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 リスボン条約体制下の共通外交・安全保障政策


          世界の人々

 1. 原則と目標
 2. EUの権限の性質
 3. 機構制度
 4. 措置
 5. 意思決定手続
 6. 司法統制 
従来の共通外交・安全保障政策 




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 1993年11月に発足したEUは、@EC、A共通外交・安全保障政策およびB司法・内政分野の協力(後に、刑事に関する警察・司法協力に改編)という3つの柱からなっていたが(詳しくは こちら)、第1の柱と、第2・3の柱とでは、政策統合の度合に違いがあった。つまり、1本目の柱の分野では加盟国からECに主権が委譲され、実効的な政策が実施されてきたが、第2の柱にあたる共通外交・安全保障政策は、主権の委譲を伴わない、緩やかな政府間協力に過ぎなかった(第3の柱の政策も同様に政府間協力であった)(詳しくは こちら)。

 2002年以降に行われた一連のEU改革作業 では、前掲の3本柱構造を廃止し、共通外交・安全保障政策も1本目の柱と同じように強力な制度にすることが検討されたが、いわゆる「政策のEC化」は実現せず、従来通り、政府間協力として位置付けられることになった。リスボン条約体制下 では、唯一の政府間協力制度であり、特例が設けられている(EU条約新第24条第1項第2款参照)。

 なお、EUの基本諸条約を一本化する構想も実現せず、EUの諸政策は、@EU条約とAEUの機能に関する条約(従来のEC条約)内で定められている。@からA(従来のEC条約)に移された政策もあるが、共通外交・安全保障政策は、従来通り、@で規定されている(リスボン条約体制によるEU条約第5編第2章〔第23条〜第46条〕、詳しくは こちら)。なお、共通外交・安全保障政策(共通防衛政策を段階的に策定することを含む)がEUの政策の一つであることは、EU条約ではなく、EUの機能に関する条約第2条第4項で規定されている。

 従来とは異なり、現行法は、EUの諸政策を域内政策と域外政策(対外政策)とに明瞭に区分している。共通外交・安全保障政策が域外政策(対外政策)に属することは言うまでもないが、その他の域外政策(共通通商政策、発展援助政策、第3国との経済・技術協力、人道的援助、経済制裁)がEUの機能に関する条約で定められているのに対し、共通外交・安全保障政策に関する規定はEU条約内に置かれている。



1.原則と目標

 現行EU条約は、共通外交・安全保障政策を含めた、あらゆる域外政策(対外政策)の原則および目標をまとめて規定している(第21条)。これらは 第3条第5項が定める原則・目標 を詳細にしたものであるが、EU自らの起源や発展、また、EU拡大の理念に合致している。つまり、EUの域外政策は、以下に挙げる欧州統合の理念に立脚し、これらを国際的に追求することを目標とする(第21条第1項第1款、第3項)。


民主主義

法の支配

人権および基本的自由の普遍性

人間の尊厳、平等原則および団結性の原則の尊重

国連憲章および国際法上の諸原則の尊重


 また、EUは、国連の枠内において、多面的な諸問題の解決に尽力することが強調されている(第21条第1項第2款)。

 これらの諸原則に基づく域外政策(共通外交・安全保障政策を含む)の目標は、第21条第2項でより詳細に定められている。なお、複数の目標相互間に上限関係・優先順位は設けられていない。


2. EUの権限の性質

 EUには、外交政策やEUの安全保障問題(共通防衛政策を含む)に関するあらゆる権限が与えられている(EU条約第24条第1項、EUの機能に関する条約第2条第4項)。つまり、EUの権限は包括的である。もっとも、加盟国からEUに主権が委譲されるわけではない。つまり、外交・安全保障政策に関する基本的な権限は加盟国の下に残されている。それゆえ、EUは加盟国の政策に干渉しえず、これを補充しうるに過ぎない(EU条約およびEUの機能に関する条約附属第13宣言および第14宣言参照)。また、共通外交・安全保障政策は、外交政策に関する加盟国の既存の権限や政策に影響を与えない旨が明記された(第13・第14宣言参照)。 なお、実務・慣行を通じ、EUの権限が肯定されることにはならない(EUの機能に関する条約第2条第2項第2文参照)。これは、同政策分野におけるEUの措置は永続的に適用されるわけではなく、むしろ、一時的な外交措置としての性質を持つに過ぎないためである。なお、共通外交・安全保障政策の分野において、EUが法律(立法手続に従い制定される第2次法)を制定することは明文で禁止されている(EU条約新第24条第1項第2款、第31条第1項)。

