ドイツにおける議論
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国民投票は実施せず
欧州憲法条約の批准に先立ち、多くのEU加盟国が国民投票の実施を計画していることを受け(参照)、ドイツでも、国民投票の実施について検討されるようになった。もっとも、法的基盤が整っておらず、与党は、2004年8月(つまり、憲法条約がまだ締結されていない時点のことである)、立法化に着手する意向を明らかにしたが(詳しくは
こちら)、最終的に計画は挫折し、従来のEU・EC基本条約 と同様に、国会(両院)の判断に委ねることになった。
国会審議
当初、国会(両院)の審議は、2005年6月に予定されていたが、フランスの国民投票(5月29日)で憲法条約の批准が否決される可能性が高まったため(フランスの批准見送り危機)、日程は早められた。
現在の予定では、連邦議会(Bundestag)は5月12日に、また、連邦参議院(Bundesrat )は5月27日(フランスの国民投票の2日前)に決議をとることになっている(ドイツ、批准手続早まる)。なお、連邦議会の審議が早まったため、議員としての自らの権限が侵害されるとし、CSU(野党)のPeter Gauweiler 連邦議会議員は、ドイツ連邦憲法裁判所に訴えを提起していたが、4月28日、同裁判所(第2法廷)は、訴えを退けている(詳しくは、こちら)。
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2005年5月12日、連邦議会は圧倒的多数で欧州憲法条約の批准を承認した(詳しくは こちら)。 |
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与党の要請により、国会審議が前倒しで実施されたことを受け、当初、野党のCDU・CSUは、EUの意思決定手続に関し譲歩を求めていた。また、4月25日に締結されたブルガリアとルーマニアのEU加盟協定についても、保護規定(新規加盟国からの低賃金労働者の大量移住を阻止するための規定)の改善を要請していた。加盟協定の見直しは現実的に不可能であるが、EUの政策決定に関し、連邦議会の関与を従来より強化することで妥協が成立している(ドイツの主要政党、批准について合意)。そのため、批准に必要な議員の3分の2の支持が得られることは確実視されており、フランス国民にポジティブなメッセージを送ることができるものと解されている。
批准反対論
他方、野党 CDU・CSUに所属する約20名の議員は、憲法条約の批准に反対票を投じると見られている。その理由として、@ EUへの大幅な権限委譲だけではなく、A
立法機関に対する行政機関の権限の強化も挙げられている。懐疑論者によれば、憲法条約は、EU理事会や欧州委員会の権限を強化するのみで、欧州議会の権限は強化されていないとされる。
しかし、保守系の野党(CDU・CSU)議員が批准に反対する最大の理由は、憲法条約の前文で、キリスト教とユダヤ教に基づく「神」について言及することが見送られたこと(参照)にあるとされる。これは、ヨーロッパに属しないイスラム教国(トルコ)のEU加盟を認めるものであるとして批判されている。
さらに、早急なEU拡大は、賃金水準の低い新規加盟国との競争を激化させるだけではなく(参照)、憲法条約第III-144条は、EU内に居住する第3国市民に対してもサービス提供の自由を保障するため、国内の雇用情勢はさらに厳しくなると批判している。新旧加盟国間に大きな賃金格差を残した状態での自由化は、ドイツ人労働者を不利な立場に追いやることになるが、憲法条約はこのような状態の是正に貢献しないことが指摘されている。ドイツでは、国民投票が実施されるフランスのように議論は過熱していないが(フランスの批准見送り危機)、根底に横たわる問題は同じである。
なお、批准に反対する議員は、欧州統合そのものには反対しておらず、むしろ、より強い関心を持っているからこそ、現在の統合のあり方には賛同しえないと述べている。いずれにせよ、これらの議員は少数派に止まるため、批准が危ぶまれることはないと解されている。しかし、2005年の経済成長率は、EU加盟25ヶ国の中で最低レベルに止まり(欧州委員会の予測では、0.5%)、失業者数(約500万人)も過去最高を記録する中、欧州統合に対するドイツ国民の期待は大きく砕け散ったと見ることができよう。ドイツの日刊紙 Süddeutsche Zeitung (2005年4月25日付け)は、設立当初、ECは姿はなくとも、国民の心を掴んでいたが、現在では、逆の現象が生じていると論評している。
(参照) |
Die Welt v. 25. April 2005, Seite 4 ("Widerstand gegen EU-Verfassung
wächst")
Süddeutsche Zeitung v. 25. April 2005, Seite 4 ("Wie Europa besser
wird" and "Das Eisgebirge") |
憲法訴訟
ドイツ国会の審議に先立ち提起された訴えを、ドイツ連邦憲法裁判所は退けていることは前述したが(参照 こちらも参照)、ドイツ国会が憲法条約の批准を決定した後に改めて訴えが提起される可能性も否定できない。特に、批准の是非は、国民投票によって決定すべきとの立場から、国会による決定の合憲性を争う見解も主張されている(参照)。
Gauweiler 議員、改めて提訴
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