Brexit   イギリスのEU脱退問題

脱退手続とEU法への影響

リストマーク EU脱退手続

 現行EU法は、2009年12月に発効したリスボン条約に基づいているが、同条約に基づき、EU脱退に関する規定がはじめて設けられることになった。詳細には、EU条約第50条において、EU脱退手続が定められることになった。しかし、EU脱退の要件まで列挙されているわけではない。つまり、脱退はもっぱら加盟国の意思に委ねられおり、当該加盟国は特に理由を示すことなく、脱退する意向を一方的に示せば足りる。なお、この規定は、脱退する権利を加盟国に与えていると説明されることもあるが、実際には、このような権利は与えられていない。

 上述したように、EU法は脱退の要件を設けていないが、加盟国の国内法上の要件については慎重な検討を要する。別の観点から述べるならば、そもそも国内法上、EU脱退は可能かという問題がある。ドイツのように、憲法(基本法第23条)でEU加盟について定めている国では、憲法改正の必要性も生じうる。なお、イギリスの脱退に関しては、EU残留を支持するスコットランドの議会が拒否権を発動することができるかという問題が提起されている。

 EU条約第50条第2項によれば、脱退を希望する加盟国は、欧州理事会(加盟国首脳会議)に脱退する意向を伝えなければならない。この一方的意思表示を受け、同理事会は脱退交渉の方針を決定する。また、この方針に基づき、EUは脱退を希望する加盟国と交渉し、脱退の詳細や将来の関係について定めるために協定(条約)を締結するものとされている。なお、協定の締結が義務づけられているわけではない。それゆえ、脱退を通知したときから2年以内にこの協定が締結されないとき、脱退を希望する国は、いわば自動的に脱退することになる。つまり、この時点より、現行EU諸条約は、その国には適用されなくなる。なお、この時点は先延ばし、つまり、交渉期間を延長することができる。ただし、それには脱退を希望する加盟国を含む全ての加盟国の同意が必要になるため、交渉期間の延長は容易ではない(第3項)。

 一般に報道されているように、協定は2年以内または延長された期間内に必ず締結されなければならないわけではなく、締結されなければ、自動的にEU脱退が実現することになる。

 協定はEUと脱退を希望する加盟国との間で締結される。つまり、その他の加盟国は協定の当事国とならない(EUがこれらの加盟国を代表する形をとる)。そのため、欧州憲法条約リスボン条約といったEU基本条約のように、個々の加盟国の批准が必要になるわけではない。

 交渉において、EUは加盟国の脱退を阻止することはできないと解されている。

 なお、EU諸条約が適用されなくなる場合であれ、脱退する国は、すでに国内法体系に取り入られているEU法を破棄しなければならないわけではない。つまり、脱退後も、従来通り適用することができる。ただし、現行EU法の中には、イギリスが適用を欲さないものがあり、まさにそれが国民投票の争点になった。それらは脱退に伴い改められることになろう。

  他方、加盟国であることの特性に基づいている規定(例えば、EU理事会における議決権、欧州議会における議席)は、脱退に伴い、適用されなくなる。加盟国としてEU裁判所に提訴することもできなくなるが、個人が訴えることは認められる。    



リストマーク イギリスの脱退交渉における争点

 EU脱退交渉の論点の一つは域内市場政策にある。つまり、EU内では、商品、人、サービス、資本の移動の自由が保障されているが、イギリスは、脱退後も、EU市場の恩恵にあずかりたいと考えている。これは何もEU加盟を必要としないため、実現可能である。特に、ノルウェースイスは、EUに加盟していないが、EUと個別に協定を締結し、域内市場のアドバンテージを受けている(参照)。しかし、これには、人の流入を受け入れるという条件が付けられており、ノルウェーやスイスは、EUから入ってくる労働者を受け入れている。イギリスがEUから脱退する理由は、まさに、人の移動の自由を制限することにあるため、イギリスがEU域内市場に参加し続けることは困難であると考えられる。

  → ヨーロッパの経済統合についてはこちら


 イギリス政府は、国民投票の結果を尊重し、域内市場への参加を断念すべきである。そうではなく、EUから譲歩を引き出すために交渉を重ねると、EUとの関係だけではなく、国民との関係もこじれることになろう(つまり、国民は域内市場への参加を希望していない)。

 EUはカナダや韓国と自由貿易協定を締結しているが、イギリスとの間にもそのような協定を締結することが有益である。

 加盟国からEUへの主権の委譲に伴い、加盟国ではなく、EUが対外的に行動してきた政策・案件がある。例えば、WTOにおける議決には個々の加盟国を代表してEUが参加している。また、WTO紛争処理機関への訴えについても、個々の加盟国ではなく、EUが行っている(個々の加盟国に対し訴えが提起されるときも、その加盟国ではなく、EUが対応している)。脱退交渉では、このような点についても取り決める必要がある。



リストマーク イギリス脱退のEU法への影響

 従来、イギリスはEU政策の自由化に貢献してきた。確かに、すべての政策で良い効果が得られたとは言えないが、EU政策の自由化ないし現代化は後退することになろう。

 他方、イギリスは、EUの人の移動の自由やテロ対策、また、外交政策の決定にかたくなに抵抗してきた。イギリスが脱退することで、EUの外交・内政政策の発展が期待される。

 



参照


 

外部リンク


サイト内全文検索

Voice