 ところで、EUは基本諸条約で定められた権限のみを行使することができるが、規定されていない場合であれ、EUの目標達成に必要な場合は、EUの機能に関する条約第352条に基づき、措置を講じることができる(参照)。もっとも、共通外交・安全保障政策の目標を実現するために、第352条を援用することは明文で禁止されている(同条第4項)。


3. 機構制度

(1) 欧州理事会

 共通外交・安全保障政策は、EUの域外政策(対外政策)の一部にあたるが、後者の原則および目標はEU条約新第21条で定められている。これらに照らし、域外政策全般の戦略的利益や目標だけではなく(EU条約新第22条第1項)、共通外交・安全保障政策の一般的ガイドラインや目標を定めるのは欧州理事会である(EU条約新第26条第1項)。なお、従来のEU法上、欧州理事会には、共通外交・安全保障政策の分野において、この権限が与えられていたが、現行のリスボン条約体制は、域外政策全般に関し権限を与えている。
 
 欧州理事会は、加盟国首脳や欧州委員会の委員長だけではなく、新設のポストである欧州理事会議長で構成される。また、その作業には、共通外交・安全保障政策の上級代表も参加する(新第15条第2項、詳しくは こちら)。

 なお、EU条約新第15条第6項第2款によれば、共通外交・安全保障政策の分野においてEUを対外的に代表するのは欧州理事会議長とされているが、同政策の上級代表との権限配分ないし役割分担は必ずしも明瞭ではない(後述参照)。


(2) 外務理事会

 欧州理事会が定める一般的ガイドラインや目標の実施に必要な決定(decisions)は理事会によって発せられる。なお、この理事会は「外務理事会」(The Foreign Affairs Council)と呼ばれる(新第16条第6項第3款、第26条第2項)。従来の慣例では、この「外務理事会」には加盟国の外相が出席する。なお、同理事会の議長を務めるのは、共通外交・安全保障政策の上級代表であるが(新第18条第3項)、投票権は与えられていない。


(3) 共通外交・安全保障政策の上級代表

 共通外交・安全保障政策は、同政策の上級代表によって統括される(新第18条第2項)。その権限・任務は、欧州憲法条約における「EU外相」(Union Minister for Foreign Affairs)と同じであるが、その役割だけではなく、「外相」という職名には消極的な見解もあった。最終的に、加盟国は、2007年の政府間協議において「外相」という表現を和らげ、従来より用いらている「共通外交・安全保障政策の上級代表」(High Representative of the Union for Foreign Affairs and Security Policy)という職名の存続を決定した。なお、これまで、同代表はEU理事会の事務総長を兼ねていたが、欧州委員会の副委員長を兼ねることに変更された。上級代表は、同時に、理事会(外務理事会)の議長を務めるが、欧州委員会と理事会の双方で職務が与えられていることは、両機関の連携を強化し、また円滑にする狙いがある。他方、権力分立(行政と立法の分立)の観点からは問題があるが、理事会において、上級代表は投票権を有さないことで緩和されている。さらに、上級代表は欧州理事会の作業にも参加することになっており(上述参照)、欧州理事会が策定したガイドラインや目標の実施を確保する任務を負っている(新第27条第1項)。

上級代表


 上級代表(欧州憲法条約によるならば「EU外相」)という常任職を設けたのは、人的統一性を図ることで、対外的にもEUを際立たせ、また、その外交政策を少なくとも人的に、より強くアピールすることにある。

 上級代表は欧州理事会が特定多数決で任命するが、欧州委員長の同意を必要とする(新第18条第1項)。同代表は外務理事会の議長を務めるが(新第18条第3項、第27条第1項)、欧州委員会の副委員長も兼任する(新第18条第4項)。そのため、委員長やその他の委員と一緒に欧州議会によって任命審査を受ける(新第17条第7項第3款第1文)。なお、欧州議会が欧州委員会の不信任決議を採択する場合、上級代表は欧州委員としての地位を辞職し(同第8項第3文)、上級代表としての任務は継続して遂行する。


