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ヨーロッパの経済統合


リストマーク 欧州経済領域 (European Economic Area (EEA))


目 次

1.

設立・加盟国
EEAの拡大

2.

EC域内市場の拡大

3.

法的基盤

4.

EEA法の解釈・適用




1. 設立・加盟国

 EUと個々のEFTA加盟国は、1970年代より貿易の自由化に取り組んでいるが、1980年代に入り、この動きは強化される。その背景には、EUの経済統合が一段と発展する中(リストマーク 域内市場の完成)、EUに加盟しないデメリットを回避すべく、EFTA加盟国がEUとの結びつきの強化を希望するようになったことがある(なお、当時、すでにEU(EC)と広範な自由貿易協定を締結していたスイスは、交渉に消極的であったが、参加が義務付けられた)。他方、欧州委員会の Jacques Delors 委員長を初め、EU側は、さらなる拡大に懐疑的であった。そのため、自由貿易地域EU域内市場 を基調に据えた欧州経済領域 (European Economic Area (EEA)) を設立することで見解がまとまり、1994年1月、EUと個々のEFTA加盟国は、EEAを発足させた。 なお、当初、スイスもEEAに加盟する予定であったが、1992年12月6日に実施された国民投票で協定の締結が否決されたことを受け、加盟を見送っている(参照)。


 EEA協定第128条は、EUに新規加盟する国は、EEAにも加盟しなければならないと定めている。この規定に基づき、2004年5月1日以降にEUに加盟した13ヶ国(リストマークEUの東方拡大)は、EEAにも加盟している。したがって、現在 、EEAは31ヶ国体制をとる。




リストマーク E E A 加 盟 国 リストマーク

E U加 盟 国

E F T A 加 盟 国


アイルランド
イギリス
イタリア
オーストリア
オランダ
ギリシャ
スウェーデン
スペイン
ドイツ
デンマーク
フィンランド
フランス
ベルギー
ポルトガル
ルクセンブルク


2004年5月1日以降に加盟した国


エストニア
キプロス
スロバキア
スロベニア
チェコ
ハンガリー
ポーランド
マルタ
ラトビア
リトアニア

ルーマニア
ブルガリア
クロアチア



リストマーク EU加盟国


アイスランド
ノルウェー
リヒテンシュタイン

  
リストマーク EFTA加盟国はこちら


(50音順)

(参照)

EEAの拡大(EFTAの公式サイト)






2. EU域内市場の拡大

 自由貿易地域である EEA (関税同盟ではない)は、加盟国間の貿易・経済関係を強化し、その恒常的かつ均整のとれた発展を目的としている。また、 法の統一や平等な競争条件を確保することにより、企業活動の活性化を図っている(EEA協定前文、第1条第1項参照)。しかし、より端的に述べるならば、EEAの目的は、EU 域内市場 をEFTA加盟国に拡大することにある。そのため、過去50年間にわたり積み上げられてきた EU法の総体系(Acquis communautaire” ) (厳密には、EC域内市場に関するものに限る)をEFTA加盟国は国内法に置き換えなければならない。ただし、EUの共通農業政策、漁業政策、租税政策、外交・安全保障政策および司法・内政政策(自由、安全および正義の空間)などは(詳しくは こちら)、EEAの対象に含まれない。そのため、これらの政策分野のEU法を置き換える必要はない

 EEA域内市場では、商品、人、サービス、資本の自由な移動が保障されているが(詳しくは こちら)、EEA協定には、この4つの自由に関連する社会政策、消費者保護、環境政策、統計、会社法に関する規定も盛り込まれている。また、域内での競争条件を平等にするため、競争政策や国による企業支援についても定めている(第1条第2項参照)。

 なお、前述した4つの自由の保障はEU域内市場の根本的要素である(詳しくはこちら)。これを実現するため、EU法は国籍に基づく差別を禁止しているが(詳しくは こちら)、EEA条約第4条も同様に、国籍に基づく差別を禁止している。

 EEA条約では、4つの自由には関連しない案件(研究・技術開発、情報サービス、教育、訓練、青少年、雇用、中小企業、旅行、オーディオ・ビジュアル、市民の保護など)についても定められている(第78条参照)。

 なお、EEAは、EU(EC)のすべての政策を対象にしているわけではなく、以下の政策は対象外である。



共通農業政策

共通漁業政策

共通外交・安全保障政策

刑事に関する司法・警察協力

関税同盟

経済・通貨政策 (通貨同盟) リストマーク こちら を参照

租税



(参照)

