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Blair 首 相 の 「弁 明」 演 説


 2005年7月より半年間、EU理事会議長を務めるのに際し、Blair 首相は、6月23日、欧州議会 (ブリュッセル)で演説を行い、行動計画 を示している。6日前の欧州理事会では自国の優遇策 の見直しに一貫して反対し、EU次期財政計画 の成立を阻んだとして方々より批判されている Blair 首相は(詳しくは こちら)、改めて自らの立場を弁明すると共に、EU改革の必要性を訴えた。

 2005年上半期の議長国であるルクセンブルクの Juncker 首相 の批判は、特に厳しいが(詳しくは こちら)、Blair 首相より1日早く、同じく欧州議会(ブリュッセル)で行われた演説において、Juncker 首相は、「皆さんは、まもなく 異なる説明を聞くことになるであろう」とも述べている(参照)。

イギリスの Blair 首相

Blair 英首相

写真提供:
Audiovisual Library European Commission

 これに対し、Blair 首相は、中傷や個人的攻撃はやめ、オープンに議論すべきであると述べて、演説を開始している。



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  Blair 首相の演説の要旨は以下の通りである。


リストマーク イギリスは政治統合に消極的とする批判について

 2005年上半期の議長国であるルクセンブルクの Juncker 首相 より、単に経済統合のみを望む加盟国があるとして、暗に批判された Blair 首相は、自らは熱狂的な親欧派であることを強調したうえで、ヨーロッパは単に経済マーケットであるとする見方は受け入れられないと述べた。



リストマーク EU次期財政計画やイギリス優遇策について

 6月17日の 欧州理事会EUの次期財政計画 がまとまらなかったのは、イギリスやオランダが無理難題を突きつけたからとする批判(詳しくは こちら)について、Blair 首相は、私は自国の 優遇策 の凍結に譲歩しなかったとする指摘があるが、これは誤りであると述べている。また、自らは優遇策の見直しについて検討する用意のある唯一のイギリス出身政治家であるとも語っている(参照)。

 また、Blair 首相は、17日の会議の終了間際に 農業政策 改革を持ち出し、合意の成立を妨げたとする指摘については、一晩で農業政策改革を実現しようと考えているわけではないと反論している。



リストマーク 仏蘭で欧州憲法条約の批准が否決されたことについて

 フランスオランダ の国民投票で、欧州憲法条約 の批准が否決されたのは、同条約の内容ではなく、現在のEUの状態に不満を抱いている市民が多かったためと Blair首相は捉えている。

 憲法条約はEUを市民により身近な存在にすることを目標にしている。また、リスボン戦略 は、2010年までにEUを世界中で最も競争力のある地域に発展させるという野心的な目標を掲げている。しかし、これらの目標は達成されていない。

 これらの点を指摘した上で、Blair 首相は、今こそ、我々、政治指導者は、現実に目を向け、また、市民の声に耳を傾け、EUを改革する必要があると述べている。特に、財政制度を刷新し、経済成長に貢献するように改革しなければならないとしている。



リストマーク 社会モデルの改革について

 EU改革の方法として、Blair 首相は、まず、社会モデルの現代化 (modernisation) を挙げている。自由化路線を推進する Blair 首相は、ヨーロッパ型社会モデル の崩壊を試みているとの批判に対し、首相は、@ 2000万人の失業者を生み、A 生産性の面で米国に劣る現在の社会モデルとは、いったい何なのかと切り返している。

 また、イギリスは、極端な市場自由化路線を実施し、労働者の利益を顧みていないとする批判に対しても、@ EU内で最も大規模な失業対策を実施し、長期的失業者数を削減していること、A 他の加盟国よりも、公共サービスの拡充に力を入れていること、また、B 最低賃金を定めていること(イギリスでは、Blair 政権下で初めて導入された)などを挙げている。


リストマーク EUのさらなる拡大について

 欧州憲法条約の批准に関する国民投票で、EU拡大懐疑論が台頭したことを受け、EUや加盟国のリーダーの中には、手続は慎重に進めるべきと主張する者も増えているが(詳しくは こちら)、EUは トルコクロアチア の期待に応える義務を負っていると Blair 首相は述べている。また、雇用拡大や経済発展の観点からも、EU拡大を推進しなければならないとしている。





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リストマーク 欧州議会の反応

 Blair 首相の演説に対し、欧州議会で最大勢力を誇る保守系政党会派の Hans-Jörg Pöttering 会派長は、EUの将来について活発な議論を交わすことは、「民主主義の勝利」であるとして歓迎しているが、他方、イギリスが推進するEU拡大については、あらゆる国を迎え入れることは、ヨーロッパのアイデンティを失わせると批判している。

 他方、社会党会派の Martin Schulz 会派長は、EU改革をツール・ド・フランスに例えた上で、まもなく険しい山道にさしかかるため、先導することは容易ではないと述べている。また、制度改革には賛成するものの、ヨーロッパ型社会モデル を過去の遺産として美術館に収める時期はまだ到来していないと語っている。

 自然環境保護政党会派の Daniel Cohn-Bendit 会派長は、Blair 首相の目指すEU改革は失敗に終わるだろうと述べるとともに、EUは、独仏や、イギリスのモデルでは機能せず、これらを調整することが必要であるとしている。また、目標を達成するためには、イギリスの首相としてではなく、理事会の議長として行動しなければならないとして訴えている(参照)。

 



(参照) Speech by Prime Minister Tony Blair to Eurpean Parliament, 23 June 2005 (EU理事会議長国の公式サイト)

Speech by Prime Minster Jean-Claude Juncker to European Parliament, 22 June 2005 (EU理事会議長国の公式サイト)

Die Welt v. 24. Juni 2005 (Die Wut verraucht)

Die Presse v. 24. Juni 2005 (Antrittsrede von Blair)

Der Standard v. 23. Juni 2005 (Reaktion: "Welcome to the Club, Tony!")








英国流「欧州統合懐疑論」の再燃か

Blair 首相の描く「ヨーロッパ」

EU理事会議長国、イギリス



(2005年7月1日)