 上級代表の主な任務は共通外交・安全保障政策を指揮することにある。また、発案権を有するだけではなく、理事会の委任を受けて同政策を実施し(新第18条第2項、発案権について新第22条第2項および第27条第1項も参照)、かつ、欧州理事会や理事会によって採択された決議の実施を確保する(新第27条第1項)。さらに、共通外交・安全保障政策の分野において、EUを対外的に代表する権限が与えられている。具体的には、EUを代表して第3国と交渉を行ったり、国際機関や国際会議においてEUの見解を述べることができる(新第27条第2項)。なお、共通外交・安全保障政策以外の対外政策に関しては、上級代表と欧州委員会の両方に権限が与えられている(EUの機能に関する条約第220条第2項)。

 また、国連安保理の審議事項についてEUが立場を決定しているとき、安保理のメンバーであるEU加盟国は、上級代表にEUの立場を述べさせるよう要請するものとされている(EU条約新第34条第2項第3款)。
 
 上述したように、上級代表には、共通外交・安全保障政策を指揮し、また、EUを対外的に代表する権限が与えられているが(新第18条第2項第1文、第27条第2項)、新EU条約は、欧州理事会議長にも、EUを対外的に代表する権限を与えている(第15条第6項第2款)。両者の役割分担は必ずしも明瞭ではないが、第15条第6項第2項の文言に照らすならば、欧州理事会議長は、政治的機関である欧州理事会の代表として対外的に行動するものと解される。つまり、同議長は政治的権力を持たず、単に外交的にEUを代表するものと考えられる。なお、同議長と上級代表の連携を円滑にする観点から、上級代表は欧州理事会にも参加するものとされている(新第15条第2項)。上級代表は、さらに外務理事会でも議長を務め、欧州理事会が決定したガイドラインや目標の実施を確保する職務を負わされていることは前述したとおりである。

 その他の職務として、上級代表は外務理事会の議長を務める(同第3項、第27条第1項)。欧州委員会の内部においては、EUの対外政策を担当し、共通外交・安全保障政策以外の対外政策との調整を行うが、EUの立法機関である理事会との政策調整も重要な任務となる。


(4)ヨーロッパ外交使節

 共通外交・安全保障政策の上級代表は、新たに設けられるヨーロッパ外交使節(European External Action Service)によって補佐される。同使節は、理事会や委員会の事務総局内の関係部署の職員と加盟国の外交機関より派遣された人員で構成され、加盟国の外交使節と共に行動する。

 ヨーロッパ外交使節の組織や活動方法は、理事会が新たに制定する決定の中で定められるが、この決定は、上級代表の提案を受け、欧州議会の意見を聞いた後に、委員会の承認を得て発せられる(新第27条第3項)。なお、この点は欧州憲法条約第III-296条と実質的に同じであるが、この規定には宣言(欧州憲法条約附属第24宣言)が設けられ、憲法条約の締結後、理事会事務局長(当時の上級代表)、欧州委員会および加盟国は、ヨーロッパ外交使節の設立に向け、準備を開始すべきことが定められた。実際に作業が行われ、2005年6月の欧州理事会において、共同報告書が提出されている。

 なお、欧州憲法条約第III-306条では、加盟国の外交・領事使節、EUの代表使節およびそれらの国際機関における代表は、共通外交・安全保障政策の実施や遵守を確保するために協力することが定められていた。これは従来のEU条約第20条を強化するものであるが、リスボン条約には盛り込まれていない。


4.措置(第2次法)

 共通外交・安全保障政策は、@ 加盟国間相互の政治的団結性を高めること、A 一般的な重要性を持つ問題を特定すること、また、B 加盟国間の行動の収斂性を強化することを基礎とする(EU条約新第24条第2項)。

 他方、加盟国は、相互の団結性の精神にのっとり、共通外交・安全保障政策を積極的かつ無条件に支援し、EUの行動を尊重しなければならない(第24条第3項第1款)。また、相互の政治的連帯性を強化・発展させるため、加盟国は共同で作業を行い、EUの利益に反したり、EUの措置の一貫性を害する行為を慎まなければならない(同第2款)。

 共通外交・安全保障政策の実施にあたり、EUは以下の措置を講じることができる(第25条)。


a) 一般的ガイドライン

 この一般的ガイドラインや目標だけではなく、共通外交・安全保障政策の戦略は欧州理事会によって決定され(第26条第1項)、その実施に必要な措置は理事会によって発せられる(同第2項)。なお、両機関の決議は、原則として全会一致による(第31条第1項)。


b)以下の案件に関する決定(decisions)

