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EUの競争政策(Competition Policy)


  はじめに

  EUは、域内における経済活動の自由を保障している。そのため、例えば、ある加盟国で生産・販売されている商品は、他の加盟国へも、制限されることなく、自由に輸出・販売することができる(商品移動の自由)。また、ある加盟国に設立された法人は、他の加盟国に本拠地を移したり、子会社を設立し、サービスを提供することができる(開業の自由サービス提供の自由)。このように経済活動の自由が保障されている一方で、商品の販売やサービスの提供を公正に行うことが企業には要請される。

 市場競争の公正さを確保するため、加盟国は多くの法令を制定し、不公正な活動を取り締まっているが、加盟国間にまたがる案件についてはEUにも権限が与えられている。つまり、域内市場競争の公正を確保することはEUの重要な政策課題の一つにあたり、そのために必要な措置をEUは講じることができる(EUの機能に関する条約第101条〜第109条参照)。特に、競争規則を設ける権限は加盟国からEUに完全に委譲されている(第3条第1項参照)。また、欧州委員会が行政機関として企業活動を監視しているが、その任務を軽減するため、2004年より、政策の実施は加盟国に大部、委ねられている。

 なおEC条約第3条第g号は、域内市場における競争阻害要因の除去をECの政策課題として挙げていたが、現在、これに相当する規定は存在しない。しかし、競争政策がEUの主要政策の一つであることに変わりはない。

 また、欧州憲法条約第I-3条第2項は、自由かつ公正な競争が行われる域内市場の創設をEUの目標の一つに掲げていたが、 Sarkozy 大統領の要請に従い、「自由かつ公正な競争が行われる」とう文言が削除された。これは自由競争原理を疑問視し、社会的側面を重視するものであり、新EU条約第3条第3項(リスボン条約体制) は、EUの目標・任務として、社会主義的市場経済の構築を挙げている。ただし、これは不公正な競争を容認するものではなく、域内市場を不公正な競争から保護するシステム(従来の競争政策)の必要性は第27議定書において確認されている(参照)。 

 なお、公正な競争は、域内市場においてなるべく多くの競争が存在し、それが実効的に機能していることが前提とされている[1]

 

 ところで、国内の競争法には、以下の規定が含まれる[2]

@ 

不正な広告、特売、値引きなど、不正な企業活動を取り締まる規定
 

 A

カルテル、価格談合、市場における優越的地位の濫用など、競争制限行為を規制する規定

B 

企業の合併を規制する規定

C 

商標権や特許権などの工業所有権の私的独占や、ライセンス契約の濫用を取り締まる規定


EUの競争法はAとBを対象にしている。特に、EUの機能に関する条約第101条(EC条約第81条)は企業間の合意について、また、第102条(第82条)は優越的地位の濫用について定めている。

なお、上掲の@の分野は、主として、商品の移動の自由に関する事項として扱われる(EUの機能に関する条約第EC条約第34条参照)。第4の分野も、同様に、商品の移動の自由に関する案件として扱われている(第34条、第36条、第114条参照。もっとも、ライセンス契約を通した市場の独占は、カルテルとして規制されることもある)[3]。なお、EU競争法は、EU内に設置された企業だけではなく、域内市場に影響を及ぼす外国企業にも適用される。それゆえ、域外にある親会社が域内に設立された子会社を通じて、域内の競争条件を乱す場合、EUは、域内の子会社だけではなく、域外の親会社に対しても制裁を加えることができる[4]

  その他、公正な市場競争は、加盟国の行為によっても阻害されうる。そのため、EUの競争法は、公的企業による市場の独占や企業援助に関する規定を設け、加盟国の措置を規制している(EUの機能に関する条約106条〜第109条)。

 なお、農産物の生産や取引に関しても、同様の問題が生じるが、これには農業政策に関する規定が適用され、競争法に関する規定の適用は制限されている(EUの機能に関する条約42条)。

 


[1]     See ECJ, Case 26/76, Metro [1977] 1875, para. 20.

[2]     Hakenberg, Grundzüge des Europäischen Gemeinschaftsrechts, Verlag Vahlen 2010, 5th edition, p. 127 (para. 366).

[3]     Hakenberg, op. cit. note, p. 127 (para. 367).

[4]     Streinz, Europarecht, C. F. Müller, 2001, 5th edition, para. 811.




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