東方拡大」という概念は、誤解を招くとしている(Auswärtiges Amt, Die Europäische Union – Fragen zur Erweiterung (2002), p. 5)。 


 

 199311月にEUが発足して以来、一般に、ECへの加盟ではなく、EUへの加盟と言われるようになった(同様に、EC加盟国ではなく、EU加盟国という用語が一般的である)。これは、EUへの加盟は、@ECのみならず、A共通外交・安全保障政策とB刑事に関する司法・警察協力の制度にも同時に加盟しなければならないことに基づいている。すなわち、「EU3本柱」のすべてに加盟しなければならない。また、現在、加盟については、EC条約ではなく、EU条約(また、その附属議定書)内で定められている(EU条約第49条参照。なお、後述するように、加盟要件は、欧州理事会が採択した宣言の中でも定められている)。

 



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