 ・EUによって実施されるべき行動
 ・EUの立場
 ・上掲の行動や立場の実施

 これらの決定は欧州理事会が定めた一般的ガイドラインや目標に照らし、理事会によって発せられる。その効力、とりわけ、加盟国に対する拘束力は個々の決定ごとに定められているが(第28条第2項、第29条第2文)、原則として、加盟国は決定に拘束されると解される。つまり、これらはEUの機能に関する条約第288条第4項の意味における決定として、その全範囲において加盟国を拘束する。なお、希望する加盟国には、決定の実施を拒むことも認められているが、決定の効力一般、つまり、他の加盟国に対する拘束力一般を否定することはできない(第31条第1項第2款)。

 なお、かねてよりEC裁判所(リスボン条約発効後はEU裁判所)は、EC条約第249条第4項(現在はEUの機能に関する条約第288条第4項)の意味における決定について、直接的効力や国内法に対する優先性を認めてきた。この判例法が共通外交・安全保障政策の分野で発せられる決定にも適用されるかは明確に定められていないが、同政策分野では加盟国からEUに主権は委譲されず、政府間協力にとどまることから、超国家的共同体の法規に特有の効力は否定されると解すべきである。

c) 加盟国間の体系的協力

 共通外交・安全保障政策の一環として、EUは、さらに国際条約を締結することができる(第37条)。なお、この条約はEUと加盟国を拘束する(EUの機能に関する条約第218条第2項参照)。

 ところで、共通外交・安全保障政策の分野で、EUが法律(立法手続に従い制定される第2次法)を制定することは禁止されている(EU条約新第24条第1項第2款)。


5. 意思決定手続

 共通外交・安全保障政策の分野において、欧州理事会と理事会は、原則として、全会一致にて決定する(新第31条第1項第1款)。多数決制度を原則とする案は、すでに欧州憲法条約の起草過程で却下されている。なお、採決で棄権し、政策に参加しないことも認められている(新第31条第1項第2款)。

 他方、従来より、特定多数決で決定されていた案件は、今後も特定多数決によるが(新第31条第2項、従来のEU条約第23条第2項)、欧州理事会の特別の要請を受け、共通外交・安全保障政策の上級代表が提案し、理事会が決定(decisions)を発するケースも特定多数決によることになった(新第31条第2項)。さらに、欧州理事会は全会一致で、特定多数決制度の適用範囲を拡大することができる(同第3項、新第48条第7項参照)。ただし、軍事・防衛に関する案件については、特定多数決制度への変更は認められない(第31条第4項、第48条第7項第1款第2文)。

 

6. 司法統制

 従来より、EC裁判所は共通外交・安全保障政策 の適法性について審査しえず、法の支配の観点から重大な問題があったが(従来のEU条約第46条参照)、この制度上の欠陥はリスボン条約によっても基本的に改善されていない。つまり、新体制下においても、EU裁判所 には、共通外交・安全保障政策(共通防衛政策を含む)に関する規定に関し、管轄権が与えられていない(EU条約新第24条第1項第2款第6文およびEUの機能に関する条約第275条)。

 ただし、EUの制裁(EUの機能に関する条約第215条) や、共通外交・安全保障政策とその他の政策の権限の区分に関し(EU条約新40条参照)、EU裁判所には管轄権が与えられる(EUの機能に関する条約第275条第2項)。さらに、共通外交・安全保障政策の分野で締結される条約とEU法との整合性について、裁判所は事前に審査しうると解される(EUの機能に関する条約第218条第11項参照)。

 なお、EUが当事者の一方となるが、EU裁判所が審査しえないケースに関し、加盟国の裁判所の管轄権まで否認されるわけではない(EUの機能に関する条約第274条)。それゆえ、共通外交・安全保障政策上の措置の適法性を争い、個人が国内裁判所に提訴することは可能であるが(ただし、国内法上、このような訴えが許容されなければならない)、国内裁判所はEU法を無効と宣言することはできないと解される。従って、個人の権利保護を徹底するためには、EU裁判所の管轄権を拡大する必要がある。



 リストマーク 従来の共通外交・安全保障政策については こちら

  リスボン条約については こちら


 
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