Brexit   イギリスのEU脱退問題

「拡大」と「進化」

  • イギリスの離脱は、「EU拡大」が原因か

 1952年、6ヶ国でスタートした欧州統合は28ヶ国体制にまで発展しているが、イギリス国民投票は、この拡大路線に疑問符をつけることになった。経済的な観点から、「大」は「優」であるとみるEU構想の問題点を指摘する者もいる。つまり、大きな市場ではなく、柔軟性や多様性に富む「ミクロ市場」の方が将来性に長けているという理論が主張されている(参照。しかし、「大」は「優」であるとは市場の効率性・機能に関する理論ではない点に注意を要する。むしろ、「大」つまり「拡大」は、経済的にはマイナスということを認識した上で、EUはあえて拡大路線を選択してきた。それは民主主義や法の支配を「輸出」し、平和の維持に有益であるからである。その最も顕著な例として知られているのが東方拡大(2004年5月以降)である。つまり、1989年に東西冷戦が終結すると、旧東側諸国の民主化や法の支配の発展を促すため、EUは、これらの国の加盟を認めてきた。それ以前に行われたギリシャ(加盟は1981年1月)、スペインやポルトガル(加盟はともに1986年6月)の加盟も同様である。これらの国々が重荷となることは初めから明らかであったが、経済支援は民主化や法の支配の発展を支えるとの考えに基づき、EUは早い段階での加盟を認めてきた。

 なお、EU加盟を欲する国というのは概して経済力が弱く、EUに支援を期待している。これに対し、スイスやノルウェーのように経済力のある国はEUへの加盟を希望しない。アイスランドは、金融危機が深刻化した2008年、加盟申請を行ったが、危機を克服すると、申請を取り下げている。1961年、イギリスが最初に加盟を申請したことも、当時、同国はヨーロッパで最も貧しい国の一つであったことが大きい。EU内では、ドイツに次ぐ経済大国となったイギリスであるが、EU拡大の真の意義より、自らの利益を優先させる姿勢が国民投票では浮き彫りになった。

 ところで、第3国のEU加盟を認めるかどうかは、加盟国が全会一致で決定する。つまり、1国でも反対すれば、新規加盟は承認されない(EU条約第49条第1項)。それゆえ、加盟国数が増えすぎたために、脱退するという考えは本質的に当を得ていない。


  • 恒常的な「進化」に対する防御策

 ところで、EU脱退の可能性は、「拡大」よりも、むしろ「進化」の過程で議論されるようになった。つまり、EUは無期限で設立された国際機関であり(EU条約第53条)、その政策は常に発展するものとされている(同条約前文、第1条第2項等参照)。そのため、脱退というという形での歯止めが場合によっては必要になる。なお、国民投票の実施に先立ち、キャメロン首相は、イギリスは常に発展するとされているEUの政策への参加が義務づけられるわけではないことを他のEU加盟国首脳に認めさせた(詳しくは こちら)。しかし、イギリス国民は脱退の方を選択した。その背景にあるのは、自らの利益のみを追求するという考えである。



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