EFTAの公式サイト







EEAにおける4つの自由


 EUの域内市場では、商品、人、サービス、資本の移動の自由が保障されているが、EEA設立後、この4つの自由は、EEA加盟国間でも保障される(リストマーク EC法上の基本的自由) 。


リストマーク 商品の移動の自由

 EEA加盟国間では、関税や数量制限が課されることなく、自由に商品を流通させることができる。従来は、商品の安全、消費者保護、環境保護規準などが統一されておらず、また、輸出国と輸入国の両方で検査が行われていたが、現在はEUの規準の受け入れ(EUに加盟していないEEA加盟国は、EU法を受け入れなければならない)や相互承認制度の導入により、これらの技術障壁も撤廃されている。

 なお、EEAは関税同盟ではない。そのため、EEA内における商品の移動の自由は、EEA加盟国産に限って保障される。そのため、EUとアイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタインの境における検査は撤廃されていない。

  (参照) EU法上の商品移動の自由


リストマーク 人の移動の自由

 EEA加盟国の国民には、職業または職探しのために、他の加盟国に入り、また、そこで生活する権利が与えられている。これらの権利は、学生、年金受給者、失業者やその家族(労働者の家族も含む)にも保障されているが、それぞれ特則が設けられている。

 EEA内における人の自由な移動を奨励するため、加盟国の社会保障制度や diploma の相互承認制度が設けられている。

 人の移動の自由には、自然人だけではなく、法人も含まれる。そのため、あるEEA加盟国で認可され、実際に設立された会社は他の加盟国でも設立が認められなければならない。金融機関や保険会社は、一つの国でのみ認可を受け、その国の監督しか受けない。

  (参照) EU法上の人の移動の自由


リストマーク サービス提供の自由

 サービスの移動に関しても、国籍に基づく差別は禁止されているが、既存の国内規則に基づき、他の加盟国内でも自由にサービスを提供することは制限され、また、認可手続が長期にわたることもある。

  (参照) EU法上のサービス提供の自由


リストマーク 資本の移動の自由

 EEA加盟国から他の加盟国への送金、融資、投資は制限されない。


(参照)

域内市場(EFTAの公式サイト)





3.法的基盤

 EEA協定(EEA Agreement)は、1992年5月2日、@ 当時のEFTA加盟6ヶ国、A EEC、ECSC(欧州石炭・鉄鋼共同体)、また、B 当時のEEC・ECSC加盟12ヶ国によって締結された(OJ 1994 No. L 1, 3)。

 EFTAには対外的権限はないため、その加盟国が協定を締結している。スイスもこれに加わっているが、1992年12月6日に行われた国民投票で批准が否決されたため、EEAには参加していない(詳しくは こちら)。

 EEC・ECSCだけではなく、その加盟国(B)も締結しているのは、EEAがいわゆる 混合協定 にあたるためである。

 E(E)C法上、EEA協定は、一種の 連合協定 にあたる(EC条約第310条参照)。1992年5月2日に締結されたEEA協定は、独自の司法機関の設置について定め、EC法の独自性を損ねる恐れがあった。そのため、EC裁判所は、同協定の締結を容認しなかった(Opinion 1/91 EEA [1991] ECR I-6079, paras. 69 and 72)。これを踏まえ、新たに議定書(Protokol of March 17, 1993)が作成されている。その後、再び、EC裁判所に問題が提起されているが、同裁判所は、EEA独自の裁判所は設立されなくなったこと、また、EC法体系の独自性が保障されることを確認した上で、EEA協定の締結を許可したOpinion 1/92 EEA [1992] ECR I-2821)。その後、協定は、全締約国の批准を経て、1994年1月1日に発効した(なお、リヒテンシュタインについては、例外的に、1995年5月1日に発効している)。

リストマーク

EEA協定締結に関するEC裁判所の見解
EEA協定第48議定書


   

 EEA協定は、全第129条からなるが、22の附属書(Annexes)49の議定書(Protocols) が付けられている。附属書は、EEAでも適用されるEC法の総体系(Acquis communautaire” ) について定めている。他方、議定書は、原産地規則、経過規定、財政について定めているが、一般に、これらはEC法に基づいていない。

 EEA Joint Committee  の決定に基づき、毎月、多くの法令がEEA協定内に取り込まれるが、第1次法である協定に対し、新たに制定された法令を第2次法とよぶ。

 1992年5月2日には、Surveillance Authority と Court of Justice を設立するための協定も締結されている(参照)。



(参照)

EEA協定 (EFTAの公式サイト)
Overview of Legal Text (EFTAの公式サイト)
Joint Committee Decisions (EFTAの公式サイト)

 

(2016年7月20日 更新)