先ごろ就任2期目に入った米国のブッシュ大統領は、2005年2月20日夜、ブリュッセルに到着し、新任期中の外国訪問をスタートさせた。22日には、EU理事会や欧州委員会にも立ち寄ることになっているが、歴代のアメリカ大統領がEUを政治的なパートナーとして公式に認め、訪問するのは始めてである。このことより、イラク戦争の際に生じた亀裂を修復し、友好・協力関係を強化しようとする米大統領の意志が読み取れるが、21日、ブリュッセルで行った演説では、世界中の平和と繁栄のため、アメリカとEUが力を合わせる必要性が強調されている。また、欧米間の新しい時代の幕開けを訴えているが、多くの内容が盛り込まれた演説の骨子は以下の通りである。
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北大西洋諸国間の連帯・NATOの役割
ヨーロッパ・北米間の同盟は、新世紀における我々の安全保障を支えるものであり、また、世界経済の牽引役でもある。世界中の平和の確立と富の発展のために、両者間の友好関係を強化する必要がある。
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近時、ドイツの Schröder 首相は、NATO改革の必要性を訴えている。特に、安全保障問題について協議・調整する最も重要なフォーラムとしての機能が失われていること、米国は同盟関係を軽視し、他のパートナーと行動を共にしていること、また、今日のヨーロッパの状況を考慮すると、欧米間のバランスを再調整する必要があることを指摘している(参照@ A)。
この点について、Bush 大統領は、NATOは適切に機能しているとし、改革の必要性を否定している(参照)。
2月23日には、両者の会談が予定されているが、この問題も主要テーマになるものと解される(参照)。
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2月23日の会談は、両者間の和解に重点がおかれ、懸案の NATO 改革は、議題に上がらなかった(詳しくは こちら)。 |
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中東和平
我々が直面する最も大きな課題は中東和平の実現であるが、中東全域における改革は、外部から命じうるものではなく、中東諸国自らが決定すべきである。このことは、近時のパレスチナの改革が如実に示しており、改革路線の推進をパレスチナの
Abbas 大統領に要請している。
イラン
イランの核開発を阻止するため、英・独・仏が行っている外交交渉を支持し、アメリカも
これに参加する(参照@、A)。
イラク
全ての国は、イラクにおける平和と民主主義の確立に関心を持っている。その実現とテロリズムと戦うイラクの経済復興に我々は協力しなければならない。
ヨーロッパ
同様の理由から、米国は、東ヨーロッパにおける民主主義の確立を支援する。また、ブッシュ大統領は、ウクライナ大統領選において、EUが果たした役割を称える共に、民主主義がウクライナで確立されれば、米・ヨーロッパの同盟関係に迎え入れることができるとしている。なお、ロシアについても門戸は開かれているが、法の支配や権力分立、また、報道の自由や人権保護の必要性を指摘している。
さらに、世界平和の実現を図る上で、アメリカは強力なパートナーを必要としており、そのため、強いヨーロッパを支持すると述べている。我々の同盟関係は、相互の富の増幅に貢献しうるが、それだけではなく、我々は世界に目を向けなければならないとされる。
なお、演説では、中国や北朝鮮について触れられていない。天安門事件を契機に発動されている中国に対する制裁については、EU内では廃止を検討すべきとする見解が出始めているが、米国はまだ強い懸念を示している(参照)。
(参照) Die Welt v. 24. Februar 2005 (Annährung
oder Differenz?)
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2月21日の演説において、ブッシュ大統領は、イラク戦争をめぐる論争は過去の出来事であり、世界中のいかなる権力も欧米間のパートナーシップを壊すものはないとし、両者間の関係修復を呼びかけているが、これはEU各国によって好意的に受け止められている。
特に、イラク戦争の際し、反米路線の中核を築いたフランスは、これ以上、両国間の関係を悪化させないよう努めている。Chirac 大統領も、NATO加盟国の結束を重視する他、アメリカのシリア政策を支持している。また、ブリュッセルのアメリカ大使館で
Bush 大統領と夕食を共にした2月21日には、仮に時として見解の相違があるにせよ、米仏関係は200年間にわたり良好であると語った(参照)。
フランスと共にイラク戦争に反対したドイツの Fischer 外相も、ブッシュ大統領の演説を非常に価値のある申し出として評価し、我々はこれに応じなければならないと述べている。また、大統領が強いヨーロッパを支持することを歓迎した上で、北大西洋同盟の強化が重要であることは、イラク戦争より学んだ教訓であるとしている(参照)。
イラク戦争に際しては、現EU加盟国内でも見解が大きく分かれ、新旧ヨーロッパの外交政策の違いを浮き彫りにした。今回のブッシュ大統領の訪欧によって、イラク戦争をめぐる欧米間の対立が解消されるとすれば、それは同時にEU内の対立の解消でもある。なお、ブッシュ大統領は、新しいヨーロッパに属し、イラク戦争を無条件に支持したスロバキアを、2月23~24日、直接訪問している(詳しくは こちら)
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ブッシュ大統領は、世界中における自由と民主主義の確立を就任2期目の政策目標に掲げているが、その実現にはヨーロッパの協力が不可欠であることが
Rice 国務長官より進言されているとされる。ブッシュ大統領は、とりわけ、ドイツとの関係改善を重視し、今回の訪欧の日程にドイツ訪問を入れているが(詳しくは
こちら)、シュレーダー・ドイツ首相と共にイラクへの軍事攻撃に反対したシラク・フランス大統領は、2月21日、ブリュッセルのアメリカ大使館で夕食を共にすることしかできなかった。なお、これまで、仏大統領はホワイト・ハウスに招待されていないが、この点でも独首相とは異なる。訪欧前のラジオ放送で、Bush
大統領は、親友でさえ見解の相違はあると述べているが、Chirac 大統領をテキサスの牧場に招待したいかとの質問に対しては、「もっとよい友達を探すよ」と冗談混じりに語っている(参照)。
ブッシュ大統領 ヨーロッパ訪問の日程
(2005年2月)
20日 午後9時 |
ブリュッセル到着 |
21日 午前中
夕方 |
ベルギー国王夫妻 訪問
ベルギー首相と会見
フランス大統領と夕食 |
22日 朝
午前中
午後 |
イギリス首相と朝食
NATO加盟国首脳会議
ウクライナ大統領と会談
EU理事会、欧州委員会訪問
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23日 |
ドイツ首相と会談(ドイツ・マインツ) |
24日 |
ロシア大統領と会談(スロバキア・ブラチスラバ) |
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