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リストマーク ケルン欧州理事会の成果


 

 以下は、拙稿「ユーロ導入後のEU 欧州連合  1999年上半期におけるEUの法と政策の発展 」平成国際大学編『平成法政研究』第4巻第1号(1999年11月)53〜100頁より、一部、抜粋したものです (一部修正済み)。なお、脚注はすべて省略してあります。

 


 

1.序

 1999634日、ドイツのケルンにおいて欧州理事会が開催された。アムステルダム条約 の発効後、初めて開催される首脳会議であったが、コソボ紛争の展開に関心が集まり、議題は共通外交・安全保障政策の強化などに集中した。

 

2ケルン欧州理事会の主な成果

 理事会の重要な成果としては、次の点を指摘しうる。 

 @ 従来、イギリスはEU独自の安全保障制度の強化に反対してきたが、コソボ紛争を目の当たりにし、その方針が修正されたことを受け、EU加盟国首脳は、EU独自の安全保障体制を整備することで合意した。もっとも、これは、NATOに代わる新たな制度を導入するのではなく、NATOにおける欧州諸国の地位の強化を目的としている。なお、欧州の安全保障政策を強化することは、ヨーロッパだけではなく、NATO全体の利益につながると説明されている。その方法としては、できるだけ早く西欧同盟をEUに統合することが検討されておりEUが西欧同盟の役割を承継した後、西欧同盟は解散することになろう)、そのために必要な法の整備は2000年までに完了すべきであるとされている。

 A 加盟国首脳は、アムステルダム条約に基づき新たに設けられた、理事会の事務局長兼共通外交・安全保障政策の代表高官に、現職のNATO事務総長、ソラナ(Solana を任命した。非公式のEU外相として、同高官は、対外関係においてEUが一致団結して行動することを諸外国にアピールし、国際舞台におけるEUの行動力や影響力の強化に貢献すると考えられる。

 B EUはロシアの市場経済の発展や民主化などを強力に支援するとする対ロシア政策の方針が決定した。これは、ロシアを西欧の経済社会体制内に引き込むことによって、欧州の安定化と安全性を確保することを目的とした非常に包括的な政策(アムステルダム条約に基づき導入された、最初の「共通戦略」〔EU条約132項〕)であり、EUおよび加盟国に対し、ロシア政策の調整や一貫性の確保を義務づけている。NATOのパートナーであるアメリカやカナダとの関係に関しては、バナナやホルモン牛肉の輸入に関し、これらの国々との間で通商問題が深刻化していることなどを受け、紛争の早期警戒early-warningシステムを導入する必要性が指摘されている。これは、双方の納得が得られる紛争(通商問題に限らない)の早期解決制度として機能し、西側諸国の団結性や政策調整の発展に貢献することになろう。

 C 失業問題はECEU)の最も深刻な社会問題の一つであるが、従来、雇用政策は加盟国の管轄事項とされ、ECEU)に権限は与えられていなかった。しかし、失業問題の慢性化に基づき、新EC条約(アムステルダム条約に基づき改正されたEC条約)には雇用政策に関する編(Titel)が設けられ(125130条)、加盟国の雇用政策を調整および支援する権限をECに与えられた(もっとも、雇用政策に関する実質的な権限は従来通り加盟国の下にある)。ケルン欧州理事会では、迅速な経済成長を達成し、雇用の増加を図るため、マクロ経済政策の決定に関与すべての機関EU理事会〔蔵相理事会〕、欧州委員会、欧州中央銀行および労使双方)の代表が出席する会議を開き、賃金・通貨・財政政策の相互調整を行うことが決定した(ケルン・プロセス)。これは従来のルクセンブルク・プロセスやカルディフCardiff・プロセスに次ぐ、ECの雇用政策の第3の「柱」にあたる。また、雇用政策との関係で、投資の促進をECレベルでも推奨すべきことが定められた。

 D さらに、2000年初旬に欧州理事会を開催し、アムステルダム条約制定作業において保留された問題の解決について話し合うことになった。なお、新EU条約の(第7議定書は、新たに5ヶ国以上の国がEUに加盟する少なくとも1年前までに、EUの諸制度の見直しについて包括的に検討すると定めている。

 E 最後に、1999年下半期、加盟国議会と欧州議会の議員の代表、加盟国政府代表、委員会代表、市民グループやEC裁判所の代表らが出席する「集会」(Konvent)を開き、「EUの基本権憲章“Charta of Fundamental Rigths of EU”」を起草することで合意された点について言及すべきであろう。この草案は、200012月迄に採択され、最終的には、加盟国間の条約として締結されることになろうが、基本権の性質に鑑み、ヨーロッパ市民が憲章の制定に積極的に参加しうることが保障されなければならないとされる。

 他方、今回の欧州理事会で成果が得られなかった事項として、ドイツのシュレーダー首相は、EUとトルコとの関係改善を挙げている。両者の関係は、トルコがEU加盟交渉に招待されなかったことを契機として悪化したが、トルコが招かれなかったのは、トルコ側が主張するように、EUは「キリスト教同盟」であり、イスラム教国のトルコは阻害されたためではない。それは、同国がEU加盟の条件(政治体制の民主化や権利保護制度の強化など〔EU条約49条参照〕)を満たしていないためであると考えるべきである。もっとも、EU加盟は、トルコの民主化を支援する効果もあるため、例えば、ドイツはトルコのEU加盟に積極的である。なお、トルコのEU加盟が座礁しているのは、ギリシャがこれに強く反対しているためでもあり、キプロス島をめぐる両国間の紛争が解決されない限り、トルコのEU加盟は難しいと言えよう(第三国のEU加盟には、EU全加盟国の同意が